「難しいことを成し遂げる組織」は何が違うのか

2019/12/26
 「医療ヘルスケアの未来をつくる」というビジョンを掲げるメドレー。それはすべての患者が医療を使いこなし、より良い医療体験を得られる未来だ。 

 前回の記事では、医療に関わる未解決の課題が山積する中、メドレーはテクノロジーの力を駆使し、これらの課題を一つ一つ着実に解決してきたことをお伝えしてきた。

 今後さらに多くの人たちを救い、“医療界最大のインターネット企業”として社会に大きなインパクトを与える存在になるには、メドレーがいかに「経営の実行力」を高めるかがカギとなる。

 「メドレーに関わるなら、今までで一番面白い時期」と話す代表取締役社長の瀧口浩平氏に、メドレーが目指す未来が実現した社会の姿と、そんな未来を作る仕事の醍醐味について語ってもらった。

すべての人に「納得のいく医療体験」を届ける

瀧口 メドレーは、「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションを掲げる会社です。では、その“未来”とはどんなものか。それは、患者になりうるすべての人が納得のいく医療体験を得られる社会です。
 もちろん私たちは、医療関係者や医療行政に関わる方々にとっての課題も解決していきたい。でもそれは何のためかといえば、皆さんの一人ひとりが医療を使いこなせるようにするためです。
2002年、高校在学時に米国法人Gemeinschaft,Inc.を創業。国内外の事業会社およびコンサルティング会社の依頼を受けて、市場・統計調査や新商品のコンセプト開発、市場参入支援に携わる。祖父を亡くした体験から医療への課題意識を強め、2009年に株式会社メドレーを創業。
 若い世代には、今はまだ健康で病院とは縁のない方が多いかもしれません。
 でも生きていればいつか必ず医療と関わる場面がある。そのときに皆さんが不便な思いをしたり、大事な判断を誤ったりせず、誰もが一度きりの人生を後悔することなく送れる社会にしたい。それがメドレーの描く未来です。
 未来に対して、まだまだできていることは少ないですが、「必需品」を目指してプロダクトを作り続けています。
 身近なところでいうと、仕事中に体調が悪くなったとします。でも重要な仕事の納期が迫っていて病院に行く時間なんてないし、そもそも病院に行くほどの症状なのかもよくわからない。
 そんなとき、これまでなら具合が悪いのを我慢して仕事を続けるか、仕事はあきらめて病院へ行くしかありませんでした。
 でもメドレーが提供する医療メディア「MEDLEY」の「症状チェッカー」を使えば、現在の症状や自分の年齢などを入力するだけで、該当する可能性が高い疾患を調べることができますし、病院へ行くべきかどうかの検討にも役立ちます。
例えば「熱っぽい」と入力すると、性別や年齢、追加の質問が表示される
 慢性的な疾患などによって継続的な通院が必要な方でも、弊社の「CLINICS」のアプリを使えばオンライン診療が受けられるので、対面での診療と組み合わせながら、例えば忙しい時などはわざわざ病院へ行かなくても会社や自宅にいながらビデオチャットを通じて医師の診察が受けられます。
 現在、メドレーには400名のメンバーがいますが、小さなお子さんを育てている人もいます。一般的に、子どもは体が弱いので、しょっちゅう熱を出したり、具合が悪くなったりします。するとそのたびに仕事を休んで、子どもを病院に連れて行かなくてはならない。
 しかも、子どもが二人や三人いて、そのうち一人でもアトピーやその他の慢性疾患を患っている場合、通院を続けることは大変な労力がかかります。これも小児科でのオンライン診療が普及すれば、子育て中の方たちの負担は相当に軽減されるはずです。
 そして、せっかく診療をオンラインで受けたのだから、薬の処方箋もオンラインで受け取れたらいいですよね。ところが現状の法規制では、オンライン診療の場合も、処方箋は紙に印刷されて数日後に郵送されるケースがほとんどなんです。
 それを持って薬局へ行き、長い待ち時間の末にようやく薬をもらえる。でも、診察後すぐにオンラインで処方箋が届き、さらには処方箋のデータと連動して必要な薬が郵便や宅配で手元に届くようになったら、仕事で忙しい方たちにとってこれほど便利なことはないはずです。
 これは決して遠い未来の話ではないかもしれません。すでにメドレーは厚生労働省から受託して、電子処方箋の本格運用に向けた実証実験を行っています。
 実験の結果が評価され、今後さまざまな規制が緩和されれば、診察の予約から薬の処方・入手までオンラインですべての診療プロセスをサポートできることになる。
 シームレスにすべてがつながるようなサービスを作れたら気持ち良いと思いますが、今は個別に一つ一つ価値を作りながら、私たちが目指す未来に近づいていっています。

クラウド活用で医療業界は劇的に変わる

 一般産業界ではクラウド活用が進み、その基盤の上にさまざまなテクノロジーが活用されています。しかし残念ながら、医療の世界はクラウド活用すら遅れています。
 飲食店やヘアサロンなど、今ではオンラインでの予約が当たり前になってきています。しかし、医療業界をみるとネットで予約できない病院がほとんどですよね。予約をとるには営業時間内に電話をかけなくてはいけない。
 これは予約枠が紙の台帳やローカルネットワークを使ったオンプレミス型のシステムで管理されているからです。だから私たちは、アプリから24時間いつでも予約できるプロダクトを開発しました。
 さらには、半数以上の医療機関がいまだに紙のカルテを使っているという課題もあります。一方で電子カルテも、普及しているものの大半はオンプレミス型のシステムです。
 そのため、医師が患者の過去の診察記録を知りたくても、他の病院が持つ情報をリアルタイムで取得するのは難しいという状況があります。
 そこでメドレーでは、クラウド型の診療支援システムを開発し、医療機関と患者がスムーズにつながる仕組みを提供しています。
 また、自社のみならず、医療業界のクラウド化を推進するため、「MEDLEY DRIVE」というプロジェクトを立ち上げ、私たちと共に医療業界全体のクラウド活用を加速してくれる企業への支援も始めました。
 クラウド型の電子カルテが普及し、さまざまな病院で受診するたびに診療記録のデータがログとして残って一元管理できれば、適切なアクセス権限の管理を行う前提で、どの病院の医師でも患者の情報を必要なタイミングでスムーズに共有できます。
 また医師が患者に治療方針を提案する際も、過去の検査結果の数値などの蓄積されたデータを根拠として示せるので、患者もそれをもとに納得のいく意思決定ができます。「この情報があれば、別の治療を選択したのに」といった後悔を、医師も患者もしなくて済むのです。
 「医療の未来をつくる」と聞くと、あまりに壮大すぎるビジョンに思えるかもしれません。しかし、その手前にあるクラウドは、他の業界なら当たり前のように活用されているテクノロジーです。
 その“当たり前”を医療業界に持ち込むだけで、現状を劇的に変えられるかもしれない。
 最近は、病院から救急車の受け入れを断られ、患者がたらい回しにされる問題が全国で相次いでいます。病院も断りたくて断っているのではなく、ベッドが空いていないとか、治療できる医師がシフトに入っていないとか、様々な事情があるわけです。
 救急隊員は、あちこちの病院に電話をかけて、受け入れが可能かどうかを確認しています。だから病院が見つかるまでに時間がかかってしまうのです。
 では、病院のベッドの空き状況や医師の勤務状況をリアルタイムで一覧できるオンラインシステムがあったら、どうでしょうか。最初にどこへ電話すべきかスクリーニングできるので、受け入れ可能な病院が見つかるまでの時間は大幅に短縮されるはずです。
 こうしたことに専用サービスを作る必要はありません。皆さんが会社のメンバーのスケジュールを共有しているのと同じようなシステムがあるだけで、この社会課題を解決する一助になるのです。
 ですから、データでできることを想像して発揮すれば、ビジネスを通じて、あなた自身やあなたの大事な人の命を守り、いざというときに救われる未来を作ることは、決して不可能ではない。私はそう考えています。
 特に若い方たちは、「社会との足並みの違い」を敏感に感じやすいのではないでしょうか。病院へ行ったとき、「どうして処方箋は紙でしかもらえないんだろう」「どうして待合室にこんなにたくさんの人がいるんだろう」と違和感を抱くのは、きっと若い世代です。
 他の場所ではもっと便利になっているのに、医療の現場はそうではない。これって、社会と足並みが揃っていないわけですよね。それに気づくことができれば、インターネットの技術やビジネスでは常識とされる「合理的な文化」を持ち込んで、少しずつ根付かせていける。
 10年後の医療業界が社会と足並みを揃えた状態になっていれば、それが私たちにとっての成功になるのだと思っています。

伸びしろを増やすために合理を追求

 メドレーは12月12日に上場し、「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションの実現に向けてますます加速するフェーズに入りました。創業時は小さかった会社も、現在は400名のメンバーが働く組織へと拡大しています。
 メドレーが社会により大きなインパクトをもたらす企業になるには、より規模を拡大させていかなくてはなりません。
 そうしたフェーズですから、課題もまだまだあります。メドレーの社内には、継ぎ接ぎで作った無駄な手続きや非合理的なやり方はあるべきではありません。
 そこで中長期の課題を洗い出し、本質的な解決を図るため、最近ではITコンサルタント経験者を中心とした、テクノロジーを活用したソリューションを自ら考えて実行できる方の採用を積極化しはじめました。
 今、こうしたメンバーが、私や経営陣と二人三脚で経営の実行力を高め、各部門と一緒になって課題解決へ導くエンジンとなっています。
 すでに顕在化している課題のみならず、将来成長していくにつれて現れてくるだろう課題も対象です。新規事業やM&A、事業を横断したデータベースの構築、ライセンス獲得や組織改革など、未来のメドレーを作る重要なテーマも数多く含まれます。
 「課題」という言葉にはネガティブな響きもありますが、私としてはもっとポジティブに、組織が成長するための「伸びしろ」を作るものと位置づけています。
 このポジションはITコンサルタントの経験者が多いのですが、それは課題設定や解決策の立案力があるだけでなく、その解決策をテクノロジーのバックグラウンドを生かして自ら実行し、課題解決を完結させるポテンシャルがあるからです。
 その時々の重要な経営課題の内容に応じて、個別のプロジェクトやプロダクトサイドから事業に関わっていくポジションですが、ある程度のキャリアを積むと会社全体を一つのプロダクトとして捉え、「この組織をどうやって成長させていくか」という発想で仕事に取り組む人が増えます。
 ですから、「この組織にどうやって伸びしろを作るか」ということに興味関心を持ち、その実行にチャレンジしたいと思う方にフィットしやすいのでしょう。
 それにITコンサルタント経験者にとって、メドレーの仕事はきっと楽しいと思いますよ。なぜなら弊社では、一つのイシューに対して、一人の担当者が最初から最後まで一気通貫してやり抜くスタイルを取っているからです。
 コンサルタントの立場だと、自分たちがやるのはプランを作るところまでで、実行はクライアントに任せるケースが大半です。そこに物足りなさを感じている方も多いのではないでしょうか。
 でもメドレーなら、実行フェーズを含めたすべてのプロセスに関わることができます。だから「自分たちの手で作り出したものが、社会に対して良い影響を与えている」という実感が持ちやすい。
 「課題解決の成果が社会をより良くすることに直結している」という手応えを感じられるのは、とてもやりがいのある仕事です。メドレーが「ITコンサルタント経験者にとって新しいキャリアパスのスタンダードの一つになっていけたら」と思っています。

タフな仲間と大変なことをやり抜きたい

 ただし、一つのことを最初から最後までやり抜くのは、決して簡単ではありません。「全国の診療所にオンライン診療を普及させる」という取り組み一つを取っても、非常に難易度が高い。
 全国には約8000の病院と約10万の診療所がありますが、そのうちメドレーのオンライン診療を導入している病院や診療所は、現在まだ1000件ほどです。しかも電子処方箋と連動させるために調剤薬局も巻き込むとなれば、さらに難易度は高くなります。
 だから最初はみんな思うんです。「こんなの無理に決まっている」と。私だって思います。
 でも考えてみてください。オンライン診療が全国に普及した社会と普及していない社会なら、前者がいいに決まっていますよね。なのにその仕組みがまだ存在しないのは、誰もが無理だと思って行動しないからです。
 頭の中で理想を描いた人はたくさんいる。でも耐え抜いて、考え抜いて、実行しきった人はいない。だからこそ、それをやり抜く人が現れれば、患者の医療体験はドラスティックに変わります。
 メドレーは、難しいことを成し遂げる組織になりたい。
 メドレーで働いているメンバーは、「“自分のための仕事”と“社会のための仕事”の境目がなくなってきた」とよく言っています。
 仕事とは、基本的に「自分のため」のものです。お金を稼ぐためだったり、自己実現のためだったりと、自分のために必要だから人は仕事をする。
 ところがメドレーで「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションを追っているうちに、自分の仕事の中で「社会のため」という意味合いが大きくなっていく。
 最終的にはそんな区別さえなくなって、「医療ヘルスケアの未来をつくること=自分ごと」になり、新しい医療体験を患者に届けるために自分は働いているのだという確かな手応えを感じながら働くようになる。
 もちろんすべての社員に共通することではありませんが、こうしたことを見かける頻度が高い。これは他の職場ではなかなか見られない光景ではないでしょうか。
 上場を経て、メドレーが社会の公器として取り組めることの規模も拡大しています。メンバーが使える予算や権限は大きくなりましたし、仕事の自由度もさらに広がりました。
 もともと私たちは、会社経営においても「これが本質的な課題だ」と思ったら、聖域を作らずに変えようとする会社です。それこそ「瀧口の合理的な活用方法」のようなテーマも、私の前で当たり前のように議論されます。
 それくらいこの会社にタブーはないですし、変えてはいけないことは何一つありません。
 だからメドレーにジョインするなら、今が一番面白い時期だと思います。私たちのような会社がどれだけ成長していけるかは、「人」にかかっています。
 メドレーの目指す世界に共感してもらえる方がいたら、ぜひ力を貸していただきたい。私たちと一緒に、日本の医療ヘルスケアの未来を作っていきましょう。
(構成:塚田友香 編集:奈良岡崇子 写真:矢野拓実 デザイン:月森恭助)