ウォーレン・バフェットが、このうえなく奇抜で素敵な方法で教えてくれた、リーダーシップをめぐる教訓を紹介しよう。

隣に座ったスージー・ウェルチ

ときには、最良の教訓が、その奇抜な細部ゆえに頭に残ることもある。そうした教訓と、その奇妙なディテールのひとつをご紹介しよう。
経営分野のベストセラー本の著者で、元ゼネラル・エレクトリックの伝説的経営者ジャック・ウェルチの妻でもあるスージー・ウェルチは先日、CNBCの番組『メイク・イット』に対し、ディナーパーティーで幸運にもウォーレン・バフェットの隣に座ったときのことを話した。
「ほぼありとあらゆることにお告げを下す神様」たるバフェットは、席につきながら、ポケットからエッグタイマーをそっと取り出した。そして、ちょっとしたドラマのようなスマートさでタイマーをセットすると、こう言ったという。
「このタイマーは私にとって、あなたとお話ししてもらえる時間を示します。そのあとは、あなたの左側のパートナーに、あなたを渡さないといけません。この時間からは、1分たりとも短くはしませんよ!」
タイマーが鳴ると、ふたりはそれぞれ反対側を向いた。15分後にまたタイマーが鳴り、ウェルチとバフェットが向きなおってまた顔を合わせると、ウェルチは神様の嬉しそうな言葉で迎えられた。「よかった、戻ってきてくれましたね!」という言葉だ。
ウェルチはこう語っている。「彼(バフェット)は、その部屋で一番の重要人物でした。それなのに、私も彼と同じくらい重要なんだという気にさせてくれたんです」
この経験が、リーダーシップに対する自分の見方を変えたとウェルチは続けた。自分が相手を気にかけ、尊重し、耳を傾けていると示すことが、どれほどの威力を持つのか。バフェットとの経験は、それをウェルチに教えてくれたのだ。

他者への尊重を具体的に示す

私に言わせればこの教訓は、リーダーシップの、そして良い人間であることの大原則を示している。
私はリーダーとして、これまでにすべてを正しく行ってきたわけではないし、これからもそうだろう。だが、謙虚さを示し、他者を尊重していることを目に見える形で示すという原則は、私にとって絶対に譲れない重要なものだ。
私は今日にいたるまで、人の関心を引くよりも、人に関心を持つことのほうに集中してきた。相手の話を聞いているという姿勢を示し、相手の話に基づいてふるまうよう、努めている。
チームの全員(そして、人生で出会う人の全員)が、自分は尊重されている、貴重で価値のある存在なのだと感じる資格があると、私は確信している。
それ以外の行動を、リーダーとしての私がとれるだろうか。
私がこれまでに就いたリーダー的地位に関して言えば、私がその地位に就いたのは、少なくとも部分的にはなりゆきによるものだった。別の状況だったら、ほかの誰かがそのリーダー的地位に就いていた可能性もおおいにあることは、私も承知していた。
そのときたまたまリーダーだったという理由だけで、私は「その部屋で一番の重要人物」になれるだろうか。そんなことは絶対にない。
リーダーシップという特権は、私を導管のような存在にする──つまり、「私の下で」働く人たちの視点や考え、アイデア、感情、意見、希望、夢を増幅する装置だ(「私の下で」働く人たちというよりはむしろ、私が幸運なことにともに働くことができた人たちと呼ぶべきだろう)。
バフェットのエッグタイマーは、そうした精神が具現化したものだ。それは「あなたは私にとって重要な存在だから、私たちの結びつきが適切に続くよう、ガードレールを設置しましょう」と伝えるための、一風変わったアプローチなのだ。

目の前の相手に集中する秘訣

私も今後は、少なくとも頭のなかでタイマーを持ち歩いて、誰かと関わる前にスイッチオンしようと思っている。相手に集中し、波長を合わせる秘訣としてだ。私が実践している技をもう少し紹介しよう。
1.「WAITの原則」を実践する
会話をしていて、相手の話を聞くよりも自分で話しているほうが多いと気づいたときには、頭のなかで「WAIT」アラームを鳴らす必要がある。
WAITとは「どうして私は(相手の話を聞かずに)話しているのか(Why Am I Talking)」の頭文字だ。このアラームを鳴らせば、話を聞くモードに戻り、(相手の話に耳を傾けるのではなく)自分が次に何を言うかに注意を向けてしまうのを防ぐことができる。
2.「熱心に聞いている」というシグナルを出す
うなずいたり、話の概要を繰り返したりして、耳を傾けていることを目に見える形で示すようにしよう。シンプルに、スマートフォンを意識的なやり方でしまうのもいい。
3. 注意力を保つ
ミーティング中に注意力が散漫になり、十分注意深く耳を傾けられなくなっていることに気づいたら、その場ですぐに対処しよう。
議事録の一番上に「集中しろ、ボンヤリするな」とか「わたしの注意力はいま、どこに向いているか」などと書いておけば、助けになるはずだ。
4. 関心を持たれないつらさを思い出す
INVは「自分には価値がない(I'm Not Valued)」の略だ。あなたの言わなければならないことを聞きたがっている人と一緒にいるときもあるだろうが、それとは逆(inverse)のケースを思い出そう。つまり、あなたや、あなたの考えに本当は関心がない人と一緒にいたときのことだ。
関心を持たれないのはつらいことであり、そうした苦痛を誰かに味わわせたいとは思わないはずだ。
エッグタイマーがあろうがなかろうが、ディナーパーティーだろうがそうでなかろうが、自分のタイマーをうまく調整しよう。そして、自分が相手を気にかけていること、耳を傾けていること、尊重していることを、はっきりと目に見える形で示すようにしよう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Scott Mautz/Keynote speaker and author, 'Find the Fire' and 'Make It Matter'、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:Devenorr/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.