巨大産業を次々と攻略!業界を激震させるラクスルの裏側

2019/4/25
 印刷や広告、物流といったレガシー産業にインターネットテクノロジーを持ち込み、業界構造そのものを変革するプラットフォームを発明したラクスル。
 CEOの松本恭攝氏は「私たちが行うことは日本初、さらにいえば世界初のケースであることが多い。既存の事業とテクノロジーを組み合わせて顧客価値を創造するという会社が、他にないからです。私たちが事業を展開する業界は一見、競合の多いレッドオーシャンです。でもその旧来の産業にテクノロジーを掛け合わせた瞬間に、ブルーオーシャンになる」と語る。
 つまり彼らは、単なるテクノロジーを生かしたネットベンチャーではなく、サプライチェーンのパートナーたちと地道に手を結び、「リアル」な事業開発を行っているのだ。
 2016年より売上高は拡大。企業価値の源泉とも言える売上総利益額も、継続的に拡大している。直近の2019年7月期2Qの売上高は前年同期(2018年7月期2Q)と比べプラス61.7%、売上総利益は前年同期比でプラス55.4%を上げている。
 BtoBの既存産業は、すべて事業領域となり得るというラクスルでは今、事業を立ち上げて運用フェーズにまでもっていける「事業家人材」を募集しているという。
 ラクスル創業者の代表取締役社長CEO 松本恭攝氏に、ラクスルという会社が目指すもの、そして求める人材像について聞いた。
CM業界に激震。「制作・放映50万円から」の裏側
 ラクスルは私が2009年に立ち上げたベンチャー企業です。現在の2大事業は印刷と運送。一昨年の秋には、印刷事業の中の集客支援(広告)サービスの一つとして、新たにテレビCM制作・放映のサービスをスタートしました。
1984年富山県生まれ。2008年に慶應義塾大学商学部を卒業し、コンサルティング会社のA.T.カーニーに入社。M&Aや新規事業、コスト削減プロジェクトなどに携わる。その過程で印刷業界の非効率さ、コスト削減効果の高さに気づき、09年にラクスル株式会社を設立。同社代表取締役社長CEO。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに巨大な既存産業にインターネットを持ち込み、産業構造の変革を行う。
 テレビCMは通常何千万円というお金をかけて制作し、何億円というお金をかけて放映するというイメージがあると思います。そのため、中小企業にとってはプロモーションの選択肢に入りませんでした。
 そこで、制作会社をネットワーク化し、非稼働時間を活用することで安価に制作する仕組みを作りました。ラクスル内に企画機能を持ち、制作会社に直接発注して一緒に作ることで、50万円からCMを制作し、放映できるプランを実現。小規模な会社でも手が届くサービスにしました。
 これまでテレビCMの世界には、デジタルの波がやってきていませんでした。基本的には人が出向いて打ち合わせをし、見積もり提案や受発注をしていたのです。そこをオンライン化することによって、人件費の削減や効率化も可能になりました。
 これはラクスルの他の事業、印刷事業、運送事業も同じです。
 印刷事業は、全国の印刷会社の印刷機の空き時間を使って印刷することと、ネットで簡単に受発注ができるプラットフォームを構築したことにより、高品質・低価格を実現しました。
 そして運送事業「ハコベル」は、ネット上のプラットフォームで荷主と運送会社をつなぎ、非稼働時間を活用することで、高品質かつ低価格な運送の仕組みを開発しました。
 ポイントは単なるデジタルトランスフォーメーションではないこと。旧来の産業構造そのものを変えて、印刷、運送、広告制作を再発明するつもりで取り組んでいます。
「小ロット化」はすべての事業に共通する変革です。大きな単位でしか発注できなかったものを、小分けにして受発注できるようにする。そうすると、今までそのサービスが利用できなかった中小企業も簡単に利用でき、市場が広がります。
価値を出すから、急成長している
 ラクスルは、純粋な「インターネットサービス」の会社ではありません。市場規模が大きく、産業構造が何十年も変わっていないリアルの産業はすべてラクスルの事業領域となりえます。
 どんな産業も、作業自体は少しずつデジタル化、オートメーション化されてきています。でも、受発注やワークフローそのものにテクノロジーを導入している産業はまだ少ない。新規事業を立ち上げるチャンスは無数に存在しています。
 私たちのビジョンは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」です。イノベーターは基本的に、テクノロジードリブンであるデジタル産業に集まります。
 広告でいえば、インターネット広告の分野は、日々革新が起こっている。でも、テレビCMの業界を変えようとする人はなかなか現れません。だから、ずっとアナログなまま。変化の余地がたくさん残されています。
 日本にはこうした、デジタル化されていない産業がたくさんあります。そこを変えていくのは、ラクスルの独壇場といってもいいでしょう。
 独自のポジションを築いているからこそ、ラクスルは成長し続けてきました。売上高、売上総利益ともに順調に拡大しており、この四半期(2019年7月期2Q)は売上高が前年同期比でプラス61.7%成長しています。BtoBということもあり一般認知はそこまで高くありませんが、日本のスタートアップとしては売り上げ、時価総額ともに成長スピードが速い会社です。
 とはいえ、「成長企業」「ユニコーン」などと表面的にもてはやされることには、意味がないと考えています。顧客にとって、そしてこの世界に対してどれだけ本質的な価値をつくっていけるのか。そこにフォーカスした結果の成長スピードです。
 目標としている企業はありませんが、世の中の課題を解決することで世界に大きな価値を提供していると思う企業はAmazonです。10年前は単なるインターネット通販の会社でしたが、今では生活のインフラになりつつあり、日本でもAmazonのサービスを毎日使っているという人がいるのではないでしょうか。Amazonは、インターネットを使って世の中の課題を解決し続けているのです。
 ラクスルはそんなふうに、人々の生活のベースとなる産業をアップデートしていくことで、世界を変えていきたいと考えています。
解像度を上げて物事を見つめ、課題を設定する
 ラクスルでは「事業家人材」と呼ばれる人が活躍しています。
 事業家人材とは、業界やユーザーの課題を深掘りして事業の種を見つけ、テクノロジーの力を用いて構造的な「勝ち筋」を創り出し、リーダーとして多くのステークホルダーを巻き込んで、提供価値を最大化できる人のこと。これらを実現するために必要な3つの要素があります。
 “Reality”、“System”、“Cooperation”。日本語で言えば「高解像度」「仕組み化」「互助連携」です。これらを「ラクスルスタイル」として定義しています。
スタイル1.Realityーー高解像度
 順に説明していきましょう。最初にくるのは「高解像度」で物事を見る“Reality”です。
 まずはお客様のニーズを徹底的に理解します。テレビCMのサービスが生まれるきっかけになったのは、ある地方のお客様が「チラシを印刷して、コールセンターの人員募集をしたい」とおっしゃったことでした。
 ここで、お客様が本当に求めていることはなんなのか、解像度を上げて見てみたのです。本質的なニーズは「チラシの印刷」ではなく「いいスタッフを集めること」。それに対して、予算、施策の打てる期間を考えていくと「地方局でテレビCMを打つ」という解決策に至りました。
 ヒントになったのは自社でテレビCMを打ち、その宣伝効果を利用して成長してきた実体験です。そこから私は、地方のCM枠は値下がりしていること、広告効率がデジタル広告よりも宣伝する商品によっては勝っていることなどを知っていました。
 さらに、事業を開発するには産業構造や業界について解像度の高い目を持っていることが必要です。CM事業のことを経営陣のチャットグループに投げたとき、「それはいい!」と真っ先に反応してくれたのはCMO(Chief Marketing Officer)でした。逆に言えば、当初、他の役員には全然理解されなかったのです(笑)。
 CMOはラクスルに転職する前から、マーケティングの責任者としてテレビCMを打ち続けてきた経験があり、テレビCMにはポテンシャルとイノベーションの余地があることを実感していました。彼だけが、CM業界に対する解像度が高かったのです。
 ラクスルでは、現場をとても重視しています。業界についてもうわべの知識だけではなく、そこで働いた経験からの肌感覚を持っている人が強い。さらにそういう人は、一次データをしっかり見て分析しています。解像度を上げて定性と定量の両方から課題設定ができる。そういう人が活躍しています。
スタイル2. System——仕組み化
 次は“System”、「仕組み化」です。その産業における従来のワークフローの属人性を下げて標準化し、効率を上げていきます。CM制作の一例としては、人が出向いて何度か打ち合わせをしていたところを、オンラインで受発注を完結させる。
 他にも、固定費を下げる、現場のアイドルタイムをなくす、需給のマッチングをなめらかにするなど、さまざまなアプローチが考えられます。ここにはテクノロジーの知識も必要になってきます。
スタイル3. Cooperation——互助連携
 最後に“Cooperation”、「互助連携」です。構築したシステムをさまざまな人と協力して、運用にのせる。
 仕組みを作ったからといって、自動的に人が使ってくれるわけではありません。まずはパートナー企業を地道に開拓します。さらに、お客様や一緒にCM制作をしてくれる広告代理店に制作会社、テレビ局、そして社内でもエンジニア、企画職、カスタマーサポート、マーケターなど、さまざまなメンバーとの連携が必要です。そこまでやらなければ、事業としては成り立ちません。
 このあたりは、インターネットで完結するアプリ開発などのネットベンチャーではできない仕事かもしれません。そして、大企業出身者が活躍する部分でもあります。
 ラクスルでは、大企業での勤務を経て入社したメンバーがたくさん活躍しています。トヨタ自動車や電通グループ、NTT、リクルートなどさまざまな業界から転職してきたメンバーがいます。
 特に大手メーカーでの勤務経験は、意外に思えるかもしれませんが、ラクスルの事業に生かせる部分がたくさんあります。日本の自動車産業や半導体製造、工作機械などの生産効率は世界トップクラスです。しかし、その他の産業では生産性が高いとは言えません。印刷、物流業界などもそうです。
 そこに、大手メーカーの効率化のナレッジを持ち込み、サプライヤーをエンパワーメントする。ソフトウェアを入れてシステム化し、産業構造を変えることで生産性を劇的に上げられます。ある業界のナレッジを、他業界に持ち込むことで大きなインパクトを出すことができるのです。
将来の事業開発を、先取りして学べる環境
 ラクスルではこうした事業家人材を、制度と風土の両方から育てていこうとしています。
 各事業はビジネスユニット制度を導入し、ビジネスユニットのトップは事業のすべてにおいて責任と意思決定権を持ちます。今ラクスルには、0から1をつくる、1を10に広げるなどいくつかのフェーズの事業があります。それぞれについて、事業を創り上げる経験を積むことができるのです。
 また、ラクスルでは「創造・変革プロジェクト」という名前で、短期視点ではなく中長期で事業の顧客価値を抜本的に変え、向上させていく取り組みを定期的に行っています。これは一種の「型」として実行できるようにしてあり、「プロジェクト」の実行リーダーは、その型にそって事業開発を学べます。事業家の育成プログラムにもなっているのです。
 そして、経営陣も含めすべてのメンバーがワンフロアにいられるようオフィスを設計しました。なにか問題意識があれば、直接経営陣と話すことができます。もちろん私もよく、メンバーと話す機会を設けています。
 ラクスルで育てているようなタイプの事業家人材はほとんど存在していないため、希少価値があります。しかし、業界を再定義して新しいビジネスをつくることは、20年後、30年後のメインストリームになると考えています。
 今の30歳が、20年後には50歳、30年後には60歳になり、全産業をデジタルネイティブが動かす時代が来るからです。その時、すべての産業プロセスはデジタル化されるでしょう。ラクスルであれば、その時代を先取りして事業開発に挑戦できるのです。
 ラクスルは、日本で最初にインターネットとリアル産業を接続した企業だと自負しています。既存産業のビジネスモデルとインターネットテクノロジーを掛け合わせて、産業を再発明する。産業構造自体をアップデートする事業は、他のどの会社も取り組んでいません。端的に言って、難易度が高いからです。
 経営基盤を安定させることはもちろん、社員一人ひとりにも、高度なビジネススキルに壁を突破する発想力、長期的な視野……さまざまな要素が必要とされます。だからこそ、やりがいがある。
 クライアントや産業自体が持つ課題を解決し、変化が目に見えて表れたときは、何物にも代えがたい手応えを感じます。誇張ではなく、自分の仕事が世界を変革するという実感を味わえるのです。ビジネス史に名を刻むような大事業に取り組みたい人は、ぜひ一緒に働きましょう。
(編集:中島洋一 構成:崎谷実穂 写真:吉田和生 デザイン:黒田早希)