(ブルームバーグ): 米銀最大手のJPモルガン・チェースが開発した口座情報確認のための無料サービス「インターバンク・インフォメーション・ネットワーク」(IIN)に、邦銀がこぞって参加意向を表明している。反社会的勢力の国際送金などをいち早く発見できる特長があり、マネーロンダリング(資金洗浄)対策としての期待も大きい。年明け以降、順次日本で運用が始まる見通しだ。

JPモルガン・チェース銀行東京支店の真井大三郎金融営業法人部長によると、IINは現在、欧米やアジアなどで約70行を対象に運用中。まだ邦銀は参加していないが、来年1-3月に順次日本での運用が始まる見通しだ。9月時点で参加表明している世界の金融機関365行のうち、日本からは79行と2割超を占めた。三菱UFJ銀行など3メガバンクから地方銀行や信用金庫まで多様な金融機関が含まれる。

IINは国際送金の際、資金の移動と送金に付随する情報のやり取りを切り離すことで、コンプライアンス照会を効率よく行える仕組みだ。国際送金は、取り次ぎ契約の関係で送金元と送金先の間に複数の銀行を経由することがある。現行の国際銀行間通信協会(SWIFT)の送金システムでは資金が通過する銀行であっても、送金先の口座情報を直接受け取れないことがあるため、確認に数日かかることもあった。

これに対してIINでは資金部分ではSWIFTを使い、口座情報の照会はブロックチェーンの基盤上で行うことで即座に確認することが可能となる。送金時間の大幅短縮も見込む。サービスは無料だが、真井部長は同社の世界の米ドル決済シェアは20%と大きいことを挙げ、送金時間の短縮で業務や資金の効率が上がることは大きなメリットだと指摘。今後、他行との共同開発による開発費分散や利便性向上を図る。

「マネロン後進国」返上へ

匿名を条件に取材に応じた大手地銀の外国為替担当者は、ぜひ早くリリースしてほしいと期待する。特に個人送金は異業種も含めて競合が増えており、マネロン対策をきちんと行った上で時間が短縮できれば顧客サービス向上につながると指摘。迅速な口座情報の確認により、速やかに捜査当局との連携が図れることはマネロン対策においても有効な一手になるという。

マネロン対策を重視するのには理由がある。金融機関のマネロンやテロ資金対策を監視する金融活動作業部会 (FATF)は2014年、日本の対応の遅れを名指しして改善を求める声明を公表。政府は関連法の整備など対応に追われた。業界もマネロン後進国の汚名返上に向け、疑わしい口座を解約できるよう預金規定改定を行うなど取り組みを強化。FATFは今年10月、11年ぶりに日本に立ち入り調査に入った。

大和総研の内野逸勢主席研究員は、口座情報の照会のスピードが改善できるIINの特長について「マネロン対策としては一番重要なところだ」とし「マネロン対策で頭を抱えている銀行が多い中で、参加するメリットは大きい。IINで確認作業の経験を積み重ねることで、手続きの標準化などさらなる効率化につながるだろう」との見方を示した。

一方、真井部長は「中国の大手銀行にどう入ってもらうかが課題だ」とも言及。先の地銀担当者もIINは米ドル向けでは使い勝手が良さそうだが、同行の国際送金先では中国が多いとして今後の利便性向上に期待する。決済で競合するグローバルバンクをいかに巻き込むかも鍵になる。ユーロ決済に強いドイツ銀行が参加表明したが、国際決済通貨を取り扱う大手行の参加増はIINのさらなる普及に不可欠だ。

IINへの参加を検討している三井住友信託銀行市場決済部の遠藤貴士氏は「ウェブベースのサービスだと聞いているので情報漏えいの懸念がないかどうかJPモルガン側とも情報交換しつつ検証していきたい」と話す。とはいえ「国際送金や資金洗浄照会の効率性が上がるかなと思っている。システム対応がいらないこと、利用料がかからないこともメリットだ」と評価している。

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