日本企業がやりがちな「チームビルディング」の誤解とは

2019/5/13
多くの企業が「多様性」の重要さを認識し、異なるバックグランドを持つメンバーが集うチームづくりのニーズが増している昨今。異文化を融合させたチームが成果を出すには、どのような「チームビルディング」が必要なのか?

グーグルなどで人材育成や組織開発の統括を経験し、様々な企業で組織コンサルティングを推進するピョートル・フェリクス・グジバチ氏と、大阪を拠点にオープンイノベーションを推進するフィラメントCEOの角勝氏に聞いた。

チームは「枠」ではなく「軸」で考える

──異なる価値観やバックグラウンドを持つ人が「チーム」を作る必要性が高まっています。お二人の知見で、基本となる考え方について聞かせてください。
ピョートル 大切なのは、チームを「枠」として考えるのではなく、価値観や目的の「軸」と捉えることだと考えています。
 私は現在2社の経営に携わっているのですが、それぞれの「軸」に共感した人たちがいろんな契約形態で関わっていますし、クライアント企業ともチームとしてフラットに組んでいます。
 よくある失敗は、オープンイノベーションと言いながら、内心では大企業側が「上流」、スタートアップ側が「下流」という意識で接しているケース。これはうまくいきません。
 クライアントと本当にフラットに組めたら、どちらが上流・下流という考えがなくなる。目的を達成させるための率直なフィードバックがしやすくなり、事業を拡大しやすくなります。
 僕は大阪市役所から独立したばかりの頃、「個人はラクで、それなりに儲かるね」と言われることがありました。
 だけど、一人でできることには限りがあります。目的を達成させるには同じ価値観を持つ仲間とチームを組むべきだと思うので、フィラメントという会社を立ち上げ、チームを作りました。
 というのも、僕は市役所時代に「大阪イノベーションハブ」というオープンイノベーションの拠点を作ったのですが、その際に「チームを作らなかったこと」が強烈な失敗体験として残っているんです。
 私がやったのは、行政が箱物を作って失敗する要因を挙げて、それをすべて潰すことでした。
 たとえば、来てほしい人たちが集まりやすいコミュニティを構築したり、定期的にイベントを開催したり、自分が常駐することで自分自身が「常設のコンテンツ」になったり。思いつくことはすべてやりました。
 ただ、役所内で情報を共有する意識が希薄だったので、そのすべてを一人でやっていたんですね。
 目的達成のために、僕自身は生き生きと仕事をしていたのですが、それを誰とも共有していなかった。その結果、僕が市役所を辞めるときに、引き継ぐのが困難だったんです。
 目的を作って共感する人と最初からチームを作り、みんなで考えて形にしていくことの大切さと、仲間がいたらもっと他のやり方があったかもしれないことに気づかされました。

全員の頭の中をさらけ出し、ビジュアル化する

──チームを作っていく上で、日本人がやりがちなこと・やるべきことはありますか?
 日本人はObjectives(達成目標)思考ではないことが多いので、目的より先に「道(=プロセス)」を作ろうとしがちです。資料にしても、資料によって成し遂げたい目的より先に、資料の作り方を整備し始める。
ピョートル 「Why」「What」「How」の「How」から入る傾向がありますよね。だから、「新卒で入社後、5年働いてやっと一人前だ」という世界観がまかり通るのだと思います。
 一人前になるために貴重な5年を費やさなくても、言語化したわかりやすいマニュアルがあればもっと早く習得できるはずです。
 余談ですが、こうしたあいまいな組織では、「ごまかす」「誘惑する」という働き方が横行します。
 特に縦社会の企業の場合、最低限の努力でいかに最大のボーナスをもらえるかを考えるようになる。大手企業で社内政治を使って出世する人は少なくないでしょう。
 それから、弊社には大学でAIを学ぶ優秀なインターン生がいて、その領域では既存社員よりもスキルが高いんです。同じように、ホワイトカラーワーカーは先輩社員よりも新入社員のテクニカルスキルが高いケースが増えています。
 その場合、チームビルディングの土台は「ファシリテーション」になり、一人ひとりが持つ考えやバックグラウンド、スキル、アイデアなどをビジュアル化することが非常に重要になります。
 それも、オンライン上でのやり取りではなく、みんなで集まってポスト・イットに書き出して貼ったり、ホワイトボードに書いたり、手書きや映像などで具現化するのが大切です。
 つまり、チーム作りの土台となるのは、メンバー同士が「頭の中をさらけ出す」ことにつきるんですよね。
 頭の中のことは、実は自分自身すら案外わかっていないもの。みんなで集まって議論しながら、ポスト・イットやホワイトボードに書き出すことで、ようやく見えてきます。
──メンバーのバックグラウンドが違うからこそ、頭の中をいかに共有するかが、チームの質を左右するのですね。
 アイデアソンの場合、最初に出てくるアイデアはあまり面白くないのですが(笑)、話しながらどんどん出していくことで、誰も気づかなかったアイデアに到達できます。
 同じように、みんなで頭の中をさらけ出していくことで、想像もしていなかったところに本質的な価値を見いだせるようになる。それこそがチームである醍醐味だと思っています。
ピョートル よく社内システムで個人が何をしているかをオープンにしているケースがありますが、わざわざシステムにアクセスして見にいくよりも、壁に貼り出した方が圧倒的に理解が進みます。
 そういった意味でも、アナログな手法でさらけ出していく行為は必要だと思います。

飲み会で愚痴が出るのは心理的安全性がないチーム

──良いチームと悪いチーム、成功するチームと失敗するチームの決定的な違いは何でしょうか。
ピョートル 良いチームにあるのは、「信用できる」「役割分担が構造化されている」「ゴール設定が明確」「仕事に意味があって社会的インパクトをもたらしている」といった心理的安全性を得られる要素です。
 それがないと、やっている仕事に意味はあるのか、与えられた役割分担を受け入れていいのか、この組織にいていいのか不安になり、パフォーマンスが落ちる。
 良いチームと悪いチームは、会議後のメンバーの言動で見分けられます。
 会議の場で「コミットする」と決めたことなのに、飲みの場などで「本当はやりたくない」「あの上司はわかっていない」といった愚痴が出るのは悪いチームの証し。
 そもそも、心理的安全性があれば反対意見を言えるので、会議の場で軌道修正ができるんです。
 シリコンバレーに、「Not agree, but commitment=賛成していないけどコミットする」という考えがあります。賛成できない部分に意見し、それが建設的なプロセスになれば、アグリーした状態で進めていく。
 日本は真逆で、その場では傍観者のように反対意見を言わず空気を読んで「賛成」と言って、外に出たら文句を言うケースが多いように思います。
 全くその通り、「面従腹背」ですね。後で愚痴を言うのは、会社での小さな失敗経験が積み重なって「自分は理解されていない」という感覚を持ってしまうことも原因だと思います。
 意見を言っても理解してもらえないと思うからその場では言えない。だから、別の場所で愚痴を言う。チームに大事なのは、お互いをリスペクトして理解し合うこと。
 そのためにも、頭の中をさらけ出して理解し合う習慣をつけるのは重要だと思っています。

目的は“組む”ことではない。Whyから始めよ

──角さんは大阪でオープンイノベーションを支援する事業を展開しています。組織を超えたチームビルディングに大切なポイントはありますか?
 自社の都合ばかりを言わないことです。
 よくあるのが、大企業が「スタートアップにリソースを使わせてあげている」というオーナーの姿勢でいること。これではフラットなチームになれません。
 オーナー姿勢でいると起こりがちなのが、「会社の許可が下りなかったので解散」などの一方的な結末。
 お互いの目的が一致したなら同じ方向に向かうはずですが、本当にやりたいことではなかったり、目的意識が低かったりすると失敗します。
ピョートル 当たり前のことですが、目的が同じで一緒に結果を出す前提がなければコラボレーションはできないんですよね。
 日本の会社に多いのは、「社員に自発的にコラボレーションしてもらいたい」という「How」からチームを作ろうとすること。
 そう。だから、「オープンイノベーション推進室」ができて、推進することが目的になるんです。
ピョートル ダイバーシティ推進室、働き方推進室も同じですね。
 オープンイノベーションは、一緒にやることが目的ではなくて、やりたいことを形にするのが目的です。やりたいことがあっても社内だけで完結できないから、目的を成功させる確率を高めるために社外のいろんな人と組む。
 でもオープンイノベーション推進室を作った途端に、目的がコラボすることになってしまいます。
 推進室が外部のスタートアップを連れてきて、ほかの事業部に「ここと組んで事業つくって」と言ったところで、Howから始めた話なので何も生まれません(笑)。
 一方で、オープンイノベーション推進室がない会社でも、経理部門や物流部門などの間接部門が他社の同様の部署と組むことで、コストダウンや事業化に成功している例もあります。
 むやみにHowを前提にするのではなく、すべての事業部でObjective思考が浸透していくことが望ましい姿だと思います。
ピョートル 「Why」がないとダメですね。コラボするなら「やらないことでどんなリスクがあり、やることにどんな価値があるか」を全員が理解している必要があります。
 人間は“自分と似た性格や仕事をしている人”に近づく傾向がありますが、自分とは違う分野の人と組み、目的とルールを明確にして、何が許されて何が許されないのかをはっきりさせる
 その上でチームビルディングに必要な要素は2つ。1つは豊富な情報を把握し、それを適切に取捨選択してわかりやすく再構成して伝える「編集能力」
 もう1つは、相反することが同時に存在する「パラドックス文化」です。
 たとえばグーグルなら、「フラットな組織だけど大きな意思決定は強烈なトップダウン」「心理的安全性があるからこそ、残酷なほどのフィードバック」「新しい失敗は大歓迎だけど、失敗から学ばないことは許されない」など、優しさと厳しさという強い相反があります。
 こうしたチームにしていくことで、新しいアイデアや価値は生まれやすくなり、目的を達成して最大限の成果を出せるようになると思いますよ。
(編集:呉琢磨 構成:田村朋美 撮影:岡村大輔 デザイン:田中貴美恵)