【重松健×猪瀬直樹】東京G-LINEは実現可能か?

2019/6/22
6月18日の『The UPDATE』のテーマは『始動!新時代の移動サービスとは?』。
都市開発や交通の視点で移動の未来を論じたのは、作家の猪瀬直樹氏と、国際建築事務所ラグアルダ・ロウ・アーキテクツ共同代表で、inspiring dots inc.の代表取締役の重松健氏。
さらにモビリティ・サービスを担う当事者として、ドライブシェアアプリ「CREW」を運営するAzitの吉兼周優氏、元Uberで現在ROOTS Mobility Japan代表の安永修章氏、Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏を迎え、モビリティの未来について議論した。
視聴はこちら(タップで動画ルームに遷移します)。
番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、重松氏が提唱する「東京G-LINE」構想と、猪瀬氏の「それは無理」というやりとりに決定した。
「都心環状線一周全部公園に」という重松氏の大胆な構想は、どのような根拠のもと考えられたのか、そして猪瀬氏は、それをなぜ「無理」と断じたのか。
番組収録後、お二人に延長戦として議論を交わしていただいた。
都心環状線をなくすリスク
─番組内で議論になりました「東京G-LINE」構想について、もう少しお二人にお話しいただければと思うのですが。
重松氏が実現を目指している「東京G-LINE」イメージ図。都心環状線一周14.8kmを全部公園にするアイデア。
猪瀬 都心環状線をなくす「東京G-LINE」構想なんて無理です。
2015年になってなんとかできた中央環状線、それに加えて、外環道、圏央道、この円環がないと、東京の交通は成り立ちません。
猪瀬 ちなみに、東京の中心に、100ヘクタールの緑の皇居があります。
そもそも、これが東京を公園的な都市の景観にするため、重要な役割をすでに果たしています。「都心環状線一周全部公園に」なんて愚問です。
「東京G-LINE」イメージ図。都心環状線一周14.8kmを全部公園にするアイデア。
重松 たとえば世界と比較したときに、どの都市も中央環状線くらいの規模が最低のサイズです。都心環状線のようなわずか直径2.3km程度のものはない。
それこそ、日本のお堀の形がたまたまその大きさだったから、というだけであって。
猪瀬 直径2.3kmといったって、ぐるっとまわれば14.8kmくらいになりますよね。そんなに甘い話じゃない。
東京G-LINEというのは、つまり「道路をなくす」ということでしょう。それで下の道路が混んでしまうのはどう解決するんですか。
「東京G-LINE」イメージ図
重松 今までなかった周辺の中央環状、外環道、圏央道の完成、さらに今後の人口減少、カーシェアリング、自動運転、都心居住を鑑みれば、20年も待たずして要らなくなると思っています。
猪瀬 人口の話だって、首都圏で考えれば3500万人いるわけです。たとえば、ロンドンは15分も電車に乗って離れれば、家もなく羊が歩くような場所に出ることだってできる。
都市の構造だって世界と違うわけです。東京の潜在的な3500万人という人口は特殊なんですよ。
まずは東京高速道路から
―大胆な発想ですし、それだけの批判がくることは当然予測していたとは思うのですが、具体的には、今どのように動いていますか。
重松 実際、すでに首都高速道路株式会社や国土交通省、東京都、交通コンサルの人たちにはお話しさせてはいただいてます。
そしたら、誰も反対はしないのです。ただ、それで具体的に動こうとしてくれる人はいない。
なので角度を変えてメディアなどを使い、まずはこの構想を拡散していきたいと思っています。
恥ずかしながらツイッターを一ヶ月前に始めて、今頃その威力を実感しています。
重松 加えて、小さな規模で試していきたいとも思っています。たとえば、東京高速道路。
東京高速道路は、京橋から汐留間、西銀座の商業施設の上を走る全長2.0kmのバイパス道路で、東京高速道路株式会社という別会社が運営しています。
この東京高速道路は、円環に関係がないので、まずはあそこから始めるという考えもあります。
そういうところから始めて、まずはこの構想がどれだけ素晴らしいものなのか、というのを周知していきたい。
重松 あとは、日本橋で高速道路を地下化するといわれている、竹橋から江戸橋の間ですが、あれも迂回路を使えば円環を壊さないでいけます。
それを逆手にとり、「高速道路を一旦止めたらどうなるのか」を試してみたいと思っています。
この地下化の工事に20年かかると言われています。これは、上空の高速道路を維持しながら、下を掘って杭を動かして付け替えて、ということをしているからです。
重松 上を取っ払ってしまえば、もっと早く完成します。
私自身は地下化に対して反対です。日本橋上空だけは単純撤去してしまえばいいんです。
しかし、これを機に高速道路を止めて、市民が上空に上がれるようにしたら「なんだ、こんなに楽しいんだ」とか「常設にした方がいいよ」という声が出てくるかもしれないと思っています。
そして、同時に最低一ヶ月止めて、周囲の交通がどうなるかデータを取り、高速道路がいるか要らないか、過去の統計で決めず、現在の具体的データで判断するべきだと思います。
猪瀬 さっき重松さんが言っていた、西銀座デパートのある東京高速道路の西銀座デパートのあたりはできるかもしれない。あそこは迂回路ですから。
そこから提案するのもいいとは思います。ただ、首都高っていうのは、利益を出すインフラなんですよ。利益を出さないと維持管理もできない。そこについてはどう考えていますか?
重松 それはいろんな解決方法があると思いますが、たとえば首都高って、高速道路債務返済機構から首都高速道路株式会社が、リースで借りている状態だと思うんです。
その所有権を東京都が買い取り、周りの不動産価値の上昇などから生まれる税金によって、利益を回収できるというスキームはどうでしょうか。
猪瀬 国道から都道にするって、とにかく大変なんですよ。たとえば、日本橋から国道1号が出ているでしょう。
国道20号が半蔵門のあたりまでぐるっとまわって新宿通りに行く。それともうひとつが、三宅坂から始まる国道246号線。
まずは、これらの国道を東京都に移管せよ、ということが僕がやろうとしたことです。地方分権的に、まずはその権利をこちらに渡してください、管理しますから、と。
東京都が管理した方が、維持管理費も25%安くできる。
重松 その25%はどこからきているんですか?
猪瀬 舗装や改修などで、国道事務所と東京都の建設局とのコスト管理の違いから生まれる差です。国は無駄が多いですから。
たとえば、サービスエリアやパーキングエリアって、昔と比べてかなり風景が変わりましたよね。あれは僕が道路公団民営化をやったことにより活性化したからです。
猪瀬 本来は、利用者のために作った高速道路だったのに、年々利用料金が上がっていくような状況でした。
そしてサービスエリアもパーキングエリアも、まずいカレーライスとラーメンだけでコンビニもなかった。
しかし、ファミリー企業を撤廃し、そこに資本主義を入れることで、結果的にサービスエリアもパーキングエリアも利益が上がり、道路の管理コストも下がり、僕らの利用料金も下がった。
まずは、「バカの壁」を壊さないといけないんです。
猪瀬 そこから風景を変えていかないと。風景は建築デザインだけで変わるものではないんですよ。ただデザインがいいから、というだけじゃ人は寄ってこない。
重松 もちろん、そういった戦略的な積み重ねは大切ですし、猪瀬さんから一番学ばせて頂きたいことです。
ただ、これは建築的なやり方になりますが、まずはわかりやすいビジュアルを見せることで理解されることもあります。
重松 特に、メディアで小さな積み重ねをひとつひとつ伝えていくというのは、それこそ難しい。
世に放つ上では、ある程度のビジュアルと共通ビジョンを分かりやすく伝える、という役割が大きいと考えています。
猪瀬 とにかく、僕は実現性がないことをしても仕方ないよね、と言いたいだけ。確実にできるところを狙って成果を出していくことが大切なんです。
そういう意味では、バイパスの東京高速道路から始めるというのは賛成ですけどね。
次回は「新卒で年収1000万円」
くら寿司が新卒採用で、入社1年目から、年収1000万円の幹部候補生を採用すると発表。
さらに、ソニーが新卒に「初任給730万円」を提示するなど、日本企業の間で、新卒の幹部候補に高年収を提示する流れがでてきています。
こうした動きに対して「新卒に限定して採用する必要はあるのか」など賛否両論が出ています。
果たして、この取り組みは企業にとって大きなメリットとなり、優秀な人材は獲得できるのでしょうか?
人事部担当者やキャリア専門家などを交えて、徹底的に議論します。
NewsPicksアカデミア会員の皆様は、下記より番組観覧にお申し込み頂けます。(先着40名)
番組観覧のお申し込みはこちらから。
<執筆:富田七、編集:木嵜綾奈、デザイン:斉藤我空>