【UPDATE関西特別編】WESTが日本経済を牽引するために必要なことは?

2020/3/24
NewsPicksの経済情報番組「The UPDATE」関西特別編として佐々木紀彦をMCに、4人のゲストを招いて熱い議論を繰り広げた。関西はいかにして日本経済の覇権を奪取できるのか?さまざまな観点から今の関西を語り合った。
京都大学卒業後帝人に入社。三井銀行(現三井住友銀行)に入行しM&Aを担当後、98年に独立系投資ファンドのユニゾン・キャピタル共同設立、代表取締役パートナー、04年一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、05年同教授、04年GCA株式会社共同設立代表取締役、07年インテグラル株式会社共同設立、08年同代表取締役、15年よりスカイマーク代表取締役会長を務め、19年11月より同取締役会長。
2002年キャリアデザインセンター入社。3年目に当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職、人材業界担当統括部長を歴任。「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。その後株式会社お金のデザインを経てPlug and Play Japan株式会社にてマーケティング/PRを担当。
1990年生まれ。大阪府出身。高校生の頃から、国際NGOの立ち上げを行うなど国内外の貧困問題に関わる。立命館大学国際関係学部在学中にインターネットスタートアップの株式会社Campusを創業。10以上の事業を立ち上げ、月間ユーザー数400万人を達成する。2017年にBaseconnect株式会社を創業。「世界中のデータを繋げることで、ダイレクトに必要な情報にアクセスできる世界を作る」ことを目的に事業を行う。リリースした企業情報データベースの利用社数はリリースから2年で3万社を超える。
作家。1946年長野県生まれ。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞。小泉首相の下で道路公団民営化を成し遂げ、07年に石原都知事より副知事に任命され、12年東京都知事に就任。2020東京五輪招致に成功した。13年同辞任。現在、15年より大阪府市特別顧問。
司会 佐々木紀彦(The UPDATE MC)

関西の現状とゲストからの4つの提言

佐々木 今日は「The UPDATE」の特別版をここで開催させていただきます。
 関西が日本経済を牽引するために必要なことは何なのか、ということをテーマにゲストの皆さんと議論していきたいと思います。
 まずは、関西経済の実情に関しておさえておきたいと思います。
 日本のGDPにおいて、かつて万博が開催された1970年には関西が占める割合は20パーセントを超えていました。その後は右肩下がりで、現在では16パーセントぐらいといったところが実情です。
 次に会社の本社機能がどんどん関西から流出している。1986年を100とした場合、全国的には86パーセント減っていて、特に大阪府、大阪市に限ってみると、全国平均から、さらに24パーセントも減っているという状況になっています。
 そして、大学新卒者の流出問題。同地就職率でみれば、関西の大学を出ても関西以外の土地に就職してしまう人たちが多いというのが現状です。
 法人の新設数、スタートアップという指標で見ても、東京の約4分の1で勢いがない。
 ただ、世界で最も住みやすい都市ランキングでは、大阪は東京を上回るレベルで、大阪は住みやすいわけです。
 大阪の皆さんは大阪に非常にプライドを持っていて、しかも豊かである。
 今後も北梅田の再開発事業や、2025年の大阪万博の開催で、話題はてんこ盛りであるわけです。
 今日は、今後の大阪、関西のポテンシャル、そしてその向上に必要な事とは何かというテーマで議論していきたいと思います。
 それではゲストの皆さんに、これからどうやって関西を牽引していくのが良いかについて提言をいただきたいと思います。

「別の世界に」(藤本あゆみ)

藤本 京都に拠点を作りまして、京都のスタートアップ、京都の会社、そして、京都に世界から来るスタートアップを支援しているんですが、ほとんどの人が東京と比較してしまうんです。
 東京はこうだから京都をこうしたいとか、関西を東京と比べてこうしたいって言うんですけど、すごいもったいない。東京ではなく、世界と比較して関西がどうという話をするべきじゃないかなといつも思っています。

「関西へ人の流れを増やす」(佐山展生)

佐山 地域の活性化というのは、人が沢山流れ込んで来るようにすることだと思うんです。その点、関西には、関西、伊丹、神戸、と空港が3つある。それにプラスして新幹線もある。
 例えば、神戸空港はすごく便利です。もし神戸空港と新神戸駅を直結できたら、新幹線沿線の人も神戸空港に来ます。飛行機で神戸空港に来た人もすぐに新幹線乗れます。神戸は海外の窓口になれるポテンシャルを持っているんです。

「東京に対抗できる大阪を」(猪瀬直樹)

猪瀬 まず大阪都になる。東京都に対する大阪都。東京都は23区と多摩地区が一元化された世界で、要するに昔は東京府と東京市だった。東京都になって多くのものが一元化された。大阪もそうなれば、消防とか、水道とか、機動力を備えた大きな組織になる。
 先日の集中豪雨で千葉県がおたおたしてたのは、千葉県が実質市町村レベルの分散した組織だったから。対して東京都の消防は1万8000人規模の大軍団なんです。
 大きな組織になれば、東日本大震災のような大規模な災害が西日本で起こってもすぐに大軍団が救援に出勤できる。大阪には本来その潜在力あるんです。
 首都である東京に何かあったときに、副首都としての大阪がバックアップする。一元化して、東に東京都、西に大阪都として日本全体をカバーするべきなんです。

「関西のスタートアップからのノウハウのような、世界を牽引するような企業が生まれること」(國重侑輝)

國重 シリコンバレーがなぜアメリカ経済を牽引してきたかというとAppleがあったり、Googleがあったりする。東京もなぜ日本の経済を牽引してるかといえば、やはり大企業のほとんどが東京に集中しているからです。
 だから、偉大な会社を関西からどんどん作っていくべきなんです。
佐々木 なぜ関西はスタートアップも含めて地盤沈下していると言われているんでしょうか?
藤本 ひとつの理由として事例が少ない。スタートアップをやろうとしている人、実際にやっている人が少ない。
 でもこれからはもっと増えていくと思います。まだまだ可能性に満ちていると思います。
佐山 やはり人が多いほうが、すぐに人脈が繋がりますからね。そういう意味では東京は楽ですね。関西でも京都は全然沈没してないですよ。強い企業がいっぱいあります。
 大阪に元気がないというより、大阪の企業が東京に本社を移転してしまったのが大きいですね。東京に本社を置いた方が便利だとなったわけですね。
 しかし、これからは東京と地方にふたつの拠点があっても全然おかしくない。世の中何が起こるか分かんないですから。そういう見直しをしていけば、当然東京に次ぐ候補地は大阪となるでしょうね。
佐々木 GAFAのような大きな企業が大阪からスタートアップする可能性はあるんでしょうか。東京にない関西の強みって何だと思われますか?
國重 東京でやるほうが正直言って環境も整ってるし、人も採用できる。まずひとつ事例をつくることが先決ですね。大きな会社をつくって、そこから何ができるかだと思います。
佐山 大阪は住みやすい土地ですし、東京より安いし一応何でも揃っている、環境は良いんですよ。
 これからは東京にいなくても仕事ができるようになる時代になると思います。そういう意味でも大阪はこれからどんどん大きくなっても全然おかしくない。見方によっては、住みやすさが東京と全然違うんですから。
藤本 京都の拠点をつくって分かったんですが、横のつながりがなくて孤軍奮闘しています。それが繋がっていったら、ものすごい大きな力になるんじゃないかなと思いますね。
佐山 そういう観点では、京都と神戸は人がかなり繋がっている。それに比べると、大阪はちょっと広いから繋がるのは、なかなか難しいですね。
 でも大阪の良いところは、話が早いということです。私の経験では、商売になる、ならないの意思決定が一番早いのが大阪なんです。
 そういう意味では大阪は潜在的なポテンシャルがあるんですよ。

東京に対抗できる関西のウリとは?

佐々木 「東京に対抗できる大阪を」と提言された猪瀬さんは、関西は経済面で何をしたら良いと思われてますか?
猪瀬 東京には政府があって、いわば官の都なんだよ、官都。大阪はそれに対して民の都、民都です。官には頼らない。
 淀屋橋は淀屋さんが寄付して、道頓堀は道頓さんが寄付して、大阪城の再建は昭和初期のクラウドファンディングなんだよね。つまり民間の力が大阪をつくりあげてきた伝統がある。
 江戸時代から新しいことのほとんどは大阪で起きた。江戸時代、先物取引も大阪が世界初だった。今の世界の潮流はフィランソロピーという流れで、政府の力じゃなく、民間が社会を変えてくという力。外国ではそれが今主流になってきている。
 ザッカーバーグが5兆円をポンと寄付する。国を通さずに直接分配するという発想です。大阪はそれを昔からやっていたんです。そういう意味で、大阪の伝統は今を先取りしていた。
 実際に先ごろ、フィランソロピー都市宣言を大阪はしているんですね。世界のフィランソロピー都市会議というのを大阪で今度開催することにもなっています。
佐々木 関西の民間の活力って國重さんはどう感じていますか?
國重 関西は商売の街。その意味での活気とかつながりはあると思うんですが、実態ベースとして東京にそれが及ぶかというと、経済規模は東京の半分ぐらいなのにベンチャーとかスタートアップの数では10分の1もないような状況で。そこは東京に比べて活気はないというのが実感です。
佐々木 そういった現状を踏まえて、スタートアップの旗手としては、どう関西を引き上げていこうと考えられていますか?
國重 とにかく大きな挑戦をやって、ロールモデルになれたらいいなと思っています。
 関西の経営者と話していると、「ベンチャーキャピタルに心を売ったのか」といった精神論に終始してしまう。そういった保守的で黒字大好きみたいな感覚を変えていきたいなとは思います。
佐々木 Plug and Playは世界と日本のスタートアップをつないで、スタートアップを育成する機関じゃないですか。なぜ京都につくって関西を盛り上げようとしているんですか?
藤本 ひとつは京都市のバックアップがあったこと、そして金融機関さんの支援です。
 京都の企業と国内外のスタートアップをつないだり、京都から世界にスタートアップを進出させたいというお話をいただいたという経緯があります。
 やはり、誰かがスタートするのを待っているだけじゃなくて、実際にやるということが重要だと思います。
佐山 現在、関東と関西の移動を考えると、伊丹空港は、午前7時から午後9時まで、新幹線は朝の6時から24時までという規制があります。今のところ、東京で何かの夜の会合があったとすると、泊まらないといけない。
 もし神戸空港が24時間稼働したら、羽田空港は24時間稼働ですから、全て日帰りで関西と関東を行き来できるようになります。
 アメリカでは、企業の本社があちこちに点在してる。それは、それぞれの州が誘致して税器などの優遇をしているんです。
 大阪を副都心にして法人に対して税制優遇できれば、本社を関西に移すことも考えてくれると思います。しかしこれは民間だけじゃできない。政府のバックアップが必要なんです。
佐々木 24時間空港を開けるのって規制的にかなりハードル高いんですか?そこ猪瀬さんがお詳しいと思うのですが、いかがですか?
猪瀬 神戸空港は神戸沖だから、騒音的には問題はないはずです。そもそも神戸に国際空港をつくる予定だった。それがいろいろあって潰されて、なんか知らないけどいろんな政治的な思惑があって、あんなに遠い場所に国際空港を作ってしまった。
佐山 関空もすでにかなりいっぱいだし、神戸空港の規制も7時から22時を23時までとか、便数も一日60便から80便と少し緩和されたけど、もっと規制をなくして24時間オッケーにすれば、関東と関西の人の流れだけでも全然違ってきますから。
 そこに流れてくる人が増える。流れてくる人が増えるってことは、関西地区で仕事をする人も増えるということですから。かなり影響大きいことだと思います。
猪瀬 さまざまな規制が撤廃されていけば、競争原理がはたらいて、新幹線の料金にも影響してくるはずなんだよね。それをしないのがおかしい。
佐山 新幹線に海外から飛んできた人が乗ろうと思ったら、どっかの空港に降り立たないといけないでしょ。神戸空港に降りれば18分で三宮ですからね。神戸空港からタクシーで20分ちょっとで新神戸ですよ。
こんな便利なとこにあるんですから、関西は世界への日本の窓口になり得るんですよ。海外から関西への人の流れがかなり増えると思います。
 しかし規制で今は神戸空港から海外には飛べない。これは関西の皆さんが声を上げないと変わらないと思います。
佐々木 移動の問題以外に、税制の優遇という提言もされていましたが、そこはどうですか。
佐山 企業が本社機能を関西においたときに、何らかの法人税の優遇があったら本社を関西に移転する動きが出るともいます。大企業の本社が移転すれば、それに伴って、多くの人が関西に流れてきます。関西全体が活性化します。
藤本 そうなれば、絶対に来ると思います。ビザが緩和されて税制優遇もあるとなれば、やらない理由はない。しかも空港もあって、全国にアクセスしやすいとなれば、別に東京である必要は全然ないなと思うんです。
猪瀬 それが大阪都構想で一元化して、いろんなことをスピーディーにやることのメリットなんだよ。
佐々木 そうなればスカイマークが神戸空港からバンバン国際線飛ばしまくったら良いんじゃないですか。
猪瀬 それができたら面白いね。関空は今インバウンドでどんどん伸びているし、神戸空港、関空と、伊丹の経営が一体化になったから、必然的に利益が上がる。
佐山 神戸空港の規制を緩和すると、他の2空港にしわ寄せがいくんじゃないかと思われてる方が一部おられるんですが、関西以外に行く人を関西に呼び込む話なんでね、みんなハッピーになるはずなんです。伊丹と関空への影響を見ながら規制緩和していくといいと思います。
猪瀬 全体を増やせば良いわけだからね。
佐山 そう、関西全体が増えるはずです。
猪瀬 万博でさらにインバウンドは増えるからね。東京オリンピックでまた増えた。あれは観光庁が増やしたんじゃなく、東京にオリンピックを持ってきたから増えたんだよ。
 当時、北京オリンピックとかロンドンオリンピックを見ていたら、これは確実にインバウンドでいけるなとなとなって招致したわけだから。オリンピックで終わっちゃうといけないから、そのあとに大阪万博があって、ますますインバウンドが増えてくということが望ましい。

2025年、大阪万博開催が大きなチャンス

佐々木 大阪万博は関西経済を変えていく良いきっかけになると思うんですが、どんなビジョンを持てば良いかという提言はありますか?
國重 万博が来たからすぐに売上が上がるわけではないけれど、お金が関西を巡ることによって、取引先が儲かって投資しやすくなったり、大企業でお金が余って、ファンドのお金がうちに回ってきたりと、お金がちゃんと回り始めることって大事だと思いますね。
猪瀬 やっぱり気持ちなんだよね、大事なのは。
 だから、オリンピックとか万博とか、そういう大きな物語があって、みんなが一生懸命仕事するとか、そういった祝祭文化みたいなのが必要だと思う。
 博多の山笠や、岸和田のだんじりでも、それがあるから一年を一生懸命に働くんですよね。そういう大きなお祭りが東京オリンピックと大阪万博で待っているんだから、もうちょっと頑張ろうとなってほしいね。
佐山 ラグビーワールドカップでも、初めて日本に来る人が結構多かったと思うんです。来て初めて分かることってあるでしょ。
 ラグビーは週末に試合があって1週間間空くので、その間に旅行をする人も多かったみたいです。来てみたら良いじゃないかと思ってもらえたら、また来ると思うんですよね。
 ですから大阪万博でできるだけたくさん外国の方に来てもらって、すぐに新幹線や飛行機乗って、いろんな所に行ってもらい、「日本って良いじゃないか」と思ってもらう機会を増やす。そういう意味でも、神戸空港で海外就航する意味は非常に大きいと思います。
佐々木 若い人たちにチャンスがあるという感覚はありますか?これだけ大学生がいるのに、かなりの比率の人たちが、みんな関西を出てしまいます。
國重 チャンスはあると思います。東京だと全然目立たなくても、関西だと目立ちやすく、結構応援してもらえる。関西はプレーヤーが少ないんで、そういう意味ではすごくチャンスはあると思いますね。
佐々木 どうして企業や学生が関西から出ていくんでしょう?
國重 京都で立ち上げたベンチャーとかスタートアップも、ちょっと成長するとみんな東京に行っちゃいますね。そもそも人が採れないとか、お金がないとか、ロジカルに考えるとやっぱり東京の方が良いよねというケースが多いと思います。
猪瀬 そもそもメディアがいけないんだよ。朝日新聞も毎日新聞も大阪で始まったのに東京に行っちゃった。東京支店が本社になっちゃったんだ。東京のメディアが東京の視点で情報がシェアされていくのが問題なんだと思いますね。
佐山 それと、やはり関西でビジネスすることの実質的なメリットですね。税制も含めた東京ではできないけど、関西だったらできるというメリットをもっと増やせばいい。
佐々木 ありがとうございました。では本日のキングオブコメントを発表させていただきます。一番印象に残ってるのは、「神戸空港から国際線を飛ばせ!」とおっしゃった佐山さんの言葉にします。
佐山 神戸空港の規制緩和が進めば、海外も含めすぐに飛ばしますから。
佐々木 期待してます。それではトロフィーを。猪瀬さんどうですか、最後に一言まとめてください。
猪瀬 大阪には、まだ解決されてないことがあるからこそ期待が持てる。東京はある程度出来上がってしまってるからね。
 大阪はこれから大阪都構想によって一元化が進んでいけば、すごいことになると思います。非効率な部分はなくなるし、で、サービスも良くなるしね。それから大阪の一体感も出てきます。そうすると、もっと求心力がある関西になってくと思います。
(執筆:石原 卓、編集:久川 桃子、デザイン:小鈴キリカ)