ソフトバンク主導の資金調達ラウンドで、1億5000万ドルを調達。ブラジル全土で翌日配達を目指すが、広大な国土と貧弱なインフラといった障壁の克服が必要だ。

ブラジル全土で翌日配達を目指す

配送サービスを手掛けるラテンアメリカの新興テック系ユニコーン企業「ロッジ(Loggi)」は、ブラジルのほぼすべての地域で翌日配達を実現するという野心的な目標を掲げている。
これは決して簡単なことではない。ブラジルは国土面積が世界5位と広大で、インフラ網の整備は大半の先進国に比べてはるかに後れている。
ロッジは6月5日、ソフトバンクグループのビジョン・ファンドが主導する資金調達ラウンドで、6月はじめに1億ドルを調達。評価額が10億ドルに達したことを明らかにした。
同社によれば、ソフトバンクのラテンアメリカ・ファンドもさらに5000万ドルの投資を検討している。ビジョン・ファンドは2018年にも、ロッジに1億ドルの投資を行っていた。
2014年に設立されたロッジは、当初はサンパウロの混沌とした街中で、バイク便による書類の配達を行っていた。同社は、今回調達した資金を使って1000人超のエンジニアチームをつくり、ブラジル全域の配送サービスを確立する計画だ。
同社のサービスが現在カバーしているのは、ブラジル人口の約35%が住む地域。1日およそ10万件の配達を行っている。顧客企業には、フランスを本拠とする小売大手カルフールや、南米最大のeコマース企業であるメルカドリブレ、ファストフードレストランのマクドナルドやバーガーキングなどがいる。
同社のファビエン・メンデスCEOは、2020年末までに国内95%の地域をカバーし、5年以内に配達件数を1日約500万件に増やすことを目指していると語った。
メンデスCEOはインタビューで「どこにいる誰に対しても配達を行うというのが当社の哲学だ」と語った。「2020年の終わりまでには、ブラジルのすべての都市をつなぎたい。すべてのブラジル市民に、翌日配達のサービスを提供したいと考えている」

構造的な障壁を技術で飛び越える

その実現に向けてロッジは今後、ブラジルを運送業者にとって困難な国にしてきた数々の障害を克服していかなければならない。貧弱なインフラや犯罪、煩雑なお役所仕事や広大な国土といった障害だ。
世界経済フォーラムによれば、ブラジルはアメリカ本土よりも広いが、交通インフラはルワンダのそれに近い。
「ブラジルで物流業を営むことには、非常に障害が多い」とメンデスCEOは言う。「構造的な障壁を飛び越える唯一の方法が、テクノロジーの活用だ」
ロッジは、国内各地に流通センターのネットワークを構築している。各地域に、小規模な倉庫などを設置しているのだ。それらのセンターに向けて航空便で荷物を送るが、その際に最も効率的なルートを探すために、ロボット工学や人工知能、各種アルゴリズムを多用しているという。
同社のシステムから、配送希望地域の付近にいるフリーランスの配達人に通知が届き、彼らが最終的な配達を行う仕組みだ。現在は約2万5000人が、同社荷物の配達を請け負っているという。
目指すのは、配達プロセスの各段階で荷物に触れる担当者を最小限にして、効率的に配達を行うことだとメンデスCEOは言う。
人口2億900万人のブラジルでは、eコマースが急速に普及するとロッジは確信している。調査会社ニールセンによれば、同セクターの売上高は、2018年に前年比で12%増加。2019年はさらに15%増加して約155億ドルに達する見通しだ。

ブラジルに広がる配送サービス

こうした成長を受けて、ゴールドマン・サックス・グループが支援するカーゴX(CargoX)をはじめとする他のスタートアップ企業も、同セクターに魅力を見出している。
コロンビアのラッピ(Rappi)やブラジル企業のアイフード(iFood)をはじめとするラストマイル配送会社も、ブラジル国内での事業を拡大しつつある。
ただしメンデスCEOは、ロッジは既存の競合各社と張り合うのではなく協力しており、ラッピとアイフードの両社やアマゾンをはじめとする小売業者にも配達サービスを提供していると語る。
ソフトバンクのマネージング・パートナーであるアクシェイ・ネヘタは「ロッジは、ブラジルで急成長しつつあるギグ・エコノミーとeコマースのセクターにとって、成功の鍵となる存在として台頭しつつある」と述べる。
ロッジの最新の資金調達ラウンドには、ビジョン・ファンドのほかにGGVキャピタル、マイクロソフト、フィフス・ウォール・ベンチャーズ(Fifth Wall Ventures)やベルト・パートナーズ(Velt Partners)も参加した。
ソフトバンクのラテンアメリカ・ファンドは2019年、ラテンアメリカ地域に特化した50億ドル規模のテクノロジーファンドをローンチした。
ソフトバンクは2019年すでに、ラッピに10億ドルの投資を行うことで合意しており、ブラジルの金融会社クレジタス(Creditas)とも交渉中だと報道されている。

ラテンアメリカのベンチャー投資

ラテンアメリカにおけるベンチャー投資は、過去2年連続で前年からほぼ倍増している。2019年も、2018年の記録である20億ドルを上回る見通しだ。
ラテンアメリカ民間設備投資協会によれば、2018年の20億ドルのうち半分以上はブラジル企業に投資された。
GGVキャピタルのマネージング・パートナーであるハンス・トゥンはメールで取材に応じ、ブラジルで増加しつつあるスマートフォン利用者がこれまで以上にオンラインでの商品注文を行うようになってきており、食品や荷物の配達を自動化することが、同国経済の成長にとって不可欠だと述べた。
「我々はこれを、アメリカや中国からラテンアメリカ、東南アジアやインドまでに至る世界的なトレンドと考えている」
ロッジがブラジル全域でのサービスを確立することができたら、その後はラテンアメリカのその他の市場への事業拡大を目指すつもりだとメンデスCEOは言う。
メンデスCEOは33歳。フランス南部の小さな村で育ち、2010年にブラジルに移住した。同氏は、今後ロッジの従業員を、現在の600人から1500人に増やす計画だと語った。
ロッジは荷物の送り主に対して、荷物の重さと送り先に基づく配達料と保険料を請求している。非公開企業のため売上高は公表していないが、メンデスCEOによれば2020年は黒字になると予想され、2017年も利益を上げたという。
メンデスCEOは、新規株式公開(IPO)や他社による買収の受け入れについて、当面予定はないと語った。だが、「ロッジをIPO可能な企業にするのが今後の計画だ」と彼は言う。
「我々は急成長だけでなく、当社を市場にとって魅力的に見せるEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)も達成したいと考えている」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Ezra Fieser記者、執筆協力:Giles Turner記者、翻訳:森美歩/ガリレオ、写真:wsfurlan/iStock)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.