キャリアプランよりも大切なこと

教師やマーケター、看護師、金融アナリスト、パイロット──。私たちはこれまで、何者かになるために勉強するよう、教えられてきた。
しかし、現代社会における急速な変化を見ると、こうした職業が10年後も存在するだろうという考えは甘い。自動化や人工知能(AI)、オフショアリング(他国への事業移転)の発達や増加とともに「職業」の重要性は低下している。
ある職業に就こうと計画するべきではなく、それよりもむしろ継続的な学習やスキル磨きに集中すべきだ。これらは、近い将来極めて重要となるはずだ。
私たちは、キャリアプランについて考え直す必要がある。キャリアプランに代わって、数年ごとに自分のキャリアを見直す「スキル・エンハンスメント(スキル向上)」と呼ぶのはどうだろうか。
これは必ずしも、数年ごとに仕事を変えろということではない。ちょうどAIが成長するように、継続的に自分自身を教育することを意味する。
ジョージタウン大学の研究によると、2020年には米国の求人数のうち学士号を必要とするものは35%にすぎなくなるという。職の大半にそうした必要条件はなくなり、志願者は仕事を通して、必要な専門技術の教育を受けることができるだろう。そしてそうした職の多くは高給だ。
顧客や政府が、キャリア・マッチングからスキル・マッチングに移行するのをサポートしようとする「フューチャーズ(Futures Inc)」といった企業もある。スキル・マッチングは、退役軍人にとってとくに重要だ。彼らには何年も国家に尽くした後、民間企業で実生活に沿ったスキルを使う必要がおおいにあるからだ。
では、実際にはどんなスキルが重要になるのだろうか。
ほとんどの専門家が一致するのは、雇用主は従業員に対し、従来の肉体労働に関連する身体的スキルよりも、コミュニケーション能力や分析力といった認知力に関するスキルを求めるだろうということだ。
以下では、私が考えるところの磨く価値のあるスキル上位3つを紹介しよう。これらは、多くは仕事で学べる技能的なスキルというより、生涯にわたって自分の個性を形成するために重要なスキルだ。

1. 共感

共感は、他者の感情を理解し共有する能力と定義される。多くの場合、親が子どもに対して「近所の子を傷つけてはいけないよ。つらい気持ちにさせてしまうかもしれないからね」と教えることで子どもが身につけるスキルだ。
共感を教えるのは「報復を恐れる感情」を育てるからだ。ちょっとした行動が将来、家族や友人が報復的な対応をとる原因となるかもしれない。共感は、人がより自己認識を深め、他者の心を開くために何をすべきかという直感を徐々に発達させるのに役立つ、とても重要なスキルだ。
『アトランティック』誌のスーザン・ランゾーニによると、数十年前から共感について研究している社会心理学者のC・ダニエル・バトソンの主張では、共感という言葉は現在、8つの異なる概念を指すという。
他者の考えや感情を知ること、他者の考えや感情を想像すること、他者と同じ姿勢をとること、実際に他者が感じているような感情を抱くこと、どう感じ考えるかを他者の立場で想像すること、他者の苦難に苦痛を感じること、他者の苦難に同情すること(哀れみや思いやりと呼ばれることもある)、他者の状況を我がことのように想像することの8つだ。
共感は、あらゆる種類の交渉において非常に重要なスキルである。つまり、相手側の内面の動機が何かわかれば、彼らの期待に応えながら、互いに有益な結果に到達できる。また、すべてのビジネスに欠かせない、あらゆるタイプの人間関係を構築するのにも重要なスキルだ。

2. 倫理的な行動

倫理的な振る舞いとは、社会と個人が一般的に「良い価値観だ」と思うことに一致するような行動と定義される。しかし、この個人主義の時代では、そしてこのご時世に、どうして多くの人の価値観に同調する必要があるのかと尋ねたくなるかもしれない。
倫理と価値観の問題は、平等という概念を考慮すると、さらに難しくなってくる。一方で、平等とは民主主義の土台だ。しかしもう一方で、平等は資本主義とは相入れない「所得の再分配」という考え方を生み出す。
税金を使って、富裕層からお金を取り立てて恵まれない人々を助けることは、実質的には懸命に働く意欲を削ぐ行為だ。また、所得の再分配は、富裕層における個人の権利を侵しているとも言える。富裕層は、雇用を生み出し、経済を前進させているのに不当に扱われており、非倫理的だと主張するかもしれない。
これは、倫理という概念と、その核となる定義が問題になるような認知的不協和だ。しかし、社会的な倫理はさておき、個人としての倫理的な振る舞いについては、公平性や品位、多様性、公共の幸福の追求といった極めて重要な道徳原則が含まれる。
こうした価値観の下にこそ、人は集まることができる。他者の目前で倫理的に行動できる能力は、将来の利益をもたらすだろう。
あなたは、他者に対して倫理的に行動する人と、一般的に受け入れられている倫理原則の概念を曲げてしまう人の、どちらに投資したいだろうか。

3. 好奇心

つねに何か学んでいたいという強い願望は、将来は極めて重要になるスキルだ。20世紀では、人は大学を卒業すると学ぶことをやめてしまっていたが、21世紀は違う。現在の教育は現在進行形だ。仕事から、他者から、音楽やテレビから、時には専門コースに参加して、学ぶ必要がある。
世界のデータ量と情報量は1年で倍増する。それゆえに、20年前に本や教授から得た知識をもとに成功するのは不可能だ。多くの場合、私たちが以前学んだことは、今の生活に役立たない。
好奇心は、私たちが実際の生活と結びつき、クリエイティブであり続けるために育てる必要のあるスキルだ。博物館に連れて行ったり、壮大な冒険や空想の世界の本を読んだりして子どもたちに教えるべきものだ。好奇心こそ、海外の旅を楽しく魅力的なものにする。
好奇心がなかったら発明は存在せず、世界は停滞してしまうだろう。
もし鳥のように空を飛ぶことを夢見たライト兄弟の好奇心がなければ、空飛ぶことは不可能だっただろう。もしスティーブ・ジョブズの好奇心がなかったら、携帯電話で音楽を聴くことは不可能だっただろう。テスラとエジソンが「もっと明るい夜」を夢見なかったら、私たちは暗い時代を生きていだだろう。
かつてソクラテスは、賢明にもこう語った。「私はただひとつ知っていることがある。それは、私は何も知らないということだ」。最もよく知っていたのは彼だ。私たちはみな、終わりのない向上という彼の考え方から学ぶべきである。
自分がすでに持っていると思うスキルさえも、生涯をかけて磨いていかなければいけない。広告やテクノロジー、小売り、金融、医療といった、競争や変化が激しい分野はとくにそうだ。好奇心を持ち続け、倫理的に振る舞い、他者に共感することができれば、10年後の私たちはうまく生きていけるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Yuriy Boykiv/Co-founder and CEO, Gravity Media、翻訳:新多可奈子/ガリレオ、写真:emese73/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.