地方創生が声高に叫ばれて久しいが、どの地域もそれぞれの課題を抱えている。どんな地域にも当てはまる万能な策を探すのは困難だからこそ、各地の特色に合わせた具体的な実施例からヒントを探すことが重要だ。
本連載では、地方自治体に加えて企業が積極的に介入した会津若松市での事例を書籍『SmartCity 5.0』から紹介する。

#1 地方から若者が流出する理由は「古い産業政策」にある【全4回連載】
#2 【窓口デジタル化】「市民参加率30%」を目指し社会実装のスピードを上げる
※本連載は全4回続きます

行政や企業の変革条件

IoT(モノのインターネット)の進展により、多種多様なモノ同士がつながるコネクテッドの時代が到来しつつある。この時代のつながりは、特定企業の製品・サービスと利用者という、限られたモノや人を対象にした従来のクローズドなつながりとは大きく異なる。業種やメーカーの垣根を越えてAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の標準化が進み、あらゆるモノやデータが共通のIoTプラットフォームとつながっていくからだ。
そして、プラットフォームに蓄積されたさまざまなデータを分析することで、チャネルも形式も異なる情報の間に関連性を見つけ出し、これまでにない新次元のサービスが創出されていく。
デジタルシフトが加速する社会環境において、行政や企業が自らも変化していくためには何を手放し、何を決断すべきか。本書では「創造的破壊を恐れずにあえて壊す」ことを掲げたい。
例えば、地方は都市部と比べインフラ整備に後れを取っているが、組織の既得権益は小さく、変化に対応しやすい状況にある。「遅れていること」がむしろ地方のアドバンテージになるのだ。会津若松をはじめとする地方都市は「超スマート社会」の先行事例になる可能性を秘めている。
その第一歩、「創造的破壊」変革の4つの要件を説明する。
①慣習である「自社だけ」ビジネスモデルの限界
②アンバンドル(切り離し)の決断
③市民目線に立ったサービス本位のコラボレーション
④リバンドル(再構築)ビジネスモデルへの移行

①慣習である「自社だけ」ビジネスモデルの限界

政府は2017年、「コネクテッド・インダストリーズ」や「Society5.0」と呼ぶ将来像に向けて、「未来投資戦略2017」および「経済財政運営の基本方針2017」を閣議決定した。
「Society5.0で実現する社会は、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。

また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。

社会の変革を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会ひとり一人が快適で活躍できる社会となります」
第3次産業革命や高度なデジタル技術によって品質の向上と多品種少量生産や短納期を実現したが、これまでの技術革新のほとんどは、企業や組織内に限定されたものだった。
コネクテッド・インダストリーズやSociety5.0では、イノベーションを企業や組織の外側、都市や社会へと広げていくことになる。会津若松市が取り組んでいる市民主導型のスマートシティプロジェクトは、まさにそのものであると言えよう。スマートシティを実現し、多岐にわたる市民生活を根本から変えて市民主導型のスマートシティを実現するためには、さまざまなステークホルダーのオープンな連携が不可欠だ。
具体的な事例として、「エネルギー見える化プロジェクト」について取り上げる。

特定メーカーに依存しないHEMSネットワークを構築

「HEMS(ヘムス)」とは、Home Energy Management Service(ホーム・ エネルギー・マネジメント・システム)の略。家庭内で使用している電気機器の使用量や稼働状況をモニター画面などで「見える化」し、電気の使用状況を把握することで、消費者が自らエネルギーを管理するシステムだ。
会津若松市は2012年、総務省の「スマートグリッド通信インタフェース導入事業」の採択を受けて「エネルギー見える化プロジェクト」を実施した。
この最大の特長は複数のHEMSメーカーに、データ連携用APIの公開とHEMSの単体納入を依頼し、特定メーカーに依存しないオープンAPIを開発したことである。
APIとは「Application Programming Interface」の略で、ある1つの機能に特化したプログラムで共有可能なもの・ソフトウェアの機能を共有する仕組みを指す。
プロジェクト開始当初、各メーカーが提案するHEMSは、いずれもバンドルモデルのサービスであった。HEMS導入を推進し省エネ社会へ導くプロジェクトに位置付けつつも、そこから得られたデータは自社のマーケティングに生かそうという狙いから、他社にデータを渡すなどということを想定していなかったのだ。
しかし、会津若松市が目指すのは「地域社会のためのデータ活用(省エネによるCO2排出量の削減)」であり、地域全体の電力データが必要だ。各家庭に設置されたHEMSが持つデータは、会津地域スマートシティ推進協議会が整備したエネルギークラウドに直接集められる。
だからこそ本プロジェクトでは、特定メーカーに収束・付随(バンドル)するサービスをつなぎ合わせるのではなく、複数のメーカーに協力してもらい、各メーカーの製品・サービスを切り離し(アンバンドル)したうえで最適なモジュールで再構築(リバンドル)したシステムを構築するという日本初のモデルを採用した。
これにより、異なるHEMSを使用していても地域全体でデータをリアルタイムに見える化できたのである。

②アンバンドル(切り離し)の決断

総務省で採択された会津若松市のスマートエネルギープロジェクトだが、参加を断念した企業も複数あった。
「HEMSは製品にバンドルされており、HEMS単体やデータ連携用APIだけの提供はできない」という理由から、一括して提供されていた自社サービスを解体・細分化した提供を決断できなかったのだ。
特に大手企業の場合、自社の製品・サービスがカバーできるシステム領域を広げ、すべてを自社製品で提供することを強みの一つにしている。そのためモジュール単位での提供を積極的に推進することが難しい。
一方で、アンバンドルを決断してプロジェクトに参加したメーカーは、リアルタイムな情報のフィードバックが市民の行動変容に影響する結果を目の当たりにし、地域社会におけるデータ活用の意義とスマートシティ全般に対する理解を深めた。
スマートシティプロジェクトを推進するとき、イノベーションはオープンな環境でしか起こらないということを再認識する必要がある。この「一度壊して再構築する」という決断は、今後のビジネスにも大きな価値をもたらすはずだ。

③市民目線に立ったサービス本位のコラボレーション

切り離しを決断したら、次に重要になるのがサービス本位のコラボレーションである。自社だけでサービスが成立するとしても、他社を含めたあらゆる製品・サービスを検討したうえで、ユーザー(市民)と市場にとって最適なサービスを実現するための選択と決断が必要だ。
従来、日本の製造業の多くは、モノづくりにこだわったプロダクトありきのビジネスモデルを採用してきた。そのため、サービス本位のコラボレーションは、あまり浸透していない。
一方で、欧米などでは「Airbnb」や「uber」などのシェアリングエコノミーモデルを採用する新たなビジネスの成長が著しい。これらは既存のビジネスを利用者目線でとらえなおし、「宿泊」「移動」などの機能を再構築(リバンドル)したビジネスモデルである。
現在では、日本でも大手家電メーカーが自動運転事業に参入するなど、リバンドルによる新たなビジネスづくりがはじまりつつある。最適なコラボレーションモデルに重要なのは、利用者や市場サイドに軸足を置くことだ。

④リバンドル(再構築)ビジネスモデルへの移行

再構築(リバンドル)に重要なのは、関係する組織間の相互運用性を利用者に保証し、柔軟に維持できる運用体制を確立することだ。共同事業体を構築してもいいし、明確な相互運用ガバナンスを構築・維持できるのであればアライアンスでも構わない。
「最適なサービスの構築」という共通目的のもと、コラボレーションでは企業規模や地域といったサービスそのものに関係しない問題を徹底的に排除し、自らの既得権益を手放し、俯瞰して検討することが重要である。
会津若松市のスマートシティプロジェクトには、市と会津大学、製造業の事業者、エネルギー事業者、医療機関などに加え、ICTを中心とするおよそ40団体が参画している。産学官のコラボレーション体制もまた、実証事業を通じてアンバンドルとリバンドルを繰り返している。
スマートシティをはじめとするSociety5.0は、既存組織が既得権益を手放してアンバンドルし、イノベーションによってサービス本位のコラボレーションとリバンドルが実現したときにこそ成就すると考えられる。
※本連載は全4回続きます
本記事は『SmartCity 5.0 地方創生を加速する都市OS』(海老原城一、中村彰二朗〔著〕、インプレス)の転載である。
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