多くの人々にとって、地球上のどこからでもキャリアを築けるチャンスは、いろいろな夢を形作る材料だ。いま世界中では、仕事の半分以上がリモートで行われているという。人材不足のいま、柔軟な働き方は有能な人材を雇用するための必須条件になりつつある。
こうした「リモート・ファースト」ともいうべき現象には、ますます多くの大手企業とスタートアップが参加しようとしている。
しかし、その裏には不穏な可能性も潜んでいる。このリモートワーク革命は、「次の大恐慌」の発生に加担するおそれがあるのだ。

未来か、それとも、古き悪しき時代の再来か

私自身はリモート・ファーストの熱烈な支持者である。一部の研究が示しているように、自分がいたい場所にいて、自分に適したやり方で自分の時間を管理できる自由を手にしているとき、人の幸福度と生産性が最も向上すると考えている。
しかし、リモートワークがもたらすデメリットや、適切な準備をしないまま盲目にリモートワークを推進する企業が増えすぎたときに起こる危機に対して準備をしておく必要もある。
私は未来を過去から学ぶために、歴史に目を向けてきた。そしていつも同じ時代、「狂騒の20年代」に関する文献を読み漁ってきた。
1920年代は、アメリカが世界史上で最大級の経済発展を享受していた時代だ。第一次世界大戦後の景気が、失業率の低下と中流階級の拡大をもたらした。同時にアメリカは、自国初の本格的な消費者世代の台頭を目の当たりにした。当時、テクノロジーはかつてないほどの勢いで大量生産されていた。つまり、自動車やラジオなどの贅沢品を、ほとんど誰もが所有できたのだ。
また1920年代は、労働者階級が上を目指して豊かになれる、かつてないチャンスの時代でもあった。とりわけ、株を信用買いできるようになったおかげで、株式市場は誰もができるゲームになった。金を借りて株を買い、代金を後払いできるようになったのだ。
多くのアナリストは、株式市場は間違いない安定期に入っていると考えていた。そして最終的には、信用買いなどのリスキーな行為を人々にすすめ、何か悪いことが起きるかもしれないという見方を払拭させたように見えた。
次に起きたことは誰もが知るところだ。20年代の終わり、あぶく銭と信用取引の時代は、著しく過大評価された株式市場をつくりだし、売却が始まった。近代文明が経験したことのない大不況の嵐が吹き荒れ、株価は暴落し、企業は倒産した。そして多くの人々が、長年かけて貯めてきたお金を失った。

効果的だからこそ、「意思」が試されるリモートビジネス

成長と景気後退の変動が避けられないことは、ほとんどすべての経済史で記録されている。次の不況はいつ襲ってくるのだろうかと、多くの人々が思い始めている。
一見、リモートワークの流行は、企業と従業員の両方にメリットを与える素晴らしい話に思える。かかる経費が減るし、オフィス・スペースがいらなくなるし、従業員の満足感や生産性が向上するというのだから、この流行にためらうことなく飛びこめば良いのではないだろうかか?
しかし、やみくもに飛び込む前に、リモート化を検討している企業が知っておくべきことがある。きちんとした戦略や、その多面性に対する理解がないまま流行に便乗してしまうと、見なかったデメリットに直面しているかもしれないということだ。それだけではなく、次の大恐慌を引き起こすことにもなりかねないのだ。
少し大げさに聞こえるかもしれないが、軽率で無責任な企業の行動が経済全体にもたらす効果を十分に理解していないのであれば、企業は盲目的にリモートワークブームを追いかけるべきではない。
企業の無責任な行動は、市場、とりわけ売上の損失や失業者の急増、生産性の低下に大きな影響を及ぼす。現に1920年代の信用取引ブームや、2008年の金融クラッシュを引き起こした不動産バブルで体験している。
リモートワークにはさまざまなメリットがあるし、会社の収益や従業員の生産性・満足感に関する無限の可能性を有しているように見える。しかしその反面、それはリスクももたらす。「労働全体の本質」を変えるこうした力は、軽々しく扱われるべきではない。リモートワークというトレンドは、「これまでのビジネス」を根本から変えてしまうことにもなるのだ。

雇用と労働が流動的になる重大性を再認識する

リモートワークによって、会社の移転や働き手の移動は容易になる。過去数十年にわたって我々が目撃してきた大規模な都市化の必要性も低下する。
会社の内側にいる人々と、それを取り巻く経済の両方に衝撃を与える。こうした影響があるからこそ、責任ある実践と将来に向けた計画が必要性になる。かつての経済安定期に見られた「ちょっと先の未来だけ見る」では追いつかないのだ。
リモート推進企業になるためには、まず自社の事業がリモートワークに適しているかどうかを見極めることが重要だ。一般的に言って、リモートワークが最も適しているのはパフォーマンス・ベースのアプローチを採用しているデジタルビジネスや企業だが、適切なツールやインフラさえ与えられれば、共同作業を行うリモートチームは良い結果を残すことができるだろう。リモートチーム内の連帯感強化のカギを握るのはコミュニケーションであり、その重要性は、リモート推進企業の中核に組み込まれるべきだ。
リモートワークはブームを巻き起こしているし、企業はリモートワーカーを使った人員配置にメリットを見いだしている。リモートワーカー側はそれを、自営や起業への道とみなしている。
ただ、いま改めて言及したいのは、流行だからと言って闇雲に突き進んで良いわけではないということだ。理想論だけではなく、現実に自分が何に足を突っ込もうとしているのか、その課題は何なのかを本当に理解している人はほとんどいない。そうした状態は、混乱や無秩序を生み出してしまう。
意思と覚悟をもった革新があってこそ、「自分がいたい場所にいて、自分に適したやり方で自分の時間を管理できる自由」を手にして理想の働き方が実現できるのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Alexander Torrenegra、翻訳:ガリレオ、写真:Zinkevych/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.