【グロービス経営大学院】MBAとは「ルールブック」である

2019/8/17
8月13日に放送された『The UPDATE』のテーマは「MBAは役に立つのか?」。エコノミストの崔真淑氏、ウェルスナビCEO・創業者 柴山和久氏、青山学院大学教授/アバナード デジタル最高顧問の松永エリック匡史氏、グロービス経営大学院研究科長 田久保善彦氏、計4名をゲストに迎え、MBAの必要性や大人の学び直し時代に学ぶべきことについて議論を交わした。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、なんと、観覧客として議論に参加した入駒慎吾氏の「無痛分娩を広めたいからMBA!」に決定した。
株式会社LA Solutions代表取締役CEOの入駒慎吾氏は、医師として働きながら、医療界の閉塞感を打破すべく、グロービス経営大学院にてMBAを取得。
今は無痛分娩を日本国内で広めるための活動をしている。番組終了後、田久保氏と入駒氏のお二人に、MBAの必要性や意義について伺った。
入駒慎吾 株式会社LA Solutions 代表取締役CEO / 一般社団法人日本無痛分娩研究機構 代表理事
取得過程で自分のビジョンが明確に
入駒氏は、病院内でのキャリアステップや、医療業界の閉塞感を抱いていた際、「MBAを取得した」という人たちの話を耳にする機会が増え、興味を抱いた。
しかし仕事を辞めて2000万円をかけて海外に留学するのは難しい。
国内であれば夜間や土日などを使って通うことができる学校は多くある。そこで体験入学などを経て、グロービス経営大学院への入学を決めた。
入駒 グロービスには、入学前に単科生制度といって、二年間のMBAにコミットする前に受講できるクラスがあるんです。
そのクラスを受講する中で、「この道(無痛分娩コンサルティング業)だ」と確信し、入学と同時に起業しました。
昼間は医師の仕事を続けながら、夜や土日は勉強の時間にあてました。
「MBAを取得したのはいいが、活かせていない人」の問題として、自らのキャリアのゴールを見つけることができていない、と指摘されていた。
その点、入駒氏は、入学時からかなり明確なビジョンをもって、MBA取得に向けた努力をしていたように思える。
入駒 僕の場合は、最初は漠然としたものでしたが、単科生としてビジョンを明確にするためのコンテンツなどで学び、仲間との様々な議論を通していく中で、自分の道が見えてきたので、入学前に起業をすることにしました。
様々な業界、立場の人と本当に多角的な議論ができた意味は大きかったと思います。起業した後も、在学中の2年間でどんどん志というのは強固なものになっていくんですよ。
それが今は揺るぎないものとなって、世に放たれ、これから全力でやっていこうかな、というのが今の段階です。
ルールを知らずビジネスできるのか?
入駒氏のように、医師がMBAを取得し自らのキャリアアップに活かしていく例もある。
しかし、一般企業などでいうと、MBAはメンバーシップ型の日本国内では、評価されにくいといった現状もある。
グロービス経営大学院研究科長 田久保善彦はこう語る。
田久保 歴史的に、アメリカという国では学位に対して、相応の評価がされ給料がリンクする場合が多いです。マスターならいくら、ドクターならいくら、というように。
でも日本は、少なくても、これまでの大企業では、勤続年数ベースで給料が払われる場合が多ので、たとえハーバードでMBAをとってきたとしても、そのことが直接的な理由で給料が上がるということはありません。
なので、国内の大きな会社で働いている以上は、給料の面だけを見れば、MBAという学位をとってもね…という議論が出てくるのは、仕方のないことです。
“日本ではMBAは役に立たない”論はもうやめて、人生100年時代において「ビジネスのベースを知らないまま、50年ビジネスをやります?」という問いで考えた方がいいと思うんです。
自分の人生の中でも、特に長い時間を費やすビジネスの最低ルールを知りましょうよ、という話が、まずあってしかるべきではないでしょうか。
思考力を鍛えるために必要なのは
しかし、その知識を得るためだけであれば「すでに出版されている書籍」に十分書かれている、という指摘も番組内ではあった。
田久保 極論、知識を得たいだけであれば、書籍でもいいと思います。
ただ、本を読むだけだと、わかった気にはなりますが、ビジネスで使えるレベルまで独学で持っていくことは非常に難しいですし、他の人と議論を交わすことができません。
しっかりとした知識をベースにした議論を何度も、何度も交わすことにより、総合的な思考力を鍛えることも可能になります。
たとえば入駒さんが無痛分娩のビジネスをやるべきかどうか、そのメリット、デメリットなどを様々な立場の人たちから意見してもらうのは、ビジネスをやっていく上で得るものが絶対的に多いでしょう。
あと、入駒さんが実際に起業したときも、立ち上げメンバーは全員受講生だったりして、ビジネスをやる上でのネットワークができることも、とても大きい意義だと思います。
番組の中では、現代であれば、大学院に行かなくても、レベルが高い人同士のネットワークはできますよね、という指摘がありました。
確かにその通りだとは思いますが、一般的には、それはすでに高いレベルに到達している人同士がつながっているケースや、起業家同士がつながっているケースが多いのではないでしょうか?
これから、そのステージに行く人にとっては、ただ何らかのコミュニティーに参加するといったものではなく、一定の期間、厳しいトレーニングをしながら、切磋琢磨する時間を共有することの意味は明らかに大きいです。
MBAの意義は給料上昇率で測れない
番組冒頭で、MBAを取得した人たちの給料の上昇幅について、データとともに説明したが、その点について田久保氏は指摘する。
田久保 アメリカでは、MBAを取得して、高い給料で採用されても(フレッシュMBAのプレミアム)、うまくいかなければ平気で翌年の収入は大きく減らされたりします。でも、そっちは全然語られませんね。
単に給料が上がる・上がらない、もしくは、箔がつく・つかない、という話ではない。
臨機応変にビジネスモデルを組み替えていくための「知識」・「思考力」といった、ビジネスの基礎体力を身につけることに、MBAの意味があると指摘する。
田久保 結局、上司から切り出し仕事をやり続けるか、全体の意味を理解し、自分の仕事の意味をわかってやるか、だと思うんです。
これやっといて、という上司の仕事に対して何もわからず「はい」と引き受けるのではない。
この仕事は全体においてどういった意味をなしていて、どうやったら、さらに高い付加価値を生み、もっと顧客に喜んでもらえるのか。
どうしたら、それを継続できるのか。将来に向けて何をすべきか。
全体感をもってビジネスに取り組めるか、ということだと思います。
また、ご自身で起業した入駒さんでいえば、医師の知識や経験だけではビジネスをやっていくことは難しい、という現実があります。
よくわかっていない人たちににじり寄る怪しい人たちも多くいます。でもビジネスの基本をしっかり身に付けた状態であれば、何がよくて何がおかしいか、自分で判断をすることができます。
MBAはルールブック
入駒氏は、MBAについて「ルールブックのようなものだ」という。
入駒 番組内でも箕輪さんなどが触れていましたが、サッカーのルールブックなどを、一度も読んだことがない天才肌のスーパースターというのはいると思うんです。
でも、真面目にちゃんとしたチームを作ろうと思ったら、チームとして勝ち続けようと思ったら、自分はルールブックを読んで、理解し、ちゃんと使いこなせたほうが良いと思います。それって、誰だって思うことじゃないですか。
僕の場合は、特にビジネス素人だったので、白紙に何かを書いていくように学んだことをすべて使えたので、逆にバイアスがなくてよかったなと思う部分もあります。
MBAに対する「ステレオタイプ」
田久保氏は、多くの人がMBAに対して抱く期待値が「ステレオタイプ」である点についても指摘する。
田久保 以前、星野リゾートの星野さんがグロービスの「あすか会議」という1500人ぐらいが参加するイベントでお話をしてくださった時、「MBAを取ったら田舎に来い」と言われました。
周りにMBAを持っている人が少ないから、教科書通りにやったら勝てる可能性が高いし、個人としても差別化しやすいぞ、と。
それはつまり、東京でコンサルや投資銀行行っちゃダメだよ、みんな持っているから、ということでもあります(笑)。
グロービスでいうと、仙台や名古屋、福岡の中小企業の社長さんが一番有効にMBAを使ってるように思います。
相対的にしっかり学んでいる人が少ないから、学んだ通りにやると勝てるみたいな。
MBAをとって投資銀行にいく、というようなイメージだけで考えると、2000万円の給料が安いか高いか、みたいな議論に終始して、議論が大きくゆがんでしまいます。
アメリカの場合は、トータルコストが2000万円程かかるので、投資銀行やコンサル、SOをもらい、スタートアップみたいなことをしないと回収できません。
一方、日本のMBAは高いところでも350万円ぐらいですから、まったく違う状況です。
もっと、幅広い視点で国内でMBAをどう活かすか、を考えた方がいい。
日本でも大企業ではなく、IPO前のベンチャーなどであれば、適した人材を求めているところも多いですから、場合によっては、良い条件を手にすることができます。
国内MBA vs 海外MBA
また、国内MBAと海外MBA、いずれを取るべきかについては、田久保氏はこう答える。
田久保 ご自身のキャリアプランによると思います。海外出張などはありつつも、国内で仕事をする期間が相対的に長いのであれば、私は、国内のMBAを勧めます。
強固なネットワークを作りこめますし、トータルで返ってくるものは大きいでしょうね。海外でMBAをとってきても、5年、10年、15年と経つにつれて、ネットワークを維持するのは非常に難しいです。
一生アメリカで生活します、というようなグローバルキャリアど真ん中を考えているのであれば、海外MBAをとればいいですねよね。
たとえば医師の場合は免許が国境を越えられないですから、入駒さんがビジネスをするのは基本的に国内になります。
だったらアメリカでMBAをとってきても、そこで友達ができても、彼のビジネスは展開していきづらい、ということです。
MBA取得での精神的な恩恵
入駒氏は、MBAでスキルだけではなく、精神面にも恩恵があったという。
入駒 物事の捉え方などが180度変わったんですね。知識を常にアップデートする必要性や、勝負どころで頑張れる精神など、先生や同級生との議論を通してかなり多くのことを学びました。
これは、本を読むだけで得ることができるものではないと思います。
たとえば、以前は自分は医師のスキルがこれだけ高いのに、なんでこんな評価しかもらえないんだ、と悶々としていた時期もありました。
でも、今はもう少し視野が広がって自分の考え方が間違っていたことがわかります。
医師のスキルだけで評価されるわけがなく、周囲に対する適切な指示や状況判断など、もっと複合的な要素が必要だ、ということが今はわかる。
言葉にすると当然のことかもしれませんが、それが腹の底から理解できた、というのは大きい。
私は45歳のときに入学したので、周りに比べたら少し遅かったですが、キャリアの限界を感じていたタイミングで打破できるきっかけを作ることができたのは、よかったと思います。
8月20日のテーマは「ママキャリア」
日本で、子育てをしながら仕事をするワーキングマザー、「ワーママ」 が増加。2017年にはワーママの割合が、初めて7割を超えました。
家庭とキャリアの両立は実現できるとするワーママがいる一方で、仕事をやめて専業主婦として、子育てに専念したいと葛藤を抱えるケースもあります。
なぜ母親の家庭と仕事の両立は難しいのか?仕事で成功する上で、大きな壁となる「ママキャリアの敵」とは一体何か?
ワーママ支援制度における国や企業の問題点、家庭内の協力体制など、幸せなママキャリアを実現するための解決案について論じます。
サイバーエージェント執行役員/2児の母の石田裕子氏、女性キャリア支援を展開する、LiB(リブ)代表取締役CEO 松本洋介氏、東大理IIIに子ども4人を合格させたスーパー専業主婦 佐藤亮子氏、産業医の大室正志氏を交えて、徹底的に議論します。
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<執筆:富田七、編集:木嵜綾奈、デザイン:斉藤我空>