【平井卓也×石山アンジュ】シェアエコは何を変えるのか

2019/8/3
自転車にワークスペース、洋服、住宅、家事・育児やお金までーー。ここ数年でいつの間には私たちの暮らしに浸透している便利な仕組み、シェアリングエコノミー。2020年には国内の市場規模が1000億円規模まで広がるという試算もある新しい経済の動きは、政府の成長戦略にも盛り込まれて注目が集まっている。IT・科学技術担当大臣の平井卓也氏とシェアリングエコノミー協会の事務局長を務める石山アンジュ氏が、シェアエコの未来について語り合った。

価値を生む新しいインフラ

石山 平井大臣は、ずっと現場の意見に直接耳を傾ける『平井ピッチ(HIRAI Pitch)』を開いておられますね。若手のイノベーターをいつも応援してくださり、うれしく思っています。
政府がテクノロジーやイノベーションを推進している一方で、具体的な先進事例や技術をちゃんと見られている国会議員の方は少ないというのが私の印象なのですが、平井大臣は現地にも頻繁に足を運ばれて実態を理解していただいていると思います。
平井 平井ピッチでは、大臣就任以来、既に150人もの経営者や研究者の方にお会いさせていただきました。地方に出張した際には、現地の企業や大学の方からも話をうかがっています。やはり書類で読んだり、インターネットで調べたりしただけでは知識としてどうしても不十分です。現場で当事者の話を直接聞くと、日本には、高い技術力、新しいアイデアの構想力を持った人材がたくさんいるのだなと思います。
そういう人たちの潜在能力を解放したいという想いで「Beyond Limits. Unlock Our Potential.」をスローガンに掲げて政策を進めています。
石山 シェアリングエコノミーが業界として立ち上がったのは2016年の1月ですが、大臣は当時から応援してくださっています。大臣はシェアエコのどういった点に期待をかけてらっしゃるのでしょうか。
平井 私は、2000年くらいから日本がやってきたことは、「デジタル化」と言いながら「Digitization(デジタイゼーション)」だった、と講演などで最近話しています。日本語では「デジタル化」と同じものになってしまうけれど、「Digitization(デジタイゼーション)」と「Digitalization(デジタライゼーション)」は全く違うものです。
例えば、地上放送のデジタル化。これは伝送方式がアナログからデジタルに変わったという意味では「デジタル化」ですが、我々がテレビを見るスタイルが変わったわけではないので、これは「デジタイゼーション」です。他方、「Hulu」「Netflix」といったサブスクリプションモデルのストリーミング配信の普及は、いつでもどこでも動画を視聴可能になったり、コンテンツのリコメンドを受けられるようになったりと視聴スタイル自身の変革を促しました。これこそ「デジタライゼーション」です。
石山 デジタル化をするだけでなく、構造的に変えていくということが、デジタライゼーションですね。
平井 そして、シェアエコが社会にもたらそうとしているものは、まさに「デジタライゼーション」なんだと思います。
石山 そうです。短期的な合理性だけではなく、インフラとして変えていこうというものです。
平井 日本のシェアエコは、海外と比べると、経済成長への貢献という面ではスローな感じがしますが、一方で「社会課題の解決」という面で日本ならではの動きが始まっている印象があります。シェアエコ協会の皆さんから見ていかがですか。少なくとも私の目にはそう映ります。
石山 そうですね。そういう意味では、協会を立ち上げた3年前は、創業5年以下のスタートアップが中心でしたが、この1年で大企業の市場参入や、シェアエコのスタートアップと大企業や自治体が手を組むというケースが増えています。ITが既存の市場をディスラプトするという海外のような文脈ではなく、どちらにもメリットが出るような形でイノベーションが生まれてきていると思います。
平井 自治体と手を組むケースでいえば、私の地元の香川県でも初めて、県庁の空きスペースを開放して、保育所を併設したワークシェアリングスペースを開設することが総務省のモデル事業の採択を受けてスタートしました。空き家やシャッター商店街の増加を受けてということもあるのでしょうが、自治体は、民間の力を使ってパブリックアセットをどう有効活用するかについて関心が高いですね。

シェアエコの現在地

平井 最近、GAFAをはじめとしたプラットフォーマーに対する規制の話が出てきていますが、既存のプラットフォーマーと、シェアエコのプラットフォーマーとは、全く立ち位置が違います。膨大な個人情報を集めてそれで商売するのではなく、データと実生活のサービスがひもづいている部分で大きく異なると思います。
石山 そうです。私たちの協会に所属している企業は、創業5年以内のスタートアップがほとんどで、上場している会社はまだ数社しかありません。
今年5月にシェアエコの普及を加速化するためのアクションプランを、内閣官房の「シェアリングエコノミー検討会議」でまとめていただきました。
シェアエコのプラットフォーマーが健全に成長し、安心・安全を担保しながら普及していくために、どんなルールを作っていくのか。そこを国に考えていただけたのは非常にうれしく思いました
平井 この取りまとめでは、イノベーションを創出していくことを最大の眼目にしています。先ほど申し上げたGAFA向けの議論とは一線を画し、国による規制はなるべく控え、事業者の自主性を引き出していくという考えを採っています。3年前になりますが、シェアサービスに対する利用者の不安感を解消するため、シェア事業者が自主的に守るべきルールとして「シェアリングエコノミー・モデルガイドライン」を策定しました。今回はこれを大幅に充実させました。
石山 業界としても、どうしたら事故が起きないかをちゃんと責任を持って自分たちで考えていくことが必要だと思いますし、ワーカー自身も個人たちで何が必要なのかっていうのも大事ですよね。
平井 誰かが誰かを搾取する世界をつくってしまうと規制が必要となってしまいますが、本来は自主規制が一番良いですよね。
民泊新法が、多くの関係者のご苦労により、昨年6月に施行されました。これにより、いわゆる「闇民泊」の取り締まりが図られるなど業界の健全化が進んだ半面、田舎のおばあちゃんが空き部屋を利用して気軽に観光客を泊めてあげるといったことは難しくなり、人の温かみを感じさせるというシェアエコの本来の良さを摘んでしまっているのではないか、との声も耳にします。利用者の安全・安心とイノベーションの促進をどう両立すればいいか、国のコミットの仕方については、今後も不断に検討を続けていくべきだと感じています。
また、そもそも規制を作らないようにするために、自主規制を日々アップデートさせていったり、頑張っているシェアワーカーをプレイアップする仕組みを作ったりと、国と業界の皆さんが連携して取り組むことはいろいろとあると思います。
石山 CtoCという個人間での売買や貸し借りをするビジネスモデルが、BtoCとは全く違うものであることを社会的に理解いただけるような土壌が必要だと思います。CtoCという新しいモデルを、法律にどう位置付けていくのかというのはすごく難しいと思いますが。
平井 基本的な考え方を法律にするというのはあると思います。議員連盟もありますし、シェアエコ協会も一緒となって次世代のために自由度が確保できる法律があってもいいと思います。
石山 変化も早いので横断的で、柔軟であることがすごく重要だとは思います。

自由と責任を自覚する

平井 石山さんは今年から協会の事務局長に就任されましたよね。おめでとうございます。
石山 ありがとうございます。
平井 今までは内閣官房のシェアリングエコノミー伝道師として全国を駆け巡って講演したり、『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』という新しいライフスタイルを提案する本を発刊したりと、大活躍されていますが、ご自身の書いた本に関しての想いはいかがですか。
石山 私はこれから人間中心の社会が来るんじゃないかなと思っています。そうしていかなければならないと思います。令和時代の新しい豊かさの指標を、既存のやり方にとらわれず作らなければならないかなと。そのキーワードが「シェア」だと思い、この本を書きました。本に一番共感してくれたのが私の86歳のおばあちゃん。人と人とのつながりのなかでの支え合いについて、「昔の日本は、こうだったのよ」と教えてくれました。いわゆる、ご近所でのおしょうゆの貸し借りのような。
平井 要するにデジタルテクノロジーでどことでもつながるようになったんですね。
石山 そのとおりです。
平井 最後のほうに書かれていた「自由と責任への自覚」。あれは一番、大事なポイントだと思いました。
シェアエコ協会は、最初から自分たちで協会を設立して、自ら安全・安心なサービスを認証していますが、行政がそこに強引に入っていくと多分、既得権益が生まれてしまう。
今まで日本の事業の多くはそうでしたが、これからは事業者の責任でクオリティや信頼を勝ち得てビジネスモデルにしていくほうが大事なのではないかと私も思うので、素晴らしいと思いました。
石山 ありがとうございます。「黎明(れいめい)期には過剰に規制をするのではなく、業界が『どうしたら安心・安全にできるか』という自主ルールを作って推進する」考えの下、先ほど大臣から紹介があった「モデルガイドライン」に基づいて認証制度などに取り組ませていただいています。
平井 今度はこの認証制度の国際標準化(ISO)も日本主導でやっていこうとされていますね。せんだってISOの総会が日本で開かれ、協会も参加されたと聞いています。非常に野心的でいい取り組みですね。
石山 6月に国際会議が開かれました。日本は、シェアエコやテクノロジーが、欧米と比べて遅れているといわれていますが、法律や規制ではなく官民共同で作り上げたルールが逆に海外に輸出される現象が今、起きています。
先ほどお話に出た「モデルガイドライン」の考え方が提案の大きな柱となっています。
平井 「シェアリング・ウィズ・トラスト」みたいなことで、利便性と信頼性がパッケージになった標準的なサービスモデルを日本発で作れたら、それは素晴らしいことだと思います。

「信頼」をデザインできる社会に向けて

石山 大臣がおっしゃるとおり、これから必要なのは、信頼のデザインだと思っています。いわゆる「信用スコア」もその一つです。テクノロジーとシェアが進んでいけばいくほどこの流れは加速していくと思います。
ただ、信用スコアのアルゴリズムを決めていくのも、私たち人間です。 どうしたら信頼、信用を社会がデザインできるかというのが、これから問われていくと思います。
平井 つまり、「信用スコア」だけでその人の価値を全て決めてしまうのではなく、その人のいい部分を評価するスコアにしたほうがいいという考え方ですね。
確かに人々が信用スコアに過剰に迎合してしまうと、例えばスコアで経済力が高いと判定された人とそうでない人との間の新たな社会的差別につながりかねません。新しいテクノロジーが、不当な差別や社会の分断を生むことは絶対にあってはならないことです。
石山 中国では信用スコアによって、例えばビザが取得できないというような対象にもなり得るなど、スコアを社会信用制度として進めていますね。
平井 だからシェアエコの中で人に優しいスコアみたいなものを作ってもらうのはいいんじゃないでしょうか。シェアエコは知らない人同士をマッチングする仕組みですから、信用スコアとの相性はいいと思います。ぜひうまく活用していってくださることを期待しています。
石山 そうですね。やはり、日本に昔から根付く、共生や支え合いという精神をもとにした信頼の創造というのが日本型シェアエコの一つ、大きな鍵となるのではないかなと思います。

人生100年時代の働き方

平井 最近、IT業界の経営者の方からいろいろなお話を聞く機会も増えてきたのですが、「会社が大きくなって、上場してお金もできて、海外にも行って…。でも墓場まで持っていけるものはないよね」という話になります。
石山 まさに今、豊かさのパラダイムシフトが起きていると思います。これまでは、「モノ」か「お金」か「社会的な地位」が幸せの価値観でしたが、若い世代を中心に、「時間」とか「余裕」とか、人とつながっていて何かあったときに助けてくれる人がいる「安心感」みたいなものを豊かだと感じる価値観にシフトしていると思います。
平井 そうなってくると、人生は時間のシェアエコなのかもしれませんね。仕事をするには「巻き込み力」が問われるけれど、安心して生活するには「つながり力」がいる。前に巻き込んでいく力と水平につながっていく力、両方必要な時代になりましたね。
石山 テクノロジーが社会に実装されて効率化が進んで、人の余暇の時間がどんどん増えていくと人は何に時間を使うのでしょうね。テクノロジーを活用してどうウェルビーイングな社会を目指していくのか。
ビジョンを掲げることが今の時代には必要かもしれませんね。
平井 人生100年時代の人生設計はみんな心配だと思います、これまで立てたことがないので。ただ社会はどんどん変わり、働く概念も変わっていくので私は心配していません。
例えば年齢を重ねて80代になって、週2日間、数時間、ゆったりしたリズムで働こうとしたとき、ネットの力を使えば力を発揮できるところは見つかるはずです。
石山 はい。そうですね。
平井 テレワーク、シェアワーク、いろいろなマッチングによって働き方が変わることで、これから「経験」や「知恵」がさらに価値を持つ。
石山 働き方改革でのシェアの可能性は本当に大きいと思います。
平井 今までは「会社のために働く」という価値観だったけれど、「誰かのために働く」「自分のために働く」というふうに変化し、仕事の単位も企業から個人へシフトするはずです。
石山 そうですね。未来に何が起こるのかを逆算して、今何が必要なのか。未来逆算的な考え方をしても良いと思います。テクノロジーの社会への実装もそうですし、生活の在り方も変わっていくべきではないでしょうか。若い世代もそれを求めていると思います。

シェアエコが開くチャンス

平井 先日、印象的なことがありました。クラウドファンディングの「レディフォー」を見ていたら、10歳の女の子がエストニアで開かれるRobotex Japanのワークショップに参加するために40万円を集めていました。(最終的には48.8万円となった)
私が見たときにはすでにクラウドファンディングは成立していたので、彼女に連絡を取って、エストニアの駐日大使と私とで歓送会をしました。
そうしたら、彼女が実際にエストニアを訪問すると、エストニア側は国をあげて歓迎してくれたんですね。エストニアの大臣やいろいろな人に会った写真が私のところに届きました。
もしかしたら、彼女は「ちょっと休みにエストニアに行って、勉強したい」と思っただけだったのかもしれませんが、こういう経験がきっかけとなり、彼女が将来的にはエストニアに留学する可能性もあるだろうし、一生エストニアとのつながりができるかもしれない。
石山 これって、シェアエコがなかったら実現できなかったことですよね。
平井 もし親がお金を出していたら私が知ることもなかったと思います。クラウドファンディングでやっていたから知ることができた。これが「インターネットの世界のセレンディピティ」であり、かつてなかったことなんだと思います。
平井 ネットはネガティブな情報も拡散するけれど、いい出会いもつくる。
どうしてもネガティブなものばかりに目が行っちゃうけど、私はこういうポジティブなこともどんどん起きてくると思います。
他にも、小学校6年生の女の子のAIについてのプレゼンテーションを聞いたのですが、AIの限界やできること、できないことがきっちり整理されていて、こりゃ参ったな、と思いました。若いデジタルネイティブ世代は、これから間違いなく日本の中心で活躍していくと思うので、これからも彼女ら・彼らの潜在能力を解放するための政策を進めていきたいと思っています。
石山 今日はお話ありがとうございました。シェアエコとテクノロジーは、見えなかったものを見える化するところに価値があると思いますし、その点にすごく貢献できると思います。
これまでは、「年齢」や「社会的な地位」というものしか見つけられなかったものが、テクノロジーによって、「想い」や「パーソナリティ」を見せることで、人から「共感」と「お金」と「機会」を集められるようになりました。可能性を感じています。