英語は戦略的に学べ。“100%通じる”をかなえる「4つのピース」

2019/8/20
  文法も単語もそれなりに勉強してきた。TOEICだって点数はそこそこ。ビジネスメールでは海外とやりとりができている。でも、会話となると聞けないし通じない。
 自身も約20年間のビジネス経験で培った我流の英語で“通じているつもりだった”と話すのは、「English for Everyone」の是枝秀治代表だ。
 総合商社、コンサルティングファームでグローバルなビジネス経験を重ねるも、大事な場面では「門前払い」や「蚊帳の外」。厳しい風当たりを受けてきた。
 学んでも学んでも、本当に通じる英語が身につかないのはなぜか──。是枝氏が長く苦労した経験から試行錯誤を続け、合理的に導き出したのが「発声×音×リズム×英語思考」を鍛えるトレーニング方法だ。
 ビジネスシーンで“100%通じる英語”を身につけるために必要な4つのピースについて詳しく聞いた。

TOEIC990点でも「通じない」

是枝 通じない我流の英語が、ビジネスシーンでどれだけの損失につながっているか。私自身がその現実に何度もぶつかり、身に染みて経験してきました。
 いまだにトラウマなのが、以前所属していた外資系コンサルティングファームでの研修の一コマです。
 コンサルに入る前には、総合商社を経て米・マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学し、MBAを取得。TOEICは満点の990点、GMATでも720点のスコアを取っていたので、スコア上の英語力は世界でもトップレベル(GMATは200〜800点で採点)。
 意気揚々と乗り込んだMITでは、並み居るネイティブを押しのけて生徒会の役員選挙で当選。授業でも常に最前列に座って発言し、「オレって、MITでも通用してる」と自信満々になっていました(笑)。
 ところが、MBA取得後に入ったコンサルティングファームでのとある出来事で、私の英語に対する自信は跡形もなく吹き飛びます。
 ある研修で、ニューヨーカー3人と私の4人でチームを組んでケースに取り組んだことがありました。最初は「よろしくね!」と友好的にスタートしたのですが、ケース提出の時間が近づくにつれて、雰囲気が徐々に変わってしまったのです。
 厳しい競争社会の中では、研修とはいえ、みんな自分を売るのに必死です。コミュニケーション能力に劣る他人を気遣う余裕なんてありません。タイムリミットが迫る中、「よくわからない英語を話すヤツの話なんか聞いてる時間はない」という空気がチームに蔓延し、結局、私以外の3人でワークが進んでいくのをぼうぜんと見守ることしかできませんでした。
 「20年以上も英語をトレーニングしてきたのに、真剣勝負の舞台では土俵にすら上がれなかった」。がっくりとうなだれ、背筋を走った冷や汗をいまだに鮮明に思い出します。

通じない英語では「損」をする

 MITでは通じたと感じていた私の英語は、ある種、“ゆるい”学生の身分だから受け入れられていた部分も大きかったのだと思います。隣でよくわからない英語を話している学生がいても、バチバチに利害関係が生じなければ、のけ者にする必要はありません。
 しかし、シビアな駆け引きが生じる交渉や商談の場面では、「何を言っているかわからない」英語を使っていると、それだけでシャットアウトされかねません。
 仮に、どれだけ中身がすぐれていても、それが見えてくるまで相手がガマンして付き合ってくれる保証はない。とても大きなリスクを抱えていることになるのです。
(iStock / XiXinXing)
 私自身、振り返ってみると、ビジネスの場面で英語力のせいで“門前払い”を食らったと思う経験がいくつもありました。
 香港での初商談でアイスブレイクの話を始めるや、相手の目からやる気が消えていったり、ニューヨークでの交渉時にほんの少し話し始めるやいなや、さげすんだような表情を浮かべられたり……。こんな状況では、本番がスタートする前に、相手の心が閉じてしまっています。「この人とは意思疎通ができない」とすでに相手が見切っているケースも多く、挽回は難しい。
 これは相手がネイティブのケースだけでなく、ノンネイティブの場合でも同様です。とくに、英語を努力して身につけたノンネイティブほど、「自分は英語を頑張って習得した。あなたの英語は何だ。そんなレベルではここに来る資格がない」と、つたない英語に対してシビアな対応をとる人が多い印象です。
 過去の私のように、正しく英語を発信するすべを持たないがゆえに、実は大きな損をしているビジネスパーソンは多いと思います。英語に正しくアプローチすることで、そんな人を一人でも減らしたいと開発したのが、「English for Everyone」のトレーニングメソッドなのです。

重要なのは“100%通じる”こと

 まず、この音声を聞いてみてください。
 Aの音声は、日本人的には聞きやすいと思いますが、ネイティブには「何を言っているかわからない」英語です。少し日本語なまりがあるという程度ではなく、「この人とはコミュニケーションが成立しない」と切り捨てられるレベル。一方、Bは「自然に情報が入ってくる」と高評価です。
 これは恥ずかしながら私自身のビフォー/アフターなのですが、弊社のメソッドによる数カ月のトレーニングを経て、ここまで大きく変化しました。
 英語と日本語は、違いの大きい言語です。そのため、「ネイティブの英語を目指すのはムリ」と割り切り、日本語風のカタカナ英語を使い続けるビジネスパーソンは多くいます。私もネイティブの英語を目指さないという考えには賛成です。そこまでやる意味はないからです。
 しかし、日本語風の英語を使い続けることは、過去の私のようにわざわざ「大きな損」をする道を選んでいるのと同じ
 必要なのは、日本語風でも、ネイティブでもなく、相手が誰でも“100%通じる英語”です。これを身につければ、相手と対等な「スタート地点に立つ」ことができるのです

“100%通じる英語”の正体とは

 では、“100%通じる英語”を得るために、何が必要なのでしょうか。
 私自身が20年以上、さまざまなスクールや教材で英語を学習し結果が出なかった“試行錯誤の歴史”と、ネイティブの英語を徹底的に分析した結果、必要なものは大きく「発声」「音」「リズム」「英語思考」の4つに集約されることがわかりました。
 それでは、その一つひとつを紹介していきましょう。
 実は、日本語と英語では「発声」方法が大きく異なります。
 日本語は、おでこや鼻のあたりを響かせるような感覚で、比較的平たい音で話される言語ですが、英語は喉の奥を開き、太くて響きのある声を使います。
 両言語は「声の質」が異なるため、日本語の発声方法のままでは、相手にとって聞きづらいのです。
 英語用の発声方法は、少し訓練すれば習得できるので(早い人で1週間)、「私は帰国子女じゃないから」と諦める必要はありません。
 次に「音」です。これは比較的よく知られていることだと思いますが、英語には日本語にはない音がたくさん存在します。しかし、日本では「カタカナ英語でも問題ないでしょ」と英語独自の音は軽視されがちです。
 この考え方には、聞き手が「本当に理解できるかどうか」の配慮が欠けています。
 「Third」を例にとってみてみましょう。日本語読みでは「サード」、これを発音記号で表すと「Sa:do」です。しかし、正しい発音は「Θəːrd」で、両者は大きく異なります。
 カタカナ英語のアプローチでは、「Sa:do」の発声でも聞き手が「Θəːrd」と変換の上で理解してくれることを期待するものですが、日本人が考える以上に両者は別物。
 残念ながら、この“聴き替え”をしてくれるのは、日本滞在歴が長く、日本語英語に精通した特殊な人だけでしょう。通常は「何を言っているのかまったくわからない」と軽くあしらわれてしまうのが関の山です。
 しかし、ここで絶望する必要はありません。英語独自の音は、そのどれをとっても歯や舌や唇のポジション次第で出せるものばかり。思われているほど習得は難しくなく、その数自体もさほど多くありません。
 あえて英語独自の音を避けて頑張るよりも、習得してしまった方がずっと早いのです。
 英語と日本語は「リズム」も大きく異なります。
 日本語はすべての音節に同じウエイトを置いて話しますが、英語には強勢という日本語にはない表現が必要です。ここを押さえておかないと、相手には何が話のポイントかが見えません。
 英語に慣れてくると、早口で話そうとする人がいますが、重要なのはスピードではなくリズム。日本語のリズムのままの英語は、ネイティブにとってはブツギレで聞きづらく、理解ができない。それが早口になれば、なおさらです。
 シャドーイングで英語のリズムに触れることは一定の効果があると思いますが、いかんせんマネているだけでは大事な“再現性”が身につかず、未知の文章に出あった際に自分で正しいリズムを作れません。これでは会話になりません。
 でも、ご安心ください。英語のリズムには、再現可能な法則があります。法則を習得さえすれば、誰でもすぐ使えるようになります。
 なお、ほとんどの方は、ここまで見た「発声」「音」「リズム」の3つの要素が日本語のまま。それらが相乗的に合わさって、通じない原因になっているのです。
 最後に、英語をつくる力「英語思考」です。
 「次の文章を日本語に訳しなさい」という受験英語に慣れすぎた私たちは、常に日本語を中心に置き、日本語から英語に翻訳し、日本語の構造で英語を考えがちです。
 日本語は、“てにをは”があることにより、情報の伝達順序が非常に柔軟な言語です。
 例えば、「私が、この携帯を秋葉原で買った」という情報を相手に伝えたい時、「秋葉原で、この携帯を買ったんだ」と言うこともあれば、「この携帯さ、秋葉原で買ったんだよ」「この携帯ね、買ったんだよ。秋葉原で」と、各パーツの順序を入れ替えても情報伝達に支障はありません。
 しかし、英語では「I bought this mobile phone at Akihabara」以外の順序では伝えることが難しい。
 情報の伝達順序を意識せず、日本語の感覚のまま英語を話そうとすると、会話の途中で構造の縛りにぶつかり、「あー」「うー」と行き詰まることがよく起こります。これには訓練が必要です。
 加えて、日本語を中心に英語から日本語へ、日本語から英語へと翻訳をしていては、コミュニケーションのスピードについていけません。概念や思考を直接英語化できる思考回路の習得が必須になるのです。

「英語が難しい」は幻想

 ここまで4つのピースについて説明しましたが、日本語を母国語にする私たちは、「発声」「音」「リズム」「英語思考」のどれかひとつが欠けるだけで100%通じる英語にはなりません。
 しかし、いずれも難しいものではなく、正しく訓練すれば誰でも後天的に習得が可能です。そのスキルを最短距離で伝えることが、私たちの使命だと思っています。
 100%通じる英語は諦めて、損し続ける道を選ぶのか。それとも、今、強い武器を手にするのか──。
 英語は難しい? ご安心ください。40代の私が習得できたのですから、どなたでもすぐその誤解は解けると確信しています。
(構成:田中瑠子 編集:樫本倫子 写真:鈴木芳果 デザイン:九喜洋介)