【始動】私たちの働き方を変える、人材マネジメント革命

2020/3/6
今、日本の人材マネジメントは大きな転換期を迎えている。企業において労働生産性の低下に抗うことが、喫緊の課題となっているからだ。

日本の経営、そして人材マネジメントはどう変わるべきか。この問いに解を与えるがごとく変革の先導者として2019年3月にマザーズ上場を果たした企業が株式会社カオナビだ。

顔写真で人材情報を把握できるクラウド人材管理ツール『カオナビ』を提供し、これまでに1500社以上の企業の経営を変革に導いてきた。カオナビは「経営者やマネジメント層が日々ログインする人材管理ツール」という独自性が躍進の理由だという。

そこで代表取締役社長 CEO 柳橋 仁機氏に、日本企業が抱える人材マネジメントの課題とこれから目指すべき未来の経営の在り方について聞いた。

生産性が低い原因は「製造業時代の成功体験」

私が起業したのは、「日本の人材マネジメントを変えたい」という思いからです。
きっかけは、前職の株式会社アイスタイルで人事部長を務めたときの体験でした。私がいた当時、同社は事業の急速な拡大に組織体制が追いつかず、人材マネジメントも機能していませんでした。
そのため社員からはネガティブな発言ばかりが聞かれ、離職率も高かった。私は人事部長として、この状況に責任を感じていました。
そんなとき、サイバーエージェントとジョイントベンチャーを立ち上げるプロジェクトに参画したことが転機になりました。
サイバーエージェントと一緒に仕事をして驚いたのは、社内に活気があって社員たちが非常に意欲的に働いていたこと。
自分の会社とはあまりに雰囲気が違うことにショックを受けました。
そこで人事の責任者に話を聞いてみると、上司と部下の1on1ミーティングを積極的に行ったり、若手を大胆に抜擢したりと、当時の日本企業としては斬新な取り組みをしていることがわかりました。
事業やビジネスモデルの良しあしはもちろん企業業績へのインパクトになりますが、もしかしたら人材マネジメントの良しあしが経営に与えるインパクトはそれ以上なのではないか。
つまり人材マネジメント=大きく会社を飛躍させる「重要な経営戦略」である、と気づいた原体験となったのです。
では、現在の人材マネジメントを日本全体で俯瞰して見るとどうか。そこには「労働生産性の低さ」という大きな課題があります。
1人あたりのGDPは、主要先進7カ国で日本は6位です。労働生産性が低くて、しかも人口は減少する。何もしなければ、日本は衰退するしかありません。
日本の労働生産性が低い原因は、製造業時代の成功体験にあります。
日本の高度成長期を支えたのは製造業でしたが、1990年代以降に経済を牽引する存在として飛躍してきたのが情報産業や金融産業などの非製造業です。
ところが日本は、今なお製造業モデルの成功体験を引きずった感覚で会社を経営している。人材マネジメントにおいても、製造業時代の成功モデルが根強く残っていると感じます。
製造業時代は生産設備が主役の時代。安定的な製品供給には個人の個性によって製品の出来が左右されることは当然ながら良しとされません。
今日のシフトが田中さんでも鈴木さんでも山田さんでも同じクオリティの仕事をすることが求められました。
一方、情報産業に生産設備はなく、「誰がやっても同じ」という仕事は存在しません。だから今の時代は、個を活かす努力をしないと生産性が上がらない。
同じ製品を大量に供給することが善の金太郎飴モデルから脱却し、「この人は対面コミュニケーションが得意」「この人は数値分析が得意」といった個性や才能を評価して適材適所で登用する。
その掛け合わせで1+1=2ではなく、「君の得意分野でチームの○○な部分が改善された。おかげで大幅な目標達成だ!」という状態を作る1×1=5のような組織マネジメントが求められるのです。

日本は人材を管理、アメリカは人材を活かす

日本よりも圧倒的に高い労働生産性を有する欧米諸国では、もともと個を活かそうとするカルチャーがあります。
分かりやすいのはアメリカで、若く飛び抜けた才能が出てくるとヒーローとして歓迎される。
でも日本は横並び文化で、出る杭を嫌う。だからどうしても個が埋没する企業文化になりやすい。
また、日本とアメリカを比較すると、企業の人事部が担う仕事も違います
日本の人事部の役割は、人材を「管理」すること。仕事も給与計算や勤怠管理、社会保険の手続きといったオペレーションが中心です。
日本では会社に社会保険料や税金の徴収義務が課されるため、必然的に労務に関する業務が多くなるという構造上の問題もあり、どうしても事務処理がメインとなります。
一方、アメリカの人事の仕事はオペレーションの比率が少なく、労務はほぼ経理の一部となっています。そして人事は、人材マネジメントや人材開発に集中する。
つまりアメリカの人事部は、人材を「活かす」のが役割ということ。「個」を活かすプロフェッショナル職が存在するわけです。ここに両国の明確な差がある。
ただ、私は決して日本の人事部が悪いと言いたいのではありません。結局、組織は経営層の考え方ですべてが決まります
経営層に個を活かすという意識がなければ、組織全体が人材の管理を重視するようになるのも仕方ありません。
しかしその結果、働く人たちは自分の適性から外れたつまらない仕事を強要され、モチベーションを低下させていく。
これでは労働生産性が上がらなくて当然です。
また日本には長時間労働を美徳とする文化があるのも問題です。
徹夜した部下がいたら、上司は「よく頑張ったな」と褒める。上に立つ者がそんな価値観を持っていたら、周囲は「長く働けば評価される」と考えて労働時間は増える一方です。
それに対し、アメリカを始めとした欧米諸国では短時間で要領よく働く人が優秀と評価される。日本も「長く働くのは仕事ができない人」と定義しなければ、労働時間は減らせません。
「俺の若い頃は毎日終電で帰るのが当たり前だったぞ」などと自慢する上司こそが、日本の労働生産性を低下させていると自覚すべきです。
人口が減っている国で、量に価値が出ることはありません。「量」で勝負しても、人口の多い中国に10倍以上の差で負けるだけ。
だから日本は「質」で価値を生み出すしかない。そのためには長時間労働から脱却し、労働生産性を高めなくてはいけないことは明らかです。

企業と個人は相互「拘束」関係から相互「選択」関係へ

これからは企業と個人の関わり方も変わる必要があります。製造業時代、企業と個人は相互「拘束」関係でした。
会社は社員に終身雇用を保証する。その代わり、社員は滅私奉公で会社に一生尽くす。
会社が量を確保するには、「君たちの生活は守るから、言われた通りに働け」という手法がラクだったからです。
しかし量で勝負できなくなった今、「企業は個人を選び、個人も企業を選ぶ」という相互「選択」関係にシフトすべきです。
会社に忠誠を誓うなんて過去の話で、個人は自分を活かせる場所を自由に選べばいい。個人を活かさない会社は選ばれないので、企業は個性や能力を活かす努力をする。
誰もが自分の強みを活かして質で価値を生み出すようになれば、量を増やすために長時間労働で個人が自分の生活や時間を犠牲にすることもなくなります。
企業と個人がお互いに個を活かし、選び合うことで、働く人たちが幸せになれる時代がやってきます。
相互拘束関係から相互選択関係へ切り替えるには、やはり経営層の考え方を変えることが必要です。
いくら社員が優秀でも、経営層の意識がアップデートされなければ組織は旧態依然のままだからです。
組織を変えるには、経営層にアプローチすることが最もレバレッジが利く作用点になる
だからカオナビは、日本の経営層の行動様式を変えることで日本の生産性や働き方を変えていきます
私たちが提供する『カオナビ』は、個を活かして人材配置を最適化するクラウド人材管理ツール。経営層やマネジメント層が頻繁にログインするツールとしてポジションを取っています。
人材ツールの多くは人事部をターゲットとしています。一方で、カオナビは経営層やマネジメント層をターゲットに「何を検索したいのか?」「検索した後、何をしたいのか?」をベースに設計しています。
社員の顔写真に、名前や所属といった基本情報からスキルや実績、評価、ストレスチェックまであらゆる人事データをひもづけて、クラウド上で管理することができる。
例えば、小売業の経営者が視察で各店舗を回るとき、「事前にそこで働く人の顔と名前を覚えたい」「最近携わった業務について声をかけたい」といったニーズがあります。
店頭のスタッフに「○○君、あの商品の売れ行きはどうだった?」と名前で呼びかけることで経営層と現場の関係性が強化され、ヒアリングで得られる情報の質が上がるというのです。
これは経営者の本音を突くインサイトだと私たちは考えました。これにより、経営者が「店舗を回る前にカオナビにログインする」という行動が習慣化されるわけです。
またマネジメント層は「この業務に向いている人は?」「このチームメンバーの相性は?」など適材適所の抜擢のためにカオナビを活用しています。その結果、働く人たちは自分の個性や能力を活かして短時間で早く帰れるようになる。
つまりツールの導入によって、働く人たち全体の行動様式を変えることが可能になるのです。

HRテックのプラットフォーマーに

そして今、カオナビはSaaSビジネスで上場を果たし、第1フェーズをまさに終えたところ。当然ながら次の戦略を描いています。
カオナビの次の未来を示すビジョン、それは「世界中の人材情報を一元化したデータプラットフォームを作る」です。
その人がどんな経験を積み、どんな志向性を持ち、どんな評価をされてきたか。そんな個性のデータが集まるプラットフォームの構築を目指します。
人材不足や採用難などの背景を受け、企業の間でHRテックへの注目度は急速に高まっています。それを受けてHRテック業界にはさまざまなプレーヤーが参入し、群雄割拠の時代に突入しました。
カオナビが狙う次なるステージはHRテックの人事マスターデータプラットフォーマーになること。これが、私たちの第2フェーズです。
製造業時代におけるリソースは石油や石炭でしたが、情報産業におけるリソースはデータです。
製造業時代にオイルメジャーが油田を開発し、安定的な供給をすることが世界中の産業発展に繋がったように、私たちは人材データベースを整え、さまざまなことに活用できるよう発展させていきたい。
それは世界の人材マネジメントをアップデートすることに繋がると考えています。
油田開発を担ったオイルメジャーは、航空産業や自動車産業をも生みだす存在へと発展していった。同じように人材データのプラットフォームへの挑戦は、あらゆる人材関連の課題を解決するビジネスへの未来にも繋がっていきます。
そんな未来の実現に向けて、私たちカオナビは第2フェーズをともに進む仲間を募集します。
世の中を広く動かしていくことを面白がり、新たな仕組みを構築できる人たちにぜひジョインしていただきたい。
日本の経営を変革し、労働生産性を向上させて、すべての人が自分らしく幸せなキャリアを手にできる社会を実現する。そんな未来を私たちと一緒に作り上げていきませんか?
(構成:塚田有香 編集:君和田郁弥 写真:矢野拓実 デザイン:岩城ユリエ)