[東京 27日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は27日、G20各国の有識者・シンクタンク関係者から構成されるT20(Think20)で講演し、世界経済の先行き見通しには不確実性が高く、下振れリスクが大きいとの見方を示した。リスクとして、通商問題、中国などにおける景気刺激策の効果、英国の欧州連合(EU)離脱などの政治的リスク、官民による債務の積み上がりの4点を挙げた。

黒田総裁は、世界経済について「昨年後半以降、中国や欧州を中心に成長ペースが緩やかになってきている」と指摘した。これは、経済政策の不確実性が高まったことやITサイクルが下降局面に入ったこと、中国や欧州での各地域固有の要因など「複数の要因が作用した」とみている。

国際通貨基金(IMF)は、世界経済が今年後半にかけて再び成長率を高める見通しを示している。中国などで景気刺激策の効果が徐々に表れることやIT関連財の調整が進捗することなどを背景にしている。

ただ、総裁は4つのリスクを挙げて「こうした先行きの見通しについては不確実性が高い上、下振れリスクが大きい」との見方を示した。

通商問題については、関税引き上げによって貿易コストが上昇することに加え「製造拠点やグローバル・サプライ・チェーンの見直しを余儀なくされることなどによって企業活動が抑制されるリスクは、引き続き高いと言わざるを得ない」とした。

また、通商問題など不確実性が高い状況を踏まえると「中国の景気刺激策の効果については、幅を持ってみておく必要がある」と慎重な見方を示した。

政治的なリスクとして、ブレグジットや欧州の政治情勢のほか「所得格差の拡大を背景とした政治の不安定化が、企業・家計のマインドや金融資本市場の変動などを通じて幅広く波及する可能性」を指摘。さらには「長い目でみて財政の持続可能性を確保していくことは、経済全体の安定を維持する上で、重要な前提条件」として、官民の債務の積み上がりの脆弱性もリスクとして挙げた。

<経常収支の不均衡、2国間では解消につながらず>

経常収支の不均衡については「ファンダメンタルズに基づかない過度な経常収支の不均衡を放置しておくことは問題」と述べた。ただ「こうした問題を2国間の貿易上の措置で解決することは問題の解消につながらない」として、「経常収支の不均衡やそれを反映したグローバル・インバランスの問題は、あくまで多国間におけるマクロ経済の貯蓄・投資バランスの問題」と指摘した。

その上で、総裁は、今年の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、グローバル・インバランスについて議論する考えを明らかにした。

黒田総裁は、現在の経常収支の不均衡が経済ファンダメンタルズと一致しなければ、G20はその要因を検討すべきだとした上で、収支が赤字あるいは黒字となっていること自体は必ずしも良いこと、あるいは悪いことではないと指摘した。

*内容を追加しました。

(清水律子 編集:田中志保)