【完結編】ビジュアルを制するものが、ビジネスを制す

2019/11/21
2019年10月29日(火)東京・渋谷ヒカリエで「Instagram Day Tokyo 2019」が開催された。
日本国内での月間アクティブアカウント数は3300万を超え、18〜29歳の若年層が1カ月間で接触している総利用時間が1億時間以上にのぼるInstagram。
本イベントでは、そんな若年層にとって“マスメディア化”するInstagramの効果的なビジネス活用や最新トレンドの紹介のほか、優れた広告クリエイティブを評価する「Mobile Creative Award」も行われた。
「ビジュアルコミュニケーション最前線」をテーマにお届けしてきた連載の最終回は、約1300人のマーケターやPR担当者が集まり、大盛況となった当日の内容をリポートする。

インタラクティブにシームレスに利用者とつながる

月間アクティブアカウントが3300万を超えたInstagram。利用者の増加に伴って Instagramのビジネス利用も右肩上がりで増えている。
その背景にあるのは、Instagramのマスメディア化だ。18〜29歳の若年層はテレビよりもモバイルとの接触時間が圧倒的に多い。起床から就寝まであらゆる時間に接触しているため、若年層に効果的にリーチするにはInstagramの活用が欠かせない。
本イベントのために来日した同社製品部門責任者のVishal Shah氏は、セッションで「Instagramをビジネス活用する際に注目してほしいのが『発見タブ』と『ストーリーズ』『ショッピング機能』だ」と語った。
「オーガニック投稿は通常、自社のアカウントをフォローしている利用者にのみ表示されます。でも「発見タブ」は、フォロワー以外の投稿を利用者に“おすすめ“する場所。したがって、自社アカウントをフォローしていない利用者にもリーチ可能です。
しかも、利用者の興味関心に合わせて画面をパーソナライズしているので、ターゲットと自社アカウントの親和性が高いことが期待できます」(Vishal氏)
Instagramの『発見タブ』には、利用者全体の50%が毎月訪れている。支持される理由は、自分の興味関心に近い投稿が表示されること、そしてビジュアルでの検索ができることだ。
特に、若年女性層は流行のファッション情報や話題のグルメスポット、レジャースポットは『発見タブ』からハッシュタグで探すのが当たり前になりつつある。
つまり、『発見タブ』を開くと、利用者の興味関心にパーソナライズされたさまざまなビジュアルが表示され、商品やサービスに興味を持ちそうなターゲットに、ダイレクトにリーチできる可能性が高いということだ。
次にストーリーズだが、実は日本は世界有数のストーリーズ大国で、デイリーアクティブアカウントの70%が利用している。
さらに、日本で1日に投稿されるストーリーズの数は約700万。これを時間に換算すると映画約1万本分にあたるという。
「ストーリーズは広告活用もでき、アンケート機能などを活用するとよりインタラクティブなやりとりが可能になります。ビジネス活用においてはオーガニック投稿だけでなく、広告配信でも双方向のコミュニケーションを取ることがポイントです」(Vishal氏)
最後にショッピング機能。これはアップデートを繰り返しており、現在特定の市場でテストをしているのが、新商品や限定商品の発売前に活用できる機能だという。
「新しくテストしているのは、投稿を見て商品を購入したいと思った利用者が、商品の発売日をリマインダー設定すると、発売日に Instagramから通知が届く機能。実際、通知後に3分で完売したスニーカーもあります」(Vishal氏)
さらに、ARで化粧品やアクセサリーなどの商品を試せる機能のテスト運用を開始。
現時点では、化粧品やアクセサリーなどの顔周りの商品だけだが、いずれは洋服や家具などもARで試せるようになるかもしれない。
「実は、今年の夏から日本にInstagramの製品チームを置いています。エンジニアやデザイナー、データサイエンティストなどから成るチームで、日本を理解して製品に反映させ、日本で学んだことを世界展開したいと考えています」(Vishal氏)

オーガニック投稿と広告でリーチを最大化する

Instagramはインフルエンサーを使ったマーケティングが効果的であり、わざわざ広告を出稿する必要はないと思われるかもしれない。
あるいは企業の公式アカウントからのオーガニック投稿を通じてフォロワーを増やせばいいのではないか、と。
しかし、実はオーガニック投稿と広告の両軸でブランディングするのが効果的だと、クライアントソリューション マネージャーリードの丸山祐子氏は言う。
「オーガニックの投稿でリーチできるオーディエンスには限界があり、それはインフルエンサーを活用しても同じで限定的なものでしかありません。その点、Instagramの広告はFacebookと同じ広告配信システムを利用しているので、ターゲットや広告が表示される回数などをコントロールできます。
ですから、フォロワー獲得やインフルエンサー活用に躍起になるよりも、広告を活用したほうが本来のターゲットに広く確実にリーチできるのです」(丸山氏)
月間アクティブアカウント数が3300万を超えたことで、広告のインプレッション数は右肩上がりで増加しており、しかも他のプラットフォームに比べても低コストでターゲットにリーチできるそうだ。
実際にサムスン電子ジャパンは、Instagram広告を活用したことで新商品のブランディングに成功した。
「先日、写真や動画を撮影すると、そのままInstagramに投稿できる機能を搭載した『Galaxy S10|S10+』をリリースしました。
この商品のターゲットは、初めてスマホを買う世代を含む若年層。ターゲットにリーチするためには、全画面で直感的に訴求できるビジュアルコミュニケーションは必須で、それを実現できるチャネルはテレビCMではなくInstagram広告でした。
5年前はテレビへの出稿がメインだったのが、近年ではデジタルメディアへの投資比率も拡大しています」(サムスン電子ジャパン)
「Galaxy S10」はローンチのタイミングはもちろんのこと、長期的なブランディングや販売促進を重視したInstagram広告の配信によって、効果を最大化しているという。

ストーリーズ広告のメッセージは、シンプルに

Instagram広告において、常にマーケターの頭を悩ませるのは広告クリエイティブだ。キャンペーンを成功に導くカギを握るのは言うまでもない。
実際、「クリエイティブの品質が売り上げの伸びに影響する割合は56%を占める」と語ったのは、クリエイティブショップ クリエイティブストラテジストの栗山修伍氏だ。
栗山氏は、スマホ広告のトレンドが「縦型広告」にシフトしていると強調する。
スマホを使用中に縦に持つ割合は90%、動画を見ている際に向きを変えないのは82.5%という数字からも、多くの企業が「ストーリーズ広告」の活用を始めているという。
続けて、ストーリーズ広告の効果的なビジュアルコミュニケーションについて、ポイントが語られた。
「ストーリーズ広告を作るポイントは、『ルック&フィール』『ブランドと製品』『フォーマットの活用』の3つです。
『ルック&フィール』とは、最初の1秒から視聴者を惹きつけるような仕掛けを作り、シンプルに一言でメッセージを伝えること。直感的なビジュアルとシンプルな導線で構成すると効果が最大化する傾向にあります。
次に『ブランドと製品』ですが、ストーリーズ広告の最初にブランド名やロゴを表示させている広告ほど、認知率の向上が見られます。
また、人物が登場する広告は認知効果が高く、商品にフォーカスを当てた広告は獲得効果が高くなります。
最後に『フォーマットの活用』について。ストーリーズは静止画や動画で自由に構成できるのですが、広告の場合はその両方をミックスさせると、86%の確率でパフォーマンスが高いという結果が出ています。
また、同じクリエイティブでもアンケート機能を入れるだけでエンゲージメントが高まるという結果も出ました」(栗山氏)
では実際に、どのような広告クリエイティブがブランドと人のつながりを作り、次のアクションを生み出すのか。
ストーリーズ広告によって利用者の心が動かされ、次の行動につながった広告クリエイティブを表彰した「Mobile Creative Award」が参考になるかもしれない。

Mobile Creative Award

Mobile Creative Awardの審査基準は「見た人の心に響く、心を喜ばせる」「アクションを誘発する」「親指を止める」「見た人を引き込むストーリー」「ビジュアルプラットフォームならではの表現」の5つ。
審査員には、I&COファウンディングパートナーのレイ・イナモト氏や、博報堂ケトル共同CEOの木村健太郎氏、資生堂クリエイティブディレクターの小助川雅人氏など、クリエイティブの重鎮たち10人が名を連ねる。
では、グランプリと準グランプリ、Instagram sprint賞の3つを紹介する。

グランプリ

「ファンタ坂学園」
企画制作:博報堂、クライアント:日本コカ・コーラ
このクリエイティブの優れたポイントは、学生など若年層はストーリーズを使って普段から友達とコミュニケーションを取っていることに着目したこと。
若年層の日常に溶け込むような“変顔”動画を作っているだけでなく、下にスクロールするとファンタ学園のアカウントに飛び、そこで46種類のさまざまな変顔動画を見られるのだ。
広告を見るだけでなく、ターゲットを次のアクションにつなげたことが高く評価された。

準グランプリ

「ゆうこす×マジョリカマジョルカ 若者メイク実態調査」
企画制作:サイバーエージェント、クライアント:資生堂ジャパン
YouTubeでメイク動画「ゆうこすモテちゃんねる」を配信する“ゆうこす”こと菅本裕子氏と協業し、若者メイクの実態調査を数字とともに訴求。
最後まで見てしまう、スキップさせない工夫が随所に盛り込まれており、かつ縦動画を最大限に生かした点が評価された。

Instagram sprint賞

「誰だってモンスターになりたい時がある」変身編
企画制作:電通デジタル・ピクト、クライアント:b-monster
Instagram sprint賞とは、Facebook社が全世界で提唱するクリエイティブメソッド「Instagram AD Sprint」の手法にのっとった作品の中から、最も優れた作品に与えられた賞。
たった6秒の短い広告だが、まるで友人が投稿したかのようなオーガニック風の動画から、ボクシンググローブで画面を割る演出に一転する、何度も見たくなるようなインパクトが評価された。
Instagramの進化とともに、そこで展開される広告も進化を続けている。大切なのは、動画や静止画で人の心を動かすクリエイティブ、インタラクティブな広告を作ることだ。
従来のクリエイティブとは違う「ビジュアルコミュニケーション」を洗練させ、消費者とダイレクトな関係性を構築することが、これからのビジネスの成否を左右する要因になっていくだろう。
(取材・構成:田村朋美 撮影:岡村大輔 デザイン:九喜洋介)