体調管理は「自己責任」か!?

2019/11/4
朝、目覚めると具合が悪い。会社へ連絡し、仕方なく有休を使って休む。日本の職場では、よく見られる光景だろう(あるいは、病気を押してでも出社する方も)。

労働生産性が高いとされるドイツでは「病欠と有休は別物」であり、それぞれで休める日程が規定されている。かたや「体調管理も仕事のうち」といわれる日本。

現在の日本で、ドイツ流の制度をすぐに取り入れるのは難しいかもしれない。しかし、体調管理を自己責任とせず、企業でサポートしていく道もあるのではないか。「健康経営」の最前線に迫った。

【DeNA】CHO室 平井「自己責任論ではもったいない」

平井孝幸(ひらい・たかゆき)DeNA CHO室 室長代理。健康経営アドバイザー。DeNAで働く人を健康にするため2016年1月にCHO(最高健康責任者)室を立ち上げる。健康に関する豊富な知識を駆使し、社員の健康サポートと業務パフォーマンス向上に尽力するほか、社外での講演なども行う。2018年度より、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター研究員として、健康経営をワークパフォーマンス向上につなげるための活動を行う。
プレゼンティーイズムの低下は経営にプラスに働く
 DeNAは2016年、社員が心身共に最高のパフォーマンスを日々発揮できるよう健康サポートを行う専門部署「CHO(Chief Health Officer)室」を設立。2019年2月には、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄2019」において、200社以上が対象の「サービス業」部門で唯一選定されるなど「健康経営」のトップランナーともいえる一社となった。CHO室の室長代理を務める平井孝幸氏は「体調管理を自己責任だけにしていてはもったいない」と語る。
 「プロサッカーチームでは、選手が試合でベストパフォーマンスを出しチームがいい成績を残せるよう、トレーニング施設や体調管理などのコンディショニングに『投資』をします。企業も同様に、社員の体調管理をサポートすることで、社員が会社でベストパフォーマンスを発揮し、それが会社の利益に繋がる構図が描けたらいいですよね」
 平井氏が指標に置く「プレゼンティーイズム」とは、従業員の不調などにより、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下した度合いを指す。実際に、DeNAでも社員アンケートを通じ、生産性が低下している社員の割合が見えてきた。
 「数字として見える化していくと、個人だけの問題ではなく、組織が取り組むべき課題なのだと改めて実感しました。プレゼンティーイズムは研究機関などが算出方法を公開しており、DeNAではそれらをミックスした、独自の基準によって運用しています。ただ、あくまでDeNAとしてのKPIであり、指標は企業ごとに応じたものを選ぶべきだと考えます」
課題解決型プロジェクトで参加を促す
 設立当初の2016年。社内に向けて健康に関するセミナーや研修を100回ほど実施。そこで、平井氏は「この手のセミナーは、健康に対する意識が高い人しか受講しない」と気づく。
 「むしろ、健康に関心のない人たちを引き込み、セルフコンディショニングできるようにしていくのがポイントでした。様々に思案する中で行き着いたのが、課題解決型のプロジェクトです。健康意識の有無ではなく、腰痛や花粉症といった具体的な課題を掲げることで、実際に困っている人が受講しやすくなります。そこで症状ごとに施策を打ちました」
 IT企業のため、仕事の多くはデスクワークで、姿勢の悪さからおこる腰痛や肩こりの悩みは多く聞かれた。平井氏は医師による腰痛関係の本を読み漁り、信頼が置ける専門家へコンタクト。医師経由でメーカーや研究所ともつながりを持ち、協力を仰いだ。
 同様に他のプロジェクトでも、平井氏は「目利き」として働く。CHO室長を兼任する南場智子会長からもCHO室設立当初、「社員の健康に関するゲートキーパー」としての働きを指示されたそうだ。現在も取り入れる施策や製品の科学的根拠の有無は厳しくチェックする。
 健康経営への取り組みは、採用強化、ブランディング、社員のロイヤリティ・マネジメントの向上などにもつながる期待が持てる。今後、その成果をまとめて発表していく予定だという。

【at Will Work】藤本「“アスリート”基準の体調管理を」

藤本あゆみ(ふじもと・あゆみ)at Will Work代表。大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て、営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPRマネージャーとしての仕事を経て、2018年3月より現職。
 企業や人、団体の「働き方」事例を共有するプラットフォームとして、ノウハウの蓄積・体系化を進めるat Will Work。
 代表理事の藤本あゆみ氏は、Googleで女性活躍プロジェクトの担当を経て、at Will Workを設立。国内外のワークスタイルに目を光らせる藤本氏に「体調管理は自己責任か?」を問うと、体調管理を必須と捉える「ビジネスアスリート」の考え方を提案してくれた。
パフォーマンス管理は当然
 「アスリートならば、体調管理やパフォーマンス向上への意識は当たり前です。つまり、パフォーマンスのマネジメントという意味では会社の介入は可能ですが、個人の健康そのものはマネジメントできないと思います」
 藤本氏が指すアスリートは、誰しもが肉体を鍛え上げ、オリンピックを目指すような存在だとは捉えていない。挑む競技や戦い方、目指したい成果、あるいはメンテナンスの方法は個人で異なって当然だ。仕事を生涯スポーツとして捉えると、イメージしやすいだろうか。
自己責任は「選び方」に宿る
 ただ、「働き方改革」と社員のパフォーマンス管理には乖離があるようだ。
 「単なる残業時間の削減は、残業代の圧縮につながり、成果が数値で見えやすいために取り組む企業は多いです。ただ、業務量を変えずに効率を上げようとするのは問題。“やらないことを決める”マネジメントに立ち返らないと、全員が疲弊してしまう」
 導入が進むリモートワークも、本来的にはパフォーマンス向上施策である。
 「私がいたGoogleでもリラックスやトレーニングなどやっている人たちがいましたが、大事なのはパフォーマンス向上です。瞑想よりもダンスが合う、1時間の筋トレ後は捗るといったように、各々が自分に合う方法を試してみた上で相性を知り継続していきます。」
 ここには一つの理想形が見える。会社はバラエティに富む手法を用意し、個人が必要なアプローチを選び取るという図だ。その「選び方」にこそ自己責任が生まれる。
 「たとえば、健康食品の細分化は、細かなニーズに応えるためにあるはずです。キャリアや働き方、あるいはパフォーマンス向上策も、自分にとってのニーズを各自で考え、摂取するような動きへ変わっていくでしょう」
 その姿は、記録や成果に挑むアスリートと確かに重なる。企業が「体調管理は自己責任」を謳うならば、まずはパフォーマンスの意識に切り替える変革があってこそなのだ。

【SOMPOひまわり生命】「さりげなく」が形骸化を防ぐ

 SOMPOホールディングスは、全社的に「健康経営」を推進している。顧客へ「安心・安全・健康に資する最高品質のサービス」を提供するためにも、社員とその家族の健康を大切にする考えが根底にある。
 グループ会社であるSOMPOひまわり生命保険株式会社(以下、同社)でも、2016年4月の中期経営計画より「健康応援企業」を掲げ、健康増進策に取り組んでいる。今回は人財開発部の望月亜季子氏、経営企画部の東里香氏に施策を聞いた。
SOMPOひまわり生命は「あなたが健康だと、だれかがうれしい。」を企業スローガンに、世界で最進・最優の生命保険会社として、保険商品の販売にとどまらず顧客が健康になることを応援する。
一日中使える開放的なラウンジ
 仕切りだらけの会議室フロアを一新し、2019年3月末に完成したラウンジ。同社の健康経営を象徴する場所だ。
 「壁を取り払い、閉塞感のある会議室をなくした結果、打ち合わせも短時間で終えられるようになりました。働き方改革と健康経営を兼ね備えたような場所」(東氏)
 ラウンジには健康器具や姿勢矯正用の姿見などはあるが、重視するのは「さりげなさ」だという。取り組みを形骸化させないためにも、社員にも無理強いをしない。ラウンジもフィットネスジムのような空間ではなく、無理なく一日中使えるスペースを意識している。
全社員にFitbitを貸与
 社内でも「睡眠改善」などの健康セミナーや、健康にまつわる社員参加のディスカッションを定期的に開催。食生活アドバイザー、健康経営アドバイザーなどの資格取得も推奨している。
 全社員3000名へ活動量計のFitbitを貸与したのも特徴的だ。東京大学センター・オブ・イノベーションとも協力し、収集した活動データを元に疾病リスクとの因果関係解析を進めている。
 「Fitbitはコミュニケーションでも役立ちます。部署間や支社間で万歩計の歩数を競ったり、社内SNSでも活動データの投稿は話題になったりしますね」(東氏)
“インシュアヘルス”の実現を
 同社が目指す健康経営のあるべき形は、「保険」と「健康」を組み合わせた造語「Insurhealth®(インシュアヘルス)」に集約されるという。その姿勢は、スローガンの『あなたが健康だと、だれかがうれしい。』でも表現される。
 「社長を旗振りに、弊社では健康経営を経営戦略の一つとして位置づけています。実現のための投資にも積極的」(望月氏)
 営業を担う代理店教育においても、健康に主眼を置いた研修をより設けるなど、従業員の意識変革にも努める。彼らにとって健康は福利厚生ではなく、企業アイデンティティと呼べる存在だ。全社を巻き込み、無理なく続ける。健康は一日にしてならず、ということだろう。
従業員と企業で、乱数をコントロールする
 「支払う給料分に見合う働きを実現してもらうほうがいい」、「個人の健康そのものはマネジメントできない」、「社長を旗振りに、健康経営を経営戦略の一つとして位置づけている」。
 三社のインタビューで語られたのは「体調管理は自己責任である。しかし、企業側にもできることはある」という、建設的な意見だった。
 運動、睡眠、食事、精神状態——体調管理には、さまざまな乱数がからむ。それぞれを正確に把握し、従業員と企業が分担してコントロールする。そんな協力関係が、体調維持に寄与し、働き方改革の推進につながっていく。
ボディメンテ製品概要
 「乳酸菌B240」は、大塚製薬の長年にわたる腸と乳酸菌に関する研究から、その働きを確認した植物由来の乳酸菌。『ボディメンテ』は、この「乳酸菌B240」と、体調管理をサポートする成分を組み合わせ、“飲んでカラダをバリアする”2つのアイテムを展開している。
 2017年、「乳酸菌B240」と「タンパク質」を組み合わせた「ボディメンテ ゼリー」を発売。運動や仕事によるハードな日々の体調管理に活用されている。続いて2018年、「乳酸菌B240」と、カラダの水分量を維持する「電解質」を組み合わせた「ボディメンテ ドリンク」を発売。低カロリーですっきり飲みやすく、日常的な水分補給習慣に取り入れやすいことから、ビジネスパーソンをはじめ、体調管理を心がける現代人の健康をサポートしている。
 大塚製薬のサイトでは本記事の他にも、プロサッカー選手の柴崎岳さんをはじめキャスターや警備員など各業界のプロにもインタビュー。それぞれの体調管理法について記事を掲載している。
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(執筆:長谷川賢人、撮影:飯本貴子、高澤梨緒、編集:株式会社ツドイ、デザイン:斉藤我空)