【新】ユカイ工学・青木俊介、かわいいロボットで世界と戦う

2019/10/6
東京大学在学中の2001年にチームラボを猪子寿之氏らと設立し、CTOに就任した青木俊介氏。中学2年生のときに映画「ターミネーター2」を見て、AIの開発とロボットづくりに憧れた。

その夢を実現するため、2007年にユカイ工学を設立。一家に1台ロボットがある世界を目指し、かわいい「未来のロボット」をつくっている。機能をあえてミニマムにしぼり、一緒に生活する家族や友達のような存在だ。

コミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」のモチーフは「座敷童(ざしきわらし)」。しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」は撫でるとしっぽを振る。

日本人らしいユニークな感性を追求し、グローバル市場を見据える青木氏の哲学に迫る。(全7話)
【青木俊介】猪子君とチームラボを起業。親は「ソニーに行け!」
「あっ、LEGOのTシャツだね」
「おお、LEGOの時計じゃん」
それがのちにチームラボを一緒に起業することになる猪子寿之君との初めての会話でした。
当時の猪子君は、「ベンチャー! ベンチャー!」と盛んに口にしていました。一方の私は、ベンチャーにはさほど興味はありません。
魅了されていたのは、むしろ人工知能です。
任天堂の影響を受け、「メイド・イン・ジャパンでカッコいいものをつくろう」と話しながらつくった会社が、チームラボです。
メイド・イン・ジャパンでカッコいいものをつくろう。
私は両親に、就職ではなく起業する道を選ぶと伝えました。
すると、父に胸倉をつかまれ、烈火の如く怒鳴られました。
「ソニーや東芝に行け! お前は猪子にだまされてるんだ!」
【青木俊介】AIを学ぶために入った東大で直面した現実
小学校時代に新聞クラブに入っていて、「学級新聞にどんな記事を載せようか」と、日経の紙面はすべてチェックしていました。
当時の経済面には、インテルの新製品発表といった、パソコン情報が多数掲載されていました。
「これからはパソコンの時代が来るから」と、記事を見せながら親にプレゼンし、半年ほど説得した末に、何とかパソコンを手に入れることができました。
これからはパソコンの時代が来る。
【青木俊介】テクノロジー視点が先走り、「大事なこと」が欠けていた
振り返ってみると、どれもテクノロジー視点で始まったサービスばかり。ユーザーが何を求めているかという視点が、完全に欠けていました。
「とにかく新しいテクノロジーをつくりたい」。そんな思いが、先走っていたのです。
新しいテクノロジーをつくりたい。
【青木俊介】チームラボを辞めてロボットをつくりたい
「会社を辞めて、ロボットづくりをやりたい」
苦楽をともにしてきた猪子君にも、伝えづらい決断でした。
その後、立ち上げたのが、「ロボティクスで、世界をユカイに」をテーマにした合同会社である「ユカイ工学」。2007年末のことでした。
ロボティクスで、世界をユカイに。
社名の「ユカイ」は、憧れていたソニーの設立趣意書にある「自由豁達ニシテ“愉快”ナル理想工場ノ建設」という一節に由来しています。
モノづくりが好きなエンジニアが集まって、ユカイに仕事ができる場所をつくりたい、という思いも込めました。
【青木俊介】ピクシブCTOに就任。エンジニアの「重要な資質」とは
ピクシブではCTOとして採用を担当することもありました。一緒に働きたいと思うのは、ひたすらモノをつくっているようなエンジニアです。
新しいものに触れることは、エンジニアとして非常に重要な資質で、その意味でも、新しい技術をインプットして、休みの日は平日よりもさらに没頭して何かつくっているような人が理想でした。
新しいものに触れることは、エンジニアとして重要な資質。
ピクシブ創業者の片桐孝憲さんは、興味のないことはやらないというスタンスを徹底していました。
興味がないからとまったく営業をせず、来た仕事をこなしていくやり方。仕事が降ってきたら捕まえるという、食虫植物のようなイメージです。
【青木俊介】20年以内にロボットブームが来ると予想して起業
私はロボット好きといっても、戦闘型ロボットには興味がありませんでした。
頭に描いていたのも、ぬいぐるみのようなかわいいロボットたちでした。
ガンダムのように戦うのではなく、ドラえもんのように友達になれて、自分の部屋で一緒に生活できるような存在――。
戦うのではなく、友達になれるロボット。
「BOCCO(ボッコ)」はスマホアプリと連動することで、家にいる家族と気軽にメッセージのやりとりができるロボットです。
「BOCCO」を発表した2014年までは、「ロボットビジネスをやっています」と話したところで、まともに取り合ってくれる人はほとんどいませんでした。
私が2007年に起業したのは、「20年以内にロボットのブームが来て、市場が拡大する」と予想したから。ただ、そんな未来が5年後に来るのか10年後に来るのかまでは、わかりませんでした。
ロボットブームが来て、市場が拡大する。
それが起業から、たった7年でのロボットブームの到来です。「意外と早く来たな」という感覚でした。
【最終話・青木俊介】日本人の「かわいい」感性は世界で戦える
私たちが目指す一家に1台のロボットという世界は、マイクロソフトではなく、任天堂に近いと言えます。
「面白い」「かわいい」という日本のユニークな感性なら、世界でも十分に戦えるはずです。
日本のユニークな感性は、世界でも十分に戦える。
(予告編構成:上田真緒、本編構成:小谷紘友、撮影:竹井俊晴、デザイン:國弘朋佳、早山 悟)