今の自分の評価に耳を傾けて学び、進化し、適応していくためには

どんなリーダーだって、意思決定者や経営者、同僚として成長し続けることができるように、自分の今のパフォーマンスを評価する手段を持っているべきだ。だが自分の強みや弱みについての詳しい、正直な説明を見つけて、それを基に行動を起こすための最善の方法とはどのようなものだろうか。
米ケロッグ経営大学院のカレン・ケイツ非常勤教授は、「多くのリーダーが同じ疑問を抱いている」と語る。「自分自身をどう評価したらいいのか。自己認識力を高めるにはどうしたらいいのか。そしてその自己認識をどうやって効果的なリーダーシップに変えていけばいいのか」
ケイツとその同僚のブレンダ・エリントン・ブース臨床教授は長年、この難題に直面するリーダーたちへのコーチングを行ってきた。2人が挙げる「自己認識力の高いリーダーになるための4つのステップ」を以下に紹介しよう。

①評価の先に目を向ける

数多くある評価ツールは参考になり得る、というのがケイツとブースの考えだ。これらのツールは、リーダーたちが自分自身や自分の価値、モチベーションについての新たな視点を得る手段になると2人は指摘する。
「自分の思考パターンや行動を理解するための言葉を与えてくれるものは何でも、自己認識を具体化させるのに役立つ可能性がある」とケイツは言う。「リーダーシップは絶えず変化するものだ。時にはいつものやり方から抜け出して、新しい可能性に目を向ける必要がある」
だが2人は、こうした評価は「自己評価プロセスの終わり」ではなく、「始まり」と考えるべきだと注意を促している。重要な洞察につながる議論を始める「きっかけ」と捉えるべきだと。
「評価は役に立つものだが、リーダーシップ開発における最も重要なものではない」とブースは言う。「だからどんな評価ツールを使うにせよ、コーチや上司、仲間と話をするべきだ。面と向かって質の高いフィードバックを得ることは重要だ。対話のような形で、相手のフィードバックに対して質問できるようにするのがいいだろう」
こうした対話は、評価と同時期に行うといい。結果を受けて、自然な流れでより細かなフィードバックを求めることができるからだ。ケイツとブースは、評価内容を「あなたならどう解釈するか、これに基づいてどう行動するか」と尋ねるところから始めることを勧めている。自由に回答できるスタイルの質問をすることで、評価結果が仕事やプライベートにおけるあなたの発展にどう影響を及ぼし得るかについて、自分以外の視点からの意見を得ることができる。
ケイツはまた、相手によって質問を変えることを勧めている。「コーチはあなたと一緒に深く掘り下げてものごとを考える。上司はあなたのリーダーとしてのスキルについて、独自の目標を設定している。同僚の意見は、コーチや上司に比べると控えめなものになる可能性がある。真の学びのチャンスとして彼らとの対話に臨むなら、彼らが意見を出しやすくするのが効果的だ」

②より優れたリーダーになるために、何を変えられるかを考える

あなたの行動や人格の歪み、偏り、強みや弱みについての重要かつ実用的な洞察につながるフィードバックは、最も価値のあるものだ。人や状況に対する自分の感情的な反応を振り返ることが、自己認識力を高めるチャンスをもたらしてくれることもある。
ひとつ例を挙げよう。ケイツのあるクライアント(若い女性幹部)は、ミーティングで年上の男性の同僚たちから反論された時の対応に苦慮していた。彼女はそのほかの状況においては自信を持ち、活動的で、てきぱきと行動していた。だがミーティングで男性に反論されると萎縮してしまい、それが自分のリーダーシップについて、ほかの同僚に与える印象に影響を及ぼすのではと懸念していた。
そこでケイツはコーチングの中で彼女の強み――学習能力や人とうまくやっていける能力――に焦点を当て、その強みを生かして、特定のチャレンジの負担を和らげ、いつもどおりの自分を維持できるような対応メカニズムを築いた。過去の状況を再現してみたところ、クライアントは、自分以外の人が困難に直面した時に手を差しのべて、ミーティングを本来の議題に戻すのに役立つ言葉を幾つも挙げることができた。そしてそれを使って、そうした瞬間に直面した場合の自分についての認識を高め、ミーティングの進行を遅らせるような発言の後の沈黙を打ち破り、議論の流れを維持することができた。
企業幹部の強みが弱みになり得ることもある。ブースがコーチングを行っているある女性は、透明性と真実、公平性を重視している。いずれも一般には高く評価される傾向だ。だがそれが時に、まるで彼女が自分以外の人々に食ってかかったり、自分の意見を押し付けたりしているような印象を与えかねない。
「自己認識ができれば、どれだけ周囲に合わせるかを決められる」とブースは言う。その場の空気を読み、時には「ありのままを指摘する」ことにこだわるよりも、他人のミスや不安に対してもっと思いやりを持つよう努力することができるだろう。

③「変化」を目的にしてはならない

フィードバックは誰かに「こうしろ」と言われるための情報ではなく、自分の引き出しを増やすための有効な情報だと考えよう。リーダーならば、それが気まずい空気をもたらすと知りながらも、戦略としてありのままを指摘することはあるかもしれない。
だがそうした状況に直面した場合、ほかの人々が自分のやり方を理解しやすいようにすることが重要だ。チーム・ミーティングでの発言が「きつい」というフィードバックがあった人の場合は、同僚にこう言うようケイツは勧めている。「いま私がきつい言い方をしているのは、このプロジェクトがどれだけ重要か理解して欲しいからだ。あなた達がきちんと期限までに出来ないと思っているからじゃない。だからどうやって前進していくかを話し合おう」と。こうすれば、チームがプロジェクトに取り組んでいく上での自信を与え、同時に成功への期待感を伝えることができる。
すぐに実行可能な何かを学んだからといって、必ずしもそれに基づいて行動を起こす必要はないことも覚えておくべきだろう。「大切なのは他人の声に耳を傾けた上で決断を下すこと。『自分が組織と自分自身のためにしようとしていることを考えた上で、変化を加える価値があるかどうか』を考えるべきだ。効果的なリーダーは状況を把握して何が必要かを見つけ出し、チームにとって適切で価値のある対応を選ぶものだ」とブースは言う。
ブースのコーチングを受けている、比較的上級職に就いているクライアントは、自己評価を行ったことで、自分は特に膨大な量の情報処理が必要な意思決定を行う際に急かされるのが嫌いだということに気づいた。彼はチームから高く評価されているものの、最近メンバーから上がったフィードバックの中に、彼が仕事の進行を遅らせているのではという懸念を示唆する声があった。
「自己認識が深まったことで、彼は以前よりも自分に自信を持つことができるようになった」とブースは言う。「そういう自分が『ありのままの自分』だと分かったのだ。だがそれをチームに伝える方法を見つける必要はあった。大きな決断を下すには24時間かかる場合があるかもしれないことや、チームが十分な情報に基づいた判断を下せるように、より詳細な分析を行うことを重視していることを説明しなければならなかった。彼は自分についての認識を変えることができた。自分についての評価、他者からのフィードバックとコーチングを組み合わせたことで、それが可能になったのだ」
自分についての認識を深めることはある意味、いかに「ありのままの自分」を受け入れるかを学ぶためのプロセスだとケイツは言う。「ありのままの自分に自信を持ち、ほかの人々が自分のいいところを理解できるようにするのだ」

④自分のリーダーシップ・スタイルについて的を絞った内省を

ケイツもブースも、リーダーは自分を省みることを学んでいくと示唆している。だが内省はきちんと目的を持って行わなければ役に立たない。つまりリーダーにとって、そして組織にとって最も重要なのは何かを戦略的に考える必要があるのだ。自分を省みるというのは、単に過去を振り返ることだけではない。問題が起きてから対処するのではなく、先を見越して行動できるようにすることでもあるのだ。
「気づきやひらめきの瞬間」を達成するために瞑想やマインドフルネスを実践するリーダーもいるし、特定の問題や障壁についてじっくり考えるために日記をつけたり討論会に参加したりするリーダーもいる。そして多くのリーダーが積極的かつ先を見越した内省を行う手段として、管理職向けのコーチングに頼っている。コーチたちは、思い込みをなくして問題を見直し、フィードバックを受け入れるためにマンツーマンで取り組む機会を提供する。
「リーダーシップとは、単に評価を受けたりセミナーに出席したり、各種記事を読んでデスクトップのフォルダに整理しておいたりすることではない」とケイツは言う。
たとえば週に1時間か2時間程度、今後予定されているミーティングやプレゼンテーションについて考える時間をつくるのもいいだろう。それぞれの状況で自分の自然な反応や対応がどのようなものになるだろうかと考え、それが適切なのか、有意義なのかを考える。より効果的な対応ができるように、どんな調整ができるだろうか。どんな質問を用意しておくべきなのか。リーダーはそれを考えることによって、自己認識力を高めていくことができるのだ。
「これはずっと続いていくプロセスだ」とブースは言う。「学び、進化し、適応する。そして心の片隅では常に、どこに付加価値をもたらすことができるのかを考えているのだ」
※本記事はケロッグ経営大学院の機関誌に掲載されたものを同大学院の許可を得て再発行したものです。原文はこちら(英語)。
(翻訳:森美歩、写真:Martin Barraud/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.