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BBC人気番組、SHERLOCKを演じたカンバーバッチが、今度はチューリングを演じる。そうきいた時はドキドキしたものだ。自分の好きな俳優が自分のヒーローを演じるなんて。チューリングこそイギリスが生んだAI研究の真のヒーローである。それでこの取材。

チューリングは、かけっこが得意で、ゲイで、ナチスの暗号を解読し、コンピュータを考えた天才。
それでもなかなか世に出なかった。彼の理論が魚など生命の縞々模様を説明することが認められたのが15年前。ゲイだからと迫害したことをイギリス政府が謝罪したのが10年前。
今年はついに英国の新50ポンド札の肖像画にチューリングが採用されるという。

今やチューリングが世界的に認められる時代がやってきた。それは嬉しい限りである。
しかしここまでくるとちょっと寂しくもあるファン心。
「人工知能の父」とも言われるアラン・チューリングの「論文」を、ちゃんと読んだことのある読者は、そう多くはないはずです。

と、私も今回初めて読んでみたのですが、なんのことだかちんぷんかんぷん(苦笑)。いや、頑張って読んだのですが。そこで、その本質や学術的意義を専門家に解説していただくことにしました。

天才チューリングについて語りたいという数学者や科学者は多数いらっしゃるでしょうが、人工生命(ALife)研究者の池上高志さんもその一人。「チューリング、 かっこいいなと思いますけど」という池上さんに、彼の魅力まで語っていただきました。
人間の思考を0と1の2進法で説明できる、というのは、人間の神秘性を剥ぎ取る発想のように受け取られがちでした。20世紀は、複雑極まりないそれこそ神でなければ造り出せないとも信じられた人間というものを、驚くほどシンプルに説明しようとする様々な試みが数多く出てきました。
 心理学でもそういう試みはありましたが、大きな役割を果たしたのは数学と哲学の連携でした。まず、ウィトゲンシュタインが、人間が言語によって言える「真」であることは何なのかを突きつめました。論理学が復興し、言語哲学という分野が興りました。これで、人間の(言語による)思考を論理と数学で説明する道が開けました。
 また、同時期には、言語学でもソシュールに始まる言語学の根本的な変化が起きており、言語をはじめとする記号において「意味するもの(シニフィアン」)と「意味されるもの(シニフィエ)」の間には必然的な因果関係は無いという考え方が支配的になりました(🐕がイヌという単語で表されねばならない必然性は無く、ただそういうルールであるからそう呼ばれるだけ)。
 1930年代には、シャノンによって、2進法で電子回路が設計されるようになりました。
 これらは、さかのぼれば、17世紀に、人間が認識できる真理とは何か突きつめようとしたデカルト、やライプニッツに行き当たります。ライプニッツは、中国の陰陽論、特に易経に影響を受けて、人間の思考を2進法で表せる論理にすれば、人間の思考が誤ることはなくなる、といったアイディアを持ちました。このあたりが、プロトタイプになっていて、2進法によるコンピュータ理論や、人間の思考を極限までシンプルに説明するようになったことは、400年におよぶ西洋の強力な知的な欲求が行きついたところです。
3番目のモルフォジェネシス(形態形成)の論文の補足です。この論文内でチューリングは「拡散反応方程式」を提唱し、生物の皮膚の模様や体内の分子分布は連立偏微分方程式で説明できるという論文です。

The Chemical Basis of Morphogenesis(形態形成の化学的原理)
http://www.dna.caltech.edu/courses/cs191/paperscs191/turing.pdf

現在大阪大学の近藤滋先生が1995年に、タテジマキンチャクダイという熱帯魚の模様がこの方程式でできていることを初めて実験的に証明しました。
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/skondo/paper/kondo%20Nature%201995.pdf
(写真を見るだけでも楽しいのでぜひ)

皮膚の模様だけでなく、受精卵からの体づくりにも使われていると考えられています。これが記事中の「いま、それはやっと生物学者に受け入れられつつある」の意味するところです。

当時の近藤先生のエピソードが非常に面白いので、ぜひ読んでください。

生命科学でインディジョーンズしよう(前編)
https://www.fbs-osaka-kondolabo.net/post/%E7%94%9F%E5%91%BD%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%A7%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%97%E3%82%88%E3%81%86-%E5%89%8D%E7%B7%A8

生命科学でインディジョーンズしよう(後編)
https://www.fbs-osaka-kondolabo.net/post/%E7%94%9F%E5%91%BD%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%A7%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%97%E3%82%88%E3%81%86-%E5%BE%8C%E7%B7%A8
池上さんがここで語っている「意味の病」とは一体なんだろうか、と考えている。
それは、恐らく支配的な物事の捉え方、自分の領域の言葉で言うならばドミナントストーリー、いうなれば、「常識的な考え方の枠組み」に支配されることではないだろうか。

池上さんを以前インタビューしたときに、自己組織化する生命が、自己組織化のルールを打破して、それを新たにしていくことを進化と呼ぶのであって、それはどうやって可能なのか、ということを考えていらした。
人間は知らず知らずのうちに、意味の病にかかって、どうでもいいことを求め続け、自分を無意味化させていく。
チューリングが述べたかったのは、もっと人間は意味から自由だということなんだろう。
ベネディクト・カンバーバッチが第二次世界大戦下のアラン・チューリング役に挑んだ映画『イミテーション・ゲーム』。ご覧になりましたか? 解読不能と言われたドイツ軍の暗号エニグマを解読するため、それを解読する電気と歯車で動く機械を開発。これがなかったら、第二次世界大戦はもっと長引き、より多くの戦没者を生んでしまった……と示唆されています。ところが、その後のチューリングの人生はある差別から悲惨なことに……。こちらの記事と合わせてご覧になるとより理解が進むと思います。
全く新しい概念を、それも普遍的な概念を生み出すことは科学者の理想の一つである。そしてそれは、言われてみればそうかもしれないと言う直観的なものに見えて、とてつもなく深い思考とロバストな論理に支えられていることが多い。アラン・チューリングの場合はそれが以下のようなシンプルなビジョンから生み出されたのかと思うと興味深い。

>引用
「チューリングが生涯を通じて目指したのは、人間と生命を「数学的に理解すること」だったのだと、今は思う。」
惹きつけられるのは、脳というチューリングマシーンはどのような仕組みで「意味の病」にかかり、強気になったり自己喪失したりするのか。

人間をチューリングマシーンとして捉える見方と、人間優位(万物の霊長論)の間ではせめぎ合いがありますが、日曜の朝の勝手な思索を少し。(disclaimer: 私は全くの門外漢ですので、下記内容は誤解に基づく可能性が高いです)

チューリングマシーン論
・人間は、インプットに対してアウトプットをdeterministic又はstochasticに出す数式(システム)であるとする
・自分自身のアウトプットに加えて、他の人間・環境・他の生物など全てからのアウトプットを自身のインプットとして受けて次のアウトプットを出すiterationの仕組みである
・上述の通り、アウトプットはstochasticでもあり得る(勝手な仮定ですが、恐らくチューリングの意図と反しないのではと思います)ので、インプットの値が確定するのは、そのアウトプットを出す直前の瞬間
・そうすると、人間をシステム(インプットに依存する数式)として記述することはできるが、人間を模したチューリングマシーンが人間の行動・体内作用を確定値として予測できるのは、人間がその行動・体内作用を行うその瞬間に限りなく近い時点でしか有り得ない
・つまり、人間の行動・体内作用を観察する時点と実質的に同時点でしかあり得ず、予め(十分に前の時点で)、人間の行動・作用を具体的に予測することはできないということになるでしょうか。

上記に立つと、もはや、チューリングマシーン或いは複雑なシステムとしての人間論と、万物の霊長論の差がよく分からなくなってきました。
・万物の霊長論は、人間にはstochastic processが存在することすら否定する、ブラックボックスの仮定(人間の行動・体内作用を理解するアプローチ自体の否定)に立つものなのか。
・それとも更に、一種のromanticismに立つ、人間という存在にまさに「意味」を求める感情的作用なのか。


ふと思い出したのが、SFのWest World(途中までで見るのを挫折していますが)では、人間の形をした精巧な機械達が記憶の断片を積み上げ咀嚼していくことで自我を持つようになっていきます。
「脳は化学反応と電気信号の塊」。チューリングは偉大な数学者であり、哲学者でもあった。哲学的に、そして数学的に物事を考えていった結果、コンピュータが生まれた。

AIは哲学によって進化するのでしょうね。
池上さんによるチューリング解説、めっちや面白いです。子どもが青と赤の積み木を分ける、それが数学、それが天使の領域。言い得て妙です。