(ブルームバーグ): ソニーが米マイクロソフトとクラウドコンピューティングと人工知能(AI)の分野で提携を模索しているとの発表は、業界を驚かせた。だが最も大きな衝撃を受けたのは、ソニー「プレイステーション」部門のスタッフだろう。同部門はマイクロソフトの「Xbox」と380億ドル(約4兆1900億円)規模のコンソール型ゲーム市場で激しい競争を繰り広げてきたからだ。

両社は先週、ゲームストリーミング技術の共同開発や、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「アジュール」を活用したプレイステーションの一部オンラインサービス提供などの戦略的提携に向けた意向確認書を締結したと発表。プレイステーション部門は独自のクラウドゲーム開発に7年を費やしてきたが、部分的な成功にとどまっている。

事情に詳しい関係者によれば、マイクロソフトとの交渉は昨年始まり、ソニーの東京在勤の上級幹部が直接対応、プレイステーション部門はほとんど関与しなかった。このため、今回の発表は同部門スタッフには寝耳に水だったという。こうしたスタッフを管理職は落ち着かせ、ソニーの次世代コンソールの計画に影響はないと念押ししなければならなかったと、関係者が匿名を条件に語った。

クラウドコンピューティング業界でマイクロソフトなどの力が強まる中、ソニーを含む多くのテクノロジー企業が同様の厳しい状況から教訓を学んでいる。データセンターやサーバー、ネットワーク機器に年単位で巨額資金を投じなければ、進歩に付いていくことができない。

インターネットの高速化でゲームではコンソールの必要性が低下しており、ソニー全体の利益の3分の1を稼ぐプレイステーションに脅威となっている。Xbox部門も同じリスクを抱えるが、マイクロソフトは世界2位のクラウドサービスを展開しているため、戦略上の答えを持ち合わせている。グーグルとアマゾン・ドット・コムも、それぞれ独自のクラウドゲームサービスを構築しつつある。

アシンメトリック・アドバイザーズのストラテジスト、アミール・アンバーザデ氏は「このトレンドと強大なグーグルを脅威に感じ、ソニーはネットワークのインフラ構築をマイクロソフトに委ねることを決めた」と指摘した。

ソニーの株価は17日、約1年半ぶり大幅高の9.9%値上がり。自社株買いの発表も支援材料となったが、吉田憲一郎社長兼最高経営責任者(CEO)がゲーム業界の変化に迅速に対応しようとする姿勢への評価もあった。

SMBC日興証券の桂竜輔アナリストはリポートで、「内外のリソースを組み合わせながら、変化する世の中に迅速かつ柔軟に対応する経営判断を実行していることは、あらためて過去とは違う『変化するソニー』を再評価すべきとの弊社の見方が再確認される内容ではないかと考える」と記述した。

ソニーの広報担当者はマイクロソフトとの交渉開始が昨年だったことは認めたが、それ以上の詳細への言及は控えた。

原題:Sony’s Deal With Microsoft Blindsided Its Own PlayStation Team(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:Tokyo 中村友治 ynakamura56@bloomberg.net;シアトル Dina Bass dbass2@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Edwin Chan echan273@bloomberg.net, Alistair Barr、Peter Elstrom

©2019 Bloomberg L.P.