高速ネットワークの登場により、人工知能アシスタントや3Dコンテンツ、ホログラムが人々の日々の生活の一部になると各社は期待している。

インタラクティブな人工知能の時代

世界最速のインターネット速度を誇る韓国では、5Gネットワークへの移行が、インタラクティブな人工知能の時代も導こうとしている。
韓国では2019年4月に、データ速度が毎秒およそ1.5ギガバイトの5G通信サービスを開始した。この5Gネットワークにより、人工知能ベースのロボットや3Dコンテンツ、ホログラムを提供できるようになると企業は期待している。そうしたサービスがいずれ、人々の日々の生活の一部になると予想しているのだ。
インターネットが高速化すれば、自動車メーカーや無線通信事業者などの企業が、車や家庭用電化製品、ビルなどに各種デバイスを接続できるようになる。
韓国は世界最高のロボット密度を誇る国でもあることから、たとえば現代自動車、LGエレクトロニクス、サムスンなどは、急速に進む高齢化や労働コストの上昇といった問題を多少なりとも解消できるロボットを開発しようと試みている。
フランクフルトに本部を置く国際ロボット連盟(IFR)によれば、サービスロボットの世界市場は、2017年時点では86億ドル規模だったが、2021年までに202億ドル規模に拡大すると見込まれるという。
韓国政府は最近、韓国のロボット業界が2023年までに15兆ウォン(約1.4兆円)規模にまで成長するとの予測を発表した。2018年には5.7兆ウォン(約5250億円)規模だった。韓国政府は3月21日、ロボット業界の支援は重要な国家的目標だと述べた。
こうした成長の一部は、高齢者介護、医療、物流、さらにはエンターテインメントなどのサービス業界でロボットが利用されることから生まれると見込まれている。

ロボットが人間と交流する日常生活

しかし目下の課題は、単なるロボットの開発ではない。関係企業各社は現在、おもにコミュニケーションに焦点を合わせ、人間とマシンの双方向的な関係を実現することを目指している。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の航空宇宙工学教授で、ロボット工学研究所「RoMeLa」(「Robotics and Mechanisms Laboratory」の略)の創設時の所長でもあるデニス・ホンは「共感を持つことは、ロボットが人間と交流する際の効率的で自然なコミュニケーションに役立つ」と語る。
「ずっと簡単に情報を受けとり、感情を感知できるようになる」
ホンは、母国である韓国のサービスロボット業界を発展させるべく、複数の韓国企業に協力している。たとえば、現代自動車と組んだプロジェクトでは、視覚障害者のための車を開発している。
韓国の部品・サービス企業である現代モービス(Hyundai Mobis)は、車を運転できるカーアシスタントを開発している。このアシスタントは、乗客とやりとりも行い、ジョークを言ったり、大変だった1日の愚痴を打ち明けられれば共感を示したりもする。
同社が「ドライブの相棒」と呼ぶこのカーアシスタントでは、自然音声認識システムが使用されている。アシスタントは3Dアバターとして、ダッシュボード正面のディスプレイやフロントガラスに表示されるとのことだ。
モービスはこの機能を今後数年のうちに、現代自動車や起亜自動車などの国際的な自動車メーカーに提供することを目指している。同社によれば、コミュニケーションのレベルは「はい/いいえ」タイプの決まりきった質問と回答の枠を越えたものになるという。
モービスのシステム開発センターでIVI(車載インフォテインメント)担当バイスプレジデント兼責任者を務めるカルステン・ヴァイス(Carsten Weiss)は「車は、ユーザーがボタンを押したりペダルを踏んだりしたときにだけ反応するマシンではなくなる」と語る。
「個性を持ち、みずからタスクを解決する能力を備え、ユーザーの個性とつながるようになる」

ホログラムで表示されるロボット

高速化したネットワークを使えば、ロボットが音声・顔認識ソフトウェアを通じて、ドライバーの感情を認識できるようになるかもしれない。
たとえば、ドライバーが眠りに落ちそうなのをAIベースのシステムが検知したら、車を最寄りのコンビニエンスシステムに誘導したり、音楽のボリュームを上げたりすることができるだろう。
一方、韓国の携帯電話事業者は、AI搭載スピーカーの設計を進めている。ホログラムとして表示されたロボットが、ユーザーとコミュニケーションをとれるものだ。
テクノロジー大手のLGエレクトロニクスとサムスン電子は、独自のパーソナルアシスタントロボットの宣伝を開始している。両社のロボットは、買いものを手伝ったり、自宅にいる高齢者の健康をモニターしたりできる。
そうしたSFのような技術を、5G導入から数年で利用できるかについては懐疑的な見方もある。ホログラムに対応するためには、高品質LCDパネルの開発をさらに進め、より高度な演算能力を導入する必要があるからだ。
通信会社KTの主席研究エンジニアを務めるキム・スンチョル(Kim Seung-cheol)は、ディープラーニングと機械学習の技術が今後も進歩を続けると予想している。
「人々が望んでいるのは、現実の世界で感じる体験を、ディスプレイを通じて体験することだ」とキムは言う。キムは現在、さまざまな用途が考えられるホログラムを開発している。「問題は、技術がどれだけ速くそれに追いつき、どこまで進めるかという点にある」
とはいえ、多くの企業にとって5Gは転機になる。SKテレコムは、Kポップスターなどの芸能人のホログラムを投影できるAIスピーカーの開発を進めている。 この技術は、コンサートなどの公演で使用することを念頭に開発されているものだ。
SKテレコムの拡張現実開発チームを率いるチョウ・イクファン(Cho Ikhwan)は、「AIは、いつでも、どこからでも連絡できる友人のようになる」と語る。「まったく新しいAIロボット体験が現実のものになるだろう」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Sohee Kim記者、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:DKosig/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.