【真相】なぜ日本では「正しい栄養学」が軽視されるのか

2020/3/28
ハーバード大学で栄養学を学んだ満尾正医師は「日本の栄養学はアメリカに比べて半世紀遅れている」と指摘する。
その真意を紐解けば、日本の医療を巡る根深い問題にまで突き刺さる。なぜ日本の栄養学は“半世紀遅れている”のか? 

アメリカ医学界の常識

──著書のなかで、ハーバード大学時代の恩師が「栄養学は医学のすべての分野に共通する基盤である」と語っていたとあります。
満尾先生 外科代謝栄養研究室のトップだったウィルモア教授の言葉です。
アミノ酸の一種であるグルタミンの研究で世界的に知られた権威で、成長ホルモンとグルタミンを合わせて使用することで小腸粘膜を増殖できるという、当時最先端の研究をされていました。
ここで象徴的なのが、ウィルモア教授は外科医だったという点です。外科医といえば“奇跡のメス”といったように手術の腕がモノを言う職人の世界をイメージするかもしれません。実際、私は渡米する前、救急救命医として勤務していましたが、「胃の切除は3時間以上かかっちゃいけない」と言われるような世界でした。
しかし、医療は「切って縫ったらおしまい」では済みません。術後感染症などトラブルはつきものです。特に救急救命での重症患者の治療においては、以前のような健康体に戻ることができた患者はごく一部でした。
そこで'80年代から、手術前に栄養状態を上げておくと術後の経過が良好になる、コンプリケーション(合併症)のリスクも減るのではないかという研究がアメリカでは盛んに行われるようになりました。
たとえば、胃がん患者の栄養状態が落ちていた場合、「中心静脈栄養」といって手術前に中心静脈という心臓の横の太い血管に栄養剤を点滴することで体力と免疫力を上げておくと、術後のリスクを減らすことができる。
そうした研究成果が、私の渡米した'90年代後半にはすでに米医学界の常識となっていました。
満尾 正(みつお ただし) 医学博士。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設
──かたや日本は、まだ「切って縫っておしまい」のままだと。
'80年代以前、つまり半世紀前から変わっていません。