2020/3/17

なぜ、あなたの「やりたいこと」は伝わらないのか

NewsPicks+d 編集者

大企業勤務、入社5年目若手社員の思いと悩み

大企業の若手社員は大きく2つのタイプに分かれると思っています。
まずは安定志向の方々。とりあえず会社は安定してるし、楽しく仕事ができそうだと思っている。一方で、大企業ならではのダイナミックな仕事を通してスキルアップや自己成長ができると思って入ってきた成長志向層の方々がいます。
特にモヤモヤしているのは後者のほう。様々な場でお悩みについてお伺いすることがあります。
大企業というと、「過去の成功体験から離れられない」「ステークホルダーが多くて調整が大変。スピードも遅い」といったイメージをもつ方もいます。あるいは、自身が大企業にいて、こうした課題感を抱いている方も。
日系一部上場企業でマーケティングに従事した後、MBA取得。米系コンサルティングファームでの活動を経てグロービス代表室に参画し、社長直轄特命案件のプロジェクトマネジャーとして複数プロジェクトを牽引。現在はEdTech新規事業部門にて「GLOBIS学び放題/GLOBIS Unlimited」統合事業リードを始めとし、複数の事業の責任者を務める。MBA・ビジネススクール・企業研修において経営戦略・マーケティング領域の講師として登壇。
最近は人材不足、ティール型組織の流行、働き方改革の影響を受け、会社員に対して「優しい会社組織」に変わりつつあるようですが、中には体育会系トップダウンの風潮が根強い働き方もまだあると聞きます。
大企業ゆえの成功の歴史も残っているため、成功体験を積んだ人たちが幹部層にいると、なかなかそのDNAは抜けていかない。
一方、その文化に適応し、働くことへのコミットメントが高い20代の方も多く見受けられます。最近、お客様の接待に毎日深夜までつき合うこともあるという、国内有数の製造業大手に勤める入社5年目のビジネスパーソンの話を聞きました。
一緒に過ごす時間が長く、会社の仲間が家族のような関係になる。毎日社歌を歌う伝統的なカルチャーながら、会社や仲間のことは大好きとのことでした。
成長志向層の優秀な方々でも、自分の会社のことが嫌いかというと、決してそんなことはない。ただ、自分がやりたい仕事があったとしても、大企業ならではの壁があり、すぐにチャンスを掴めるわけではないという悩みはある。
そして、そういった方々がスタートアップやベンチャーで活躍する同世代と会うと、自分のやりたい仕事をしているように、キラキラして見える──。
それに対して自分は「大企業ってイケてないよね」と思われていると疑心暗鬼になったり、社内の出来のいい同期がスタートアップやベンチャーに引き抜かれていくと、自分に対する自信が揺らいでいく。
こうした経験をすると、「そもそも自分はなぜこの会社にいるのだろうか」と思う若手も少なくないようです。
そんな中で、この組織に染まっていくのか、辞めるのか。それとも変えていくのか。どの道を取るにせよ、ポジティブにその意思決定を進めたい人が増えているのは事実です。
そのために自主的にイベントを開催し、刺激を与えてくれそうな人を呼んでセッションをやっている大企業もあります。私も先日、大手通信会社の有志ネットワークのイベントに登壇させて頂きました。
私自身、多くの大企業のビジネスパーソンの方々と接する中で、大企業ならではの仕事のダイナミクスを感じることは多々あります。
また、若手層からだと見えにくいかもしれませんが、大企業ならではの経営リソースを活かした機会も多くあるかと思います。ただし、それを効果的に掴み取ることができるか否かということについては、多くの方があまり考えていないように見受けられます。
今回は、私が担当している「GLOBIS学び放題」という、4200本以上の動画からビジネスナレッジが学べるサービスの中で紹介している「マーケティング(基本編)」のコースの内容を応用しながら、考えていきたいと思います。

自分の「やりたいこと」を起点に戦略を考える

自分がやりたいことを成し遂げるために、まず戦略を考えます。今回の「戦略を考える」というパートでは、伝統的なマーケティングの考え方が応用できます。
仕事では顧客に製品やサービスを買っていただくために、多くの企業がマーケティングの戦略を用いますが、自分が機会をつかむためにこの考え方を応用する人は、あまり多くないようです。
最初に、「組織の中でどのような機会を掴みたいのか」を定義します。
自分が何をやりたいか、どうなりたいか、そのためにこの組織の中でどんな機会を得たいのか。
自分自身のキャリアのゴールから逆算して、今の組織の中で得たい機会を定義することができれば理想的ですが、難しければもっと身近な事例に引き寄せても構いません。
新規事業の責任者を目指し、その領域に近い関連部門への異動を狙うでもいいですし、ライフプランのタイミングで育休を取るでもよいかと思います。
組織の中で得たい機会が定まったら、セグメンテーション&ターゲティングを用いて考えてみましょう。意思決定者は誰で、誰の協力があればその機会は掴めそうなのかを把握し、意思決定のプロセスを確認します。
たとえば新たな成長機会を求めて異動を希望する場合には、その異動の意思決定者は誰なのかを考えます。
意思決定権者は異動希望者に何を求めているのか、自社の経営状況をもとに自分で想像して考えてみるのです。可能なら「どういう要件が必要でしょうか」と聞いてみる。あるいは異動希望部署の人たちにヒヤリングをするのも手です。

「プロダクト」としての自分を構築する

次に「ポジショニング」の話です。
意思決定者の頭の中で、自分が異動にフィットする人だと思ってもらう必要があります。そのためには、その人がどんなニーズをもっているのか、まず分析します。
たとえば、大企業で5年くらい働いて、海外戦略部門に行きたかった私の場合、意思決定者は事業部長。事業部長はどんな人を欲しているかを考えました。当然、戦略構築ができて、英語が使える人材がよい。
しかし、この二軸を満たした競合は700人の事業部の中では片手に収まるほどでした。この軸で競合する人は当然各部門でも活躍しており、全員が異動希望を出すかというと、その可能性は低い。
「戦略構築ができ、英語が使える」という意思決定者のニーズを加味した上で、自分の強みによって二軸をつくることができれば、ポジショニングを使う意義があるといえます。
自分の強みを把握した上で、意思決定者に対して適切に働きかけることができた結果、異動が叶いました。「プロダクト」としての自分を構築できたということです。
実現可能性の線引きは、「時間軸をどう置くか」によると思います。異動したいレベル感と、新規事業を子会社化して社長になりたいレベル感は違います。何を目指すかによって時間は変わってくるので、時間軸が長いときにはブレイクダウンしていく必要があります。
今、30歳で係長の人が50代後半で社長を目指すとしたら、たとえば3~5年以内に一つ上のポジションを目指すなど、その間のショートステップを刻んでいくべきです。
マーケティング視点でアクションプランを考えるとき、ポジショニングまでがマーケティング戦略部分、4Pは実行部分といわれています。ここはアクションプランがきちんと洗い出されていれば(参考にはしていただきつつも)4Pにこだわる必要はありません。
自分自身をどうしていくかの話なので、プロダクトに関しては自分に置き換えて考えていくことになります。
4Pのうちのプレイス・プロモーションは、誰に対してどう伝えたいのか、ということです。ポジショニングで築き上げたものをプロダクトとして構築し、かつそれをターゲットに対してきちんと伝えることを考えましょう。

日ごろから「信頼残高」を積み上げる努力を

次は“伝える”ためのコツについてお話しします。
「『自分の仕事はこの範囲だ』と制限をかけ、他の仕事を受けたがらない若手が、組織の中で信頼を得ず、なおかつ本人もそのことに気づけていない」と、ある大手ゲーム会社の方がぼやいていました。
大手に就職できたという成功体験が気持ちに余裕をつくってしまい、中期的には自身のチャンスを組織で掴みにくいマインドセットを醸成してしまっているのかもしれません。
私の所属するグロービスでは「信頼残高」という言葉を使っています。
ある組織に新しく入ったとき、その人の言うことを誰かがすぐ聞いてくれるかというと、なかなかそうはいきません。周りの人とコミュニケーションを取りながら、あの人なら大丈夫という信頼残高を積み上げていかないと、他の人たちからの協力は得られないでしょう。
どんなに厳しい仕事や困難があったとしても、コロコロと言うことややることを変えないで、コミットしたことは一定期間逃げずにやり切ろうとすることは、信頼残高を貯める上で大事なプロセスです。
意外とこのことができない人は若手中堅問わず多く、「なぜ自分が言うことを聞き入れてもらえないのか」と壁にぶつかっている人も多いようです。
彼らが信頼残高を積んでいくには、やりたいことや決められたことだけではなく、周囲のメンバーを助け、自分の仕事の範囲を少しずつ広げながら、少しずつ役に立ち信頼を得ていくことが必要になると思います。
出所:GLOBIS学び放題「パワーと影響力」

経営理論を自身の戦略に活かし、社会に還元する

2020年1月、あるイベントに登壇するため、「自分自身のキャリアを考えるために経営理論を使うことができないか」と考えていたとき、ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・M・クリステンセンが亡くなったことを知りました。
彼が2010年、ハーバード・ビジネススクールで受け持つ講義の最終日に、その年の卒業生全員に向けて行った授業が『イノベーション・オブ・ライフ』として書籍化されています。
これは彼が研究し、教えてきた経営理論の話ではなく、「経営理論を自分自身に当てはめるとどんな学びがあったのか」という内容。これは私にとってかなりのインパクトがありました。
現代広く使われている経営理論は長年の議論に耐えた洗練された考え方であり、私たちはそれを仕事をうまく運ぶために使っている。しかし、本来自分たちがもっと重要視している「自分たちの人生」に置き換え、自分自身の戦略を考えることがあってもいいと示唆していました。
自分のやりたいことが他の人からも共感を得やすいものだとしたら、自分の中に閉じたものではなくて、複数の人の間で共有できる理念になっていくと思います。
忙しい日々かもしれませんが、私たちが提供する「GLOBIS学び放題」では1動画3分で、体系的な経営知を学ぶことができます。
「GLOBIS学び放題」で経営知を学び、行動に移してもらえれば、自分が変わり、会社も変わる。会社が変われば社会も変わっていく。自分が波紋の中心となる存在であることをもっと信じていいと思います。