【サッカー】グローバル市場で勝ち残る16クラブとその条件

2020/1/2
史上初、5大リーグ独占のCLベスト16
12月10日、11日に行われたグループステージ第6節の16試合をもって、UEFAチャンピオンズリーグ(以下CLと略記)のベスト16が確定した。
2月18日から再開されるノックアウトステージ(決勝トーナメント)に進出を決めた16チームは以下の通りだ。
・スペイン
レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリー、バレンシア
・イングランド
マンチェスター・シティ、トッテナム、リヴァプール、チェルシー
・イタリア
ユヴェントス、ナポリ、アタランタ
・ドイツ
バイエルン、ドルトムント、ライプツィヒ
・フランス
パリ・サンジェルマン、リヨン
ごらんの通り、16チームすべてがプレミアリーグ(イングランド)、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)、セリエA(イタリア)、ブンデスリーガ(ドイツ)、リーグ1(フランス)という5大リーグのチームで占められている。
これは、今年で27年目を迎えたCLの歴史において初めてのことだ。
これまでは、5大リーグ以外にもベンフィカやポルト(ポルトガル)、ゼニト(ロシア)やシャフタール・ドネツク〔ウクライナ)、バーゼル(スイス)、ガラタサライやベシクタシュ(トルコ)、そしてアヤックス(オランダ)といった中堅国の有力クラブがひとつかふたつはグループステージを勝ち上がり、決勝トーナメントに彩りを添えていた。
昨シーズン、R.マドリーとユヴェントスを連破してベスト4に勝ち上がり、最後までトッテナムを苦しめたアヤックス(オランダ)の躍進は記憶に新しい。
しかし全体的に見ると、2010年代半ば以降、CLにおいて5大リーグのクラブによる寡占化が進展しつつあった。
15-16シーズンまではベスト16に少なくとも3チーム、多ければ5チーム、5大リーグ以外のクラブが名を連ねていた。しかし16-17シーズンにそれが2チームに減り、17ー18は4チームに戻ったものの、昨シーズンは再び2チーム、そして今シーズンはついにゼロになった。
4年単位で比較すると、12-13から15-16までの4年間は平均3.5チームだったものが、直近4年間は平均2チームまで低下している。
この「5大リーグによる寡占化の進展」は、CLというピッチ上だけの話ではない。
「ビジネスとしての欧州サッカー」においてもまた同じように、2010年代半ば以降、5大リーグによる市場の寡占化が進んできているからだ。
プレミアリーグの突出した成長度
前回見た通り、「ビジネスとしての欧州サッカー」の市場規模は、2017年時点でおよそ200億ユーロ、日本円に換算すると約2兆4000億円にも上っている。これは、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)加盟54ヶ国の1部リーグに所属している全クラブの総売上高だ。
この中に5大リーグの売上高が占める割合は74%、何と全体の約4分の3にも上っている。以下は、UEFAのファイナンシャルレポートによる上位10ヶ国(リーグ)の内訳だ。日本のJ1リーグ、アメリカのMLSも参考のために加えてある。
一見してわかるのは、イングランド(プレミアリーグ)の売上高が突出して高く、さらに5大リーグとそれ以下との間に大きな溝が存在していること。
もちろん、ビジネスのベースとなる市場規模、つまり国の人口と経済規模において、ヨーロッパでもこの5大国が抜きん出ていることは事実だ。
しかしそれでも10年前には、5大リーグの寡占度は今ほどには高くなかった。
欧州1部リーグの総売上高は2008年の114億ユーロから2017年の2億ユーロまで、この10年間で77%という成長を果たしているのだが、2008年時点での寡占度は69%で現在よりも5ポイント低く、5大国のシェアはイングランドが22%、スペインとドイツがそれぞれ13%、イタリアが12%、フランスが9%だった。
これを2017年と比較してみると、ドイツ以下4ヶ国のシェアがこの10年間でほぼ横ばいなのに対して、イングランドだけが5%も伸ばしていることがわかる。
欧州サッカーの成長を牽引しているのはプレミアリーグだということがここから見えてくる。
これは、プレミアリーグがグローバル市場、とりわけアジアにおいて他のリーグと比べても圧倒的な人気を誇っており、さらに国内においてもブロードキャスター間の競争激化により、TV放映権に他国とは比較にならない値段がついていることによるのだが、このあたりの特殊事情については、第3回で改めて取り上げることにしよう。
ピッチ上の結果と売上の相関性
さて、国・リーグ単位で見たときに5大リーグの売上高が突出しているという「寡占の構造」は、それぞれのリーグの内部においても相似的に繰り返されている。
上で見たトップ10リーグのいずれにおいても、ごく限られたメガクラブ、ビッグクラブによる寡占状態が生じているのだ。
それをはっきりと示しているのは、前回も紹介した「デロイト・フットボールマネーリーグ」による、クラブ売上高ランキングだ。
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現時点での最新版による2018会計年度のランキングトップ20、そして売上高の内訳を示したのが、以下の棒グラフだ。
5大リーグによる寡占の構図は、ここにもはっきりと表れている。
イングランド勢が全体の半分近い9クラブにも上っているのは、上で触れた同国の特殊事情によるもの。それを脇に置いて見ても、残る11枠は、イタリアが4、スペイン、ドイツが各3、フランスが1とすべて5大リーグのクラブによって占められている。
「フットボールマネーリーグ」には21位から30位までのリスト(内訳なし)も掲載されているのだが、そこに出てくる5大リーグ以外のクラブは、ゼニト(ロシア/25位=1億6780万ユーロ)、ベシクタシュ(トルコ/26位=1億6570万ユーロ)、ベンフィカ(ポルトガル/30位=1億5070万ユーロ)の3クラブのみ。
いずれも国内では常にリーグ優勝を争うトップクラブだが、ヨーロッパという枠の中では競争力に限界があることは明らかだ。
それは売上高だけでなく、ピッチ上の結果にもはっきりと表れている。
実際、ロシア、トルコ、オランダ、ポルトガル、ベルギーといった中堅国のクラブは、CLに出場をしてもグループステージを勝ち上がってベスト16に顔を出すのが精一杯。
グローバル市場の鍵はCLアクセス権
今シーズンはついにそれすらもなくなってしまった。
「ビジネスとしての欧州サッカー」は、90年代からの四半世紀を通じて、ローカル市場を対象とする集客ビジネス(マッチデーMD収入)というベースに、ナショナル(自国内)市場を主な対象とするメディアコンテンツビジネス(ブロードキャスティングBC収入)、そしてグローバル市場を対象とするブランドビジネス(コマーシャルCM収入)を上書きする形でビジネスモデルを変化させ、売上規模を大きく伸ばしてきた。
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このビジネスモデルの変遷は「市場のグローバル化」というキーワードで捉えることができる。
ただし、ローカル市場、ナショナル市場を超えてグローバル市場にアクセスし、世界中のサッカーファンを市場/顧客として取り込んでスポンサーやマーチャンダイジングといったブランドビジネスを展開し、年間数億ユーロに上る巨額の売上高を挙げることができるのは、ごく一握りのメガクラブに限られている。
具体的には、上で見た売上ランキングのトップ15に、現時点では「没落貴族」的なポジションにいるミランを加えた16クラブということになる。
これらメガクラブは、CLという世界最高峰のフットボールコンペティションで主役を演じることを通じて、国境や大陸の枠を超えたグローバルなレベルで注目と人気を集め、それによってグローバル市場へのアクセス権を手にしている。
逆に言えば、CLという舞台に立つことができない限り、グローバル市場へのアクセスはきわめて難しいということ。
欧州主要国のトップクラブが一同に会してヨーロッパの覇権を争うCLは、今やワールドカップをもしのぐ世界最高峰のフットボールコンペティションとして、世界中のサッカーファンから注目と人気を一身に集める存在となっている。
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かつて欧州サッカーの主要な舞台だった国内リーグは、5大リーグですらも、このCLの出場権を争う予選と言っていいくらいの従属的な位置づけになりつつある。
事実、2010年代の10年間は、各国リーグで優勝を争いCLに安定的に出場してきたビッグクラブが、CLがもたらす直接的なBC収入(UEFAからの分配金)、そしてCLを通して高まったグローバルな知名度と人気をテコとするCM収入によって売上規模を拡大、国内での覇権を確立してメガクラブ化を成し遂げた時代だった。
その結果として、「5大リーグ」はもちろんのこと、それに続くロシア、トルコ、オランダ、ベルギー、ポルトガルといった中堅国の国内リーグにおいても、CL(とその2部リーグとしてのUEFAヨーロッパリーグ=EL)を主な「戦場」として、グローバル市場にアクセスして勝負しようという一握りの「グローバル志向」クラブと、国内市場やさらに小さなローカル市場に集中して生き残りを図ろうという「ローカル志向」クラブとの格差が拡がり、二極化が大きく進展した。
国内リーグで中位以下、CLやELとは無縁の中小クラブのほとんどは、グローバル市場から取り残され、四半世紀前と変わらぬローカル市場の中で自転車操業的な生存競争を強いられている。<後編に続く>
片野道郎(Michio Katano)1962年生まれ、宮城県仙台市出身。95年からイタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。最新作は『サッカー"ココロとカラダ"研究所』(共著/ソル・メディア)。主な著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』、『チャンピオンズリーグ・クロニクル』『モウリーニョの流儀』、共著に『アンチェロッティの戦術ノート』(いずれも河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』『セットプレー最先端理論』(ともにソル・メディア)など。
(執筆:片野道郎、編集:黒田俊、デザイン:松嶋こよみ、写真:Getty)