睡眠時に解決したい問題を脳に「指示」する

仕事や日常生活の難しい問題に答えを出さなければならないとき、よく勧められるのは「一晩考えてみる」ことだ。そうすれば、少なくとも感情にまかせて結論に飛びつくことは避けられる。実際のところ、一晩寝た翌朝、目が覚めると解決法が思い浮かぶということはよくある現象だ。
睡眠は問題解決と学習に役立つという説もよく知られている。脳が睡眠中に記憶を定着させ、情報を新しい方法でつなぎ合わせ、パターンを見つけ出すのだ。
ただ厄介なのは、眠っている間にどの問題を解決してほしいかを脳に指示する手段がないということだ。せいぜい、一番必要な答えに近いアイデアが浮かんでくることを望むぐらいのことしかできない。
しかし、ノースウェスタン大学の心理学者クリスティン・サンダースが率いる新しい研究で、状況は変わろうとしている。
米国『サイコロジカル・サイエンス』誌の10月号で発表されたこの研究によれば、睡眠中の脳に解いてほしい問題を解決させることができるかもしれないという。

記憶の再構成とよく似た仕組み

サンダースとその研究チームは、「睡眠中の問題解決には、記憶の再編成とよく似た仕組みがある」という仮説を立て、参加者57人を対象にある実験を行った。
まず、それぞれに異なる難しい問題を与え、次に音と問題を関連づけるためにそれぞれに異なる音を聴かせた。そのあと参加者は眠り、そばで問題と関連づけた音を静かに再生したのだ。
眠る前に参加者が回答できた問題は平均で全体のたった約20.5%だった。
しかしある音を聴きながら問題を(解けないにしても)考え、音を聴きながら一晩眠った後には、音と関連づけられた問題の31.7%もを解くことができたのだ。解答率は55%向上した。
研究チームはこの結果から、問題解決する脳の能力と、答えがほしい問題を「音で結びつける」ことは可能だと主張する。
もちろん、研究者が指摘しているように、このテクニックは問題解決の背景となる知識がない問題に対してはあまり役に立たないだろう。それは解くべき問題を選ぶ際の手がかりを脳に与えるだけだ。
つまり、何の手がかりのない問題や、解くための知識が足りない場合ではなく、すでにすべてのピースがそろっている問題に対して思考する場合に機能する。

仕事の場で「音」と関連づける効果

今回の研究に参加した人数は少なく、より多くの参加者を対象に実験を繰り返すことが望ましい。しかし参加者が増えても結果が変わらないとすれば、この研究で睡眠を操作した方法は仕事に関する難問の解決に簡単に応用できそうだ。
仕事の場ではすでに、お気に入りの曲を聴く習慣があるかもしれない。あとは、音楽との関連性を構築するために、特定のプロジェクトやタスクに取り組むときに聞く音楽をじっくりと選び、一貫性を持たせればいい。
しかし、他の方法で音との関連づけを行なうように意識的に取り組むこともできる。特定の音が聞こえる特定の場所で仕事をする、枕を叩いたらそれらの音の一部をループモードで再生するといった方法が考えられる。オフィスと寝室で同じ種類の時計の音がしていることを確認するだけでも、脳が働き始める可能性がある。
サンダースの研究は、科学を活用して、仕事で直面する創造的なハードルを乗り越える可能性を示している。また、米疾病管理予防センター(CDC)によると、アメリカの成人の3分の1以上が必要なだけの睡眠をとっていないという。ビジネスリーダーの間でも、睡眠不足は非常に深刻な問題になっている。
今回の研究は、難問を解決するときに夜遅くまで無理をしすぎるより、もっと有益な方法があることを示唆している。「寝てしまうことは、前進の手段だ」
もちろん、夜寝る時にまで仕事を持ち込まなくても構わない。眠りたいだけ寝て、起きてから考え直すことも同様に健全なことだ。寝ている間にアイデア思をいつくだけでなく、何も考えずにゆっくり休んだ脳は、翌朝に素晴らしいひらめきを得られるほど回復しているのだから。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Wanda Thibodeaux/Copywriter, TakingDictation.com、翻訳:栗原紀子、写真:robertsrob/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.