日本型労働市場のゲームチェンジは「OpenWork」で加速する

2019/5/27

令和型“働きがい”のある社会とは

 「終身雇用はルールではない。企業は『あなたを一生雇用し続けます』という保証書を持っているわけではない」
 2019年4月、経団連・中西宏明会長の発言が社会に衝撃を与えた。経団連は春の新卒一括採用を定めた「就活ルール」を2020年春に廃止。通年採用の拡大も明言する。経団連トップのコメントは、日本型労働市場が大きな転換期を迎えていることを印象づけた。
(iStock/ponsulak)
 実際、新卒で入った会社に定年までとどまる人は減り、自分の可能性にチャレンジするための転職が珍しくない時代。人材の流動性が高まり、終身雇用は実質、崩壊しつつある。
 そんななか、質の高い本音の「社員クチコミ」によって個人の就職・転職を支援する「Vorkers(ヴォーカーズ)」が、5月23日社名をオープンワーク株式会社に変更した。
 それにともないサービス名も「OpenWork(オープンワーク)」となる。
 同社は2007年に創業。就職や転職を考えるユーザーが、企業の現役社員や元社員の本音を知ることのできるサービスをメインに、会員数296万人、クチコミと評価スコア750万件超(2019年5月現在)を誇るサービスへと成長。いまでは就活生の約半数が利用しているとされる。
 日本型雇用システムの崩壊はいまや決定的な状況となり、「令和型」の新たな雇用と労働のあり方が求められている現在。この名称変更にはどんな意味が込められているのか。新生OpenWorkが目指す“働きがい”のある社会の姿とは。代表の増井慎二郎氏が本音を明かした。

「個人」のためのジョブマーケットが必要だ

 「私たちは、これまで企業をとてつもなく重要な存在と考えすぎてきたのかもしれません。そのため就職自体が目的化し、定年まで1社に勤めることが重視されてきた。しかし、社会の主体は『個人』であり、企業はその集合体でしかない。私たちはその原点に立ち戻るべきです。
 大切なのは、個人が社会とどう向きあうか。個人がプロフェッショナルとして自立するためには、1つの企業との関係に影響を受けすぎないよう、社会やジョブマーケットに向けて視野を広げておくことが必要です。
 透明性の高い企業情報をもとに、個人が自由に、主体的に働きがいのある場を選ぶ。ジョブマーケットも、そろそろ個人が魅力的に生きるためのものに変わるべきです」(増井慎二郎氏、以下同)
 かつて「就職できれば一生安泰」とされた日本の有名・人気企業はバブル崩壊以後、イノベーションを生み出せず、世界との競争で後れをとった。一方、世界経済を牽引したのは個人の能力を最大限に活用し、イノベーションにつなげた企業だ。
 労働力の囲い込みでは企業の競争力は保てない。むしろ、人材が働きがいを求めて流動化するジョブマーケットこそが競争力を高める、と増井氏は主張する。
 「旧来の日本型雇用システムは、労働力を流動化させないためのものでした。企業は“総合職”という踏み絵を通じ、個人の職種選択の意思を捨てさせ、年功序列や退職金などの後払い方式によって長期に囲い込む。
 みんなが豊かさを求め、モノをつくれば売れた高度経済成長期においては、安定した労働力こそが競争力の源泉になり得たからです。
 しかし、もうとっくの昔に時代は変わっています。競争力の源泉は、企業の安定した雇用確保ではなく、個人の能力を最大化させることへシフトしているのです。
 日本経済を支えるためにも、ジョブマーケットは、企業が労働力を確保することよりも、個人が自らの意思を持って挑戦する機会を見つけることに役割の重点を置かなければいけません」

OpenWorkの「旗」を立て、パラダイムシフトを起こす

 社員クチコミと評価スコアによって、情報感度の高いビジネスパーソンのあいだで市民権を得た旧Vorkers。ただ、まだまだ「知る人ぞ知る」のサービスでした、と増井氏は語る。
 今後、個人が主役となるジョブマーケットにおいて人材の流動化は避けられない。そのゲームチェンジを加速させるため、Vorkersはマイナーからメジャーになる──。OpenWorkへの名称変更は増井氏の本気度の表れだ。
 「終身雇用や新卒一括採用は確実に終焉に向かっています。これまでの就職・転職情報は、企業から個人への一方向の発信のみで、働く個人の実態は閉じられてきました。
 今後は透明性の高いプラットフォームを活用し、個人が主体的かつ継続的に、社会との関わり方や新しい挑戦の機会を探すスタイルが主流になる。
 そんなパラダイムシフトを社会の幅広い層にわかりやすく見せる『旗』、それが“OpenWork”です」
 OpenWorkには、「より透明性の高い(Open)、仕事(Work)選びを提供する」の意味が込められた。そして、社名・サービス名にとどまらず、日本型雇用市場の変革という社会的ムーブメントに向き合う覚悟でもある。

企業の実態が「オープン」になる社会で起こること

 では、個人にとっての“OpenWork”とは具体的に何を指すのか。
 「人材の流動化によって、個人は主体的に能力を高め、自分でジョブマーケットの海へと泳ぎださなければならなくなる。するとOpenWorkのような、本気でマーケットの透明性を高めようとするプラットフォームがますます必要になるでしょう。
 同時に、企業情報だけでなく、企業の中の人の働きぶりも透明化されると、私たち一人ひとり自分の市場価値が見えてくるようになるはずです。
 今すぐ転職する・しないに関係なく、私たちは継続的にOpenWorkをチェックし、ジョブマーケットの情報を収集することが当たり前になる。OpenWorkは働く人のそばにつねに居続ける存在となりたいのです」
 一方、企業にとっての“OpenWork”には「本質への投資」が求められる、と増井氏は語る。
 「“OpenWork”が今以上に利用され、デファクト・スタンダードになると、企業の働きがいが今以上に社員クチコミや評価スコアとして表され、“見える化”されます。
 これまでは求職者を多く集めるため、見栄えのよい求人広告やCMに投資をする必要がありました。しかし、そのような投資は、企業の本質を高めることにはなりません。
 Googleの検索エンジンが価値のある情報に光をあてるように、OpenWorkは働きがいのある企業に光をあてるサービスです。
 透明性の高いジョブマーケットでは、企業の実態はユーザーに筒抜けです。OpenWorkの利用が広がることによって、企業にとっては実態をよくすること、本質への投資に向き合うことが求められます。
 そして、OpenWorkは企業に対して自社や競合企業の評価情報やクチコミデータを提供し、組織改善をサポートします。2018年9月にリンクアンドモチベーションと資本業務提携を行い、麻野耕司氏を取締役兼副社長に迎えたのも、OpenWorkのデータを最大限、企業に活用いただくための布石です」

「頼んだ覚えはない」から「無視できない存在」へ

 2007年の創業当初は、投稿された社員クチコミへ抵抗感を示す企業も多かった。「評価を頼んだ覚えはない」と言われたこともあるという。
 ところが、この2、3年で企業も変わり始めた。クチコミはもはや無視できない存在となり、組織マネジメントの改善に生かす企業まで現れた。
 「我々が市民権を得られた理由は、ひとえに情報の価値に対して真剣に向き合ってきたことにあると思っています。UIを含む情報設計やデータ解析、目視による審査を重視し、クチコミの価値を高め続けてきました。
 最近は、OB/OG訪問を受ける社員が自社のクチコミを参考にしたり、親が子どもの就職・転職時に利用を勧めたりする話も聞きます。
 就職活動をしている学生では、19年卒で約23万人(昨年より4万人増加)、東大、京大、慶應、早稲田では就職者の9割以上が利用しており、コンテンツの価値が広く社会に認識されてきた手応えを感じています」

OpenWorkの影響はジョブマーケットにとどまらない

 OpenWorkは現在、「ワーキングデータプラットフォーム」として、社員クチコミや評価スコアだけでなく、雇用環境や働くことに関わる定量的また定性的なあらゆる情報を取得し蓄積していくことに力を入れている。そのデータを活用し、個人にも企業にもサービスの付加価値を高めていく。
 「入社後により充実して働けることに着目した就職、転職のレコメンデーションを実現したい。よくある『A社に応募した人は、B社にもエントリーしています』といった表面的なものではなく、その人のキャリアや実績、どんな仕事にやりがいを感じてきたかといった特性データを生かして、『あなたが働きがいを感じ、年収を高められる可能性の高い転職先はこちら』といった本質的な提案ができるようになるでしょう」
 加えて、OpenWorkのデータには、ジョブマーケットだけでなく、社会全体を変革し得るポテンシャルが秘められている。
 「すでに企業の経営改善や組織分析、金融業界の投資判断の材料などへデータの活用範囲が広がっています。
 社員クチコミをスコア化した指標を投資の判断材料としてファンドが利用したり、あるいは組織の定性的なデータをポストM&Aに活用したり、新規取引先の与信に使ったりといった事例が出始めています。
 また、タイムリーな話なのですが、先週5月24日に、OpenWorkの社員クチコミデータと業績パフォーマンスとの関係性を分析した論文が、日本証券アナリスト協会の2018年度の証券アナリストジャーナル賞を受賞しました。
 本賞は金融業界でも注目される賞で、歴史は古く、審査委員会も金融業界の重鎮がそろっているものです。金融業界においても社員クチコミが価値あるものであると認識されたと感じています」

個人と企業が健全に向かい合う社会へ

 今後、労働市場の流動化は圧倒的に加速していくことは間違いない。企業は今までのやり方では採用が難しくなり、個人も1社にしがみつく意識を捨て、自分の市場価値を意識する必要がある。
 一方で、自分のやりたい仕事、働きがいのある場を求める人には、ワクワクする未来が訪れるはずだ。
 「OpenWorkは就職や転職活動中の人だけでなく、今の会社で悶々としている人、満足して働けている人、すべての個人が納得して、社会や企業と健全に向かい合うために存在するプラットフォームです。
 ジョブマーケットの透明性が高まることにより、自らの意思で挑戦し、働きがいを実感できる人が増えていくことを願っています」
(構成:横山瑠美 編集:樫本倫子 写真:的野弘路 デザイン:堤香菜)
【働きがい研究所 by OpenWork】
OpenWorkデータに基づく「働きがい」の分析結果を随時レポート。就職、転職前だけでなく、働き方について考える参考にぜひ一読を。

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