「人材獲得競争時代」到来。採用の分かれ目はどこか

2019/11/19
 人材獲得競争時代が到来している昨今。企業の認知を拡大し、ミッション・ビジョンに共感する人材を採用するための“採用ブランディング”は、優秀人材を獲得したい成長企業にとって強化必須の採用手法だ。
 今回は、「サンカク」「Wantedly」「NewsPicks」の3社合同で開催したイベントセミナー「優秀潜在層を獲得! 成長企業が今すぐやるべき『共感型採用』とは」をレポートする。
 株式会社メドレー執行役員・加藤恭輔氏がモデレーターを務め、ラクスル株式会社執行役員・渡邊建氏とナーブ株式会社代表取締役・多田英起氏も交えてパネルディスカッションが行われた。
一橋大学商学部卒業。優成監査法人に入所し、公認会計士として監査業務に従事する傍ら新卒採用の責任者を兼任。クックパッド株式会社に経営企画担当として入社後、IR、事業推進、経営会議運営などを経て会員事業部長としてマーケティング、ユーザーサポート、サービス開発、新規事業の責任者を歴任。2014年に執行役員に就任。その後広告開発の責任者、アライアンス推進、採用、グループ会社支援等を担当。2016年より株式会社メドレーに参加。

私たちが「共感型採用」に取り組むワケ

加藤 まずは簡単に会社概要や事業の状況をご説明ください。
渡邊  ラクスルは印刷のeコマース・物流・広告の3つの産業でBtoBプラットフォームビジネスで事業を起こしている会社で、私はその中の印刷eコマース事業責任者をしています。
 ラクスルは事業本部がオーナーシップを持って採用活動を進めていて、採用戦略もハンズオンで実行しています。
 我々が非常に大事にしているのは、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョン。このビジョンに共鳴した人間が集まり、リアルビジネスとテクノロジーを掛け合わせ、産業を革新するBtoBプラットフォーマーになる。そういう会社をつくっています。
 我々が成長する中で、採用というのは常に課題でした。これまでの成功パターンでは、優秀な人材にスカウトを送り一対一で話をさせていただくWantedlyやビズリーチを使ったダイレクトリクルーティング、もしくは、トップマネジメントのリファラルをやってきました。
 特に課題としてあげられたのは、組織やビジネスの正しい理解が足りず、「よくあるネット印刷の会社の一社でしょう?」とよく言われ、スカウトの返信率や申し込み数が低い。採用の潜在層・顕在層に持ってもらっている印象や認知をチェンジすることが目下のテーマでした。
 そして、ネット印刷会社の一つではなくて、レガシー産業にテクノロジーを用いて変革していくBtoBプラットフォーマーであるというイメージを持っていただきたいということで、「共感型採用」に取り組み始めたのです。
京都大学工学部工学研究科卒業。2007年トヨタ自動車入社。トヨタ生産方式の本丸である車両組立工場で製造オペレーションやサプライチェーンの設計・改善に従事。2017年7月からラクスルに参画、印刷事業SCM部の一員として、BtoB印刷プラットフォームのサプライサイド構築に取り組む。SCM戦略企画、パートナー工場BPR、物流最適化などを推進。その後、印刷領域内新規事業の0→1立ち上げを経て、現在は印刷eコマース事業(ラクスル事業)全体を統括する事業本部長を務める。
 実際にやったことは「オウンドメディアの活用」です。やはり優秀な候補者は、面接に来るときに記事を読み込んできたし、事情を理解してから来てくれるといういい肌感が得られました。
 それから、我々のターゲットであるリアル産業の大企業に在籍し、ビジネス感度の高い層へリーチできるチャネルを考えたときに思い当たったのがNewsPicksでした。
 採用のターゲットのペルソナが私そのもので、私が前職でNewsPicksを読み込んでいて、ターゲット層の多くにリーチできる人も必ず読み込んでいるという確信があり、ジョブオファーを使わせていただきました。
 どこに共感してほしいのか、我々の何を深く知ってほしいのか。我々のビジョン・ミッション、ビジネスモデルはどのようなもので、どんな社会への影響があるのか。ファウンダーや経営メンバーはどういう特性があって、どういう価値観を持っているのか。働くメンバーはどういうカルチャーで働いているか。
 それらをしっかり訴求して、共感してくれる方を集めるということをやってきました。まだまだいろいろ課題があるんですけど、最近はうまくいっているなと体感しています。具体例を出すとNewsPicksの記事を読んで(以前届いた)スカウトに返信しました、という候補者がいたほどです。
多田  ナーブでは、不動産、建設、旅行、航空、船舶などの様々な業界にVR技術を提供しています。私はもともとエンジニア出身で、4年前に起業しました。資金調達は今回が初めてですし、仲間集めも初めてでした。
ITコンサルティングを経験後、IT受託開発に10年以上従事。技術を活用した新しいソリューションをテーマに KDDI社との共同特許をはじめ、オープンスタックシェアNo.1の米ミランティス社とのJV構築などを行う。その後、ライフスタイルに特化したVR事業(ナーブ事業)をスピンアウト。国内最大級のVRプラットフォームを構築し現在に至る。
 4期目〜5期目に入った現在までの間で、CXOを新たに3名採用することができましたが、それまではCXOがほとんどおらず、私だけでやってきました。
 弊社の場合、内定を出すと、ほぼほぼ入社してくれます。他社と比べて条件は決して良くないけれど、それでも選んでいただけるんです。
 結局、人はお金で動くのではなく、ビジョンで動き、どういう働き方をしたいかで動いていく。そこを実現できているというところがポイントなんです。
 ただ、弱点がありました。「VRで最大級の会社です」と伝えても、皆さん知らなかった。今はBtoCサービスもやっていますが、基本的にはBtoBの会社なので、誰も知らない。だから、広くリーチできないんですよね。これが本当に苦しいところでした。
 そういう中で、採用を目的としたワークショップを開催しました。ワークショップの面白いところは、20名の面談が1日で終わること。超効率的ですよね。しかもワークショップ型なので、どういうふうに物事を考えて、どんなアウトプットを出す人なのかが分かるんです。
 まだ転職の意向はないけれど、いろいろ情報を獲得したいなという程度のモチベーションの人たちにもアプローチできたと思います。

共感を集めるための具体的 なアクションとは

加藤 ありがとうございます。では、「潜在層採用において共感を生むために工夫した具体的なアクション」について伺います。
渡邊 まず、我々のラクスルという会社を知っていただき、どこに共感してくれているかを整理しました。
 チャネルはNewsPicksを始めいろいろ回していますが、最近は、リファラルが一つ大きな採用のチャンスだなと思っていて。共感をしてほしいポイントを押さえながら、いかに人を集めてくるかというところにフォーカスしています。
 大事にしているのは、まず知人を紹介してくれる自社社員をモチベートしてサポートすること。そのために、社員が参加して楽しく、かつ知人を呼びやすいカジュアルな会を用意すること。
 例えば、リファラルの方を呼んできてクラフトビールを一緒に飲んだり、マグロの解体ショーをしたりするなど、カジュアルに参加できる会を開いて集客をしています。
多田 我々は会社案内をVRにしました。これは、シンプルですが効果的でした。我々はどういう会社なのか、VRはすごいんだといくら口で言っても伝わらないので、とりあえず会社案内VRを2分間体験してもらうと、皆さん「ああ、これすごいな」と言って入社してくれるんですよ。
加藤 それはどちらかというと、会社に興味を持ってくれている人には効果的なアプローチかなと思うのですが、そもそも認知させるときに効果的だったアプローチはありますか?
多田 まさにそこが我々にとっては課題なんです。
 スカウトメールのタイミングで、興味があってワンクリックをしてくれた人にはVRを自宅に発送して使用してもらうこともしているのですが、僕らからすると、スカウトメールを送った範囲内、つまり自分たちがリーチできる範囲内となる。もう少し広い範囲での共感を集めたいと思っています。

新しい採用チャネルは「とにかくやってみる、やりきる」

加藤 次のテーマですが、「新しい採用チャネルに挑戦するにあたり、KPIやROIをどのように設定したか? 社内稟議をどのようなストーリーで通したか?」というご質問です。これについてはいかがですか。
渡邊 私自身が意思決定者なので、どうやって自分がその施策にベットできるようにするのか、が重要でした。その意思決定をするため、クイックかつライトにPDCAを回しまして、これは効果があり採用に繋がる、と確信を得て投資を実行しました。
 基準は統一してありました。実際に合いそうな候補をすべてやってみました。自分が肌感として効果があると思ったところで意思決定をしました。
 我々のような会社では、1名優秀な人材を採用できたら、数百万円の投資はペイするので、効果があるかどうか、だけをまずは重要視していました。
 なお、今後定常運用しだした時のKPIはまだ明確に固まってない部分はありますが、事業部が有望だと思う候補者を何人流入させたか、事業部というユーザーのニーズに合った人を何人送り込めるか、というところがKPIの候補になるのかなと思っています。
多田 私の持論としては、基本的に世の中の会社は、どんな大きな会社だろうが、絶対つぶれるんですね。
 もっと言うと、変わらなくては、絶対つぶれる。変わることにみんなリスクを感じるんですけど、変わらないことに対するリスクのほうが絶対に高いんですね。たった数十年で死ぬんですよ、変わらなければ。
 採用や管理に関しても、同じです。変わることの方がリスクが少ないと考えれば、やるしかない。ただ、リスクとキャッシュフローの話がありますので、やれる範囲の限界はありますよね。
加藤 ちゃんと採用できる、継続的に採用し続けられるようなブランドを作るためには、中途半端なことはやらず、やりきることが大事です。ゴールに対して、施策を目一杯打っていくことで近づいていくことがポイントだと思います。
 KPIは、ゴールイメージや方向性を言語化して、それに近づいているかを判定できる指標で設定します。個別の施策ごとに設定するというより、施策群として設定する方が多いです。
 成功確率は読みきれないけども、少なくとも社内の誰よりも、社長よりも自分がその案件について考え抜き、どう聞かれても答えられるようにしておくことKPIを単体の案件で設定しない場合には、なぜそうした方がよいかを答えられるまで考え抜くこと。
 経営者や決裁者も、KPIを気にするというよりも、担当者として考え抜いているか、覚悟はあるか、目的と施策に一貫性があるか、というところをみていると思います。

フェーズが変わるときの、外部パートナーとの関係構築

加藤 さて、最後は「自前でやるか、外部のパートナーさんに協力を仰ぐかはどう判断しているか」というテーマでお話しできればと思います。
 私たちメドレーは、去年まで外部のパートナーさんをほとんど入れず、ずっと自前主義だったんです。私たちが運営していた8つのブログライン、ライティングや編集は、全部自前でやってきました。
 しかし、実は今年からスケールやフェーズが変わってきたことで、外部のパートナーさんにも協力いただけるところは積極的に協力していただき、どちらかというとそこのコントロールをいかによくできるかを目指そうとしている状況なんですね。
 スタートアップフェーズを脱して会社のステージが変わり、売上も人員数も加速度的に伸びていく中で、打ち出すべき見せ方も全然変わりますし、対応しなければいけないことの量も種類も一気に増えました。
 その結果、自前でやり切るだけでは回らなくなってきたんです。場合によっては、その道のプロにどんどん入り込んでいただく必要が出てきました。今までの成功体験をいったん全部捨てて、新しいものを組み直すというチャレンジをしている状況ですね。
 メドレーの場合は会社のステージが変わったことによって、方針を大きく変えましたが、ラクスルさんはいかがでしょうか?
渡邊 我々もフェーズが変わって大きく転換しました。昔は、全部自前でやることがポリシーで、コストを抑えたいという裏の事情もありますが、基本的に自分が知らないものを他人に任せても絶対うまくいくはずがないというところがありました。
 テーマ設定からジョブディスクリプションを書いてスカウトを自分で送って、自社ホームページに記事を書いて……と、全部自分たちでやっていました。
 企業のフェーズもどんどんスピードを増していきますし、優秀な人材が1人とれて会社が変わるようなことを何度も経験していくうちに、コストを気にするよりか、事業を伸ばして人を採用するべきだという認識も生まれて。
 そして、自分たちがやらないといけないところだけ明確にして、あとは得意な人にやってもらえばいいというのが今の我々の認識ですね。
 コアの価値は自分たちで定義するけど、ブランディングやライティングはNewsPicksなど、そういったことが得意なパートナーとやっていく。でも、それは自分で一通り一回やってみたらこそ、分かることかなとは思います。

自分自身がクオリティコントロールにコミットせよ

加藤 それはすごく大きいと思いますね。自分でやる前に外部のパートナーさんにいきなりお任せするのはあまりよくないと考えています。
 それはなぜかというと、お願いしているパートナーさんがどれだけの品質で、どれだけのスピードなのか判断がつかないからなんですよね。
 まず自分でやって、その品質感やスピード感を理解してから、メンバーやパートナーさんに理解したものを渡していく。
 もちろん担当領域の範囲が広がっていけば、全部まず自分で経験するというのはなかなか難しくなってきますが、それでも勘所を理解できるような入り方は最低限実施する。自分がやったことがなく、勘所もないものを丸投げするのは楽しているということだと思う。
 それを続けていくと、必ず綻びが出ます。そうすると、中期的にはうまくいかないですよね。
多田 ナーブは、楽したがゆえに大変なことを巻き起こしました。うちは人数が少ないので、スピーディーにいくために、パートナー戦略を意識的にとったんですね。その結果として、外注コントロールが一切うまくいかなくなってしまった。
 そもそもの意思が伝わっていないので、向こうもどう動いていいのか分からない状況になって。多額の外注費は入れても、結果が出ない。それから、いったん立て直しを図って、内製化し、次第に良くなっていきました。
 パートナーを入れるタイミングはすごく難しいなと思いましたが、逆にメドレーは、外注の人材をどうやって育てているのですか?
加藤 育てるというよりも、私はすごくシンプルに、メドレーの一員だと思って取り組んでいただくようお願いしますとお伝えしています。
 会社の認識や理解についてのご説明は行いますが、業務を高いレベルで遂行いただけるよう、チームメンバーに求める意識や品質の高さ、スピード感と同様の、そして専門性をお持ちの領域についてはそれ以上のレベルを、外部のパートナーの方にも求めています。
 そして、それが実現できるようなコミュニケーションやルールづくりのあり方を日々模索しています。
 そのときに大事だと思っていることは、自分自身がそのクオリティコントロールにコミットしているということです。できる人が入ったからその人に丸投げして、全然うまくいかないというのはありますから。
(執筆:五月女菜穂 編集:奈良岡崇子 撮影:矢野拓実 デザイン:小鈴キリカ)