【真山仁】我々は一体どこまで「命」を作るのか?

2020/4/14
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントを紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、小説家の真山仁さんだ。
累計260万部を誇る小説『ハゲタカ』シリーズの作者は、今年2月29日に新著『神域』(毎日新聞出版)を上梓(じょうし)。作品テーマとして初めて「医療」を選んだ。
「再生医療は救世主か?」という大テーマを掲げて、アルツハイマー病を治す「奇跡の細胞」の開発競争を描く。
万能細胞を研究する科学者の葛藤、失踪高齢者の死体遺棄事件、バイオ医薬のビジネスを巡る日米政府の駆け引き、実力者の不老不死への欲望──。
『神域』は、さまざまな思惑や出来事が錯綜する壮大なサスペンスだ。
一方、現実社会では、くしくも昨年末、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)のiPS細胞の備蓄事業に対して、政府が支援の打ち切りを検討していたことが明るみに出た。こうした一連の出来事に迫った、NewsPicksのオリジナル特集「iPSの失敗」も話題を集めた。
ベストセラー作家は、まるで世の中の注目がまた再生医療に来ることを予言していたかのように、以前から再生医療についての取材を続け、小説に仕立てあげた。
初回の今回(全3回)は、真山仁さんに新作に込めた思いを聞く。

始まりはノーベル賞の「違和感」

──医療を作品のテーマにするのは、今回が初めてです。なぜ医療、しかも再生医療というテーマで小説を書こうと思ったのでしょうか。
真山 私は、一つの作品を書く前に、2~3年かけて取材や資料集めを行い、準備をします。
今回の作品については、「日本の研究者が世界でブレークスルーできないのはなぜなのか」ということについて、ずっと疑問を抱いていたことが始まりです。
真山仁(まやま・じん)小説家
1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業し、中部読売新聞(のち読売新聞中部支社)入社。その後、フリーライターを経て、2004年『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)でデビュー。『ハゲタカ』シリーズをはじめ著書多数。近著に『オペレーションZ』(新潮社)、『シンドローム上・下』(講談社)、『トリガー上・下』(KADOKAWA)など(写真:竹井俊晴)
特に、生命科学の分野に注目していた矢先、2014年に、小保方晴子さんのSTAP細胞事件が起きました。
事件そのものよりも、その背景にある研究者たちの矜持(きょうじ)や置かれている環境に関心が向きました。
──今回の作品では主人公が万能細胞の研究者です。この作品の背景には、小保方さんの事件以外にも、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授が作ったiPS細胞(人工多能性幹細胞)もありますね。