【箕輪×井上】読書の熱狂はファッションを超え、システムを変えるか

2019/4/3
NewsPicksは、2019年4月より、パブリッシングチームを新たに創設。従来、幻冬舎が担ってきたNewsPicks Bookとは別に新レーベルを立ち上げ、その編集長には、ダイヤモンド社などで数々のベストセラーを生み出してきた井上慎平が就任します。NewsPicks Bookの編集長の幻冬舎、箕輪厚介氏と書籍出版の未来について、語り合いました。
なお、NewsPicksパブリッシングチームは、営業担当責任者を募集しています。

本を選ぶのは「大変すぎる」

井上 NewsPicksが自社でパブリッシングチームを創設するのに伴い、この4月から書籍編集長というポストを拝命しました。いろいろお騒がせした「NewsPicks Book」についても、別レーベルを新たに立ち上げるかたちで、NewsPicksアカデミア会員向けに本を作り続けていきます。
箕輪 よかった! ちょっと井上さんとは関係ないところでゴタゴタしてたから、このまま引き継いでもらうのは申し訳ないなと思っていたけど。
幻冬舎も改めて、より高みを目指してNewsPicks Bookをやっていきます。井上さんは、このあと立ち上げることになる新レーベルをどうしたいんですか?
井上 一言で言えば、「0.1秒の奪い合い」から脱出したいんです。
井上慎平(いのうえ・しんぺい) NewsPicksパブリッシング 編集長。1988年生まれ。京都大学総合人間学部卒業。2011年、ディスカヴァー・トゥエンティワンに入社。書店営業、広報などを経て編集者に。2017年、ダイヤモンド社に入社。代表的な担当書籍に、中室牧子著『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我著『転職の思考法』(ダイヤモンド社)など。
今、書店の棚では、それぞれの本が「いかに0.1秒で読者の目を釘付けにするか」というゲームを日々繰り広げているわけですよね。そこでは、「見ず知らずの読者に店頭で衝動買いしてもらう」ことが前提になっている。でも、今の時代、それは読者に負担が大きすぎると思うんです。
箕輪 ですよね。これほど情報が爆発している中、自分だけではどの本を読むべきか選べなくなってきている。だから、信頼している人やコミュニティをベースに選ぶようになっている。NewsPicks Bookはそこに対する新しい試みでもありました。
井上 今、ほとんどの書店では、本が見ず知らずの読者にいきなり声をかけて「いい本なので買ってください」と言っているのに等しいモデルになっています。これって道端でのナンパと変わらない。読者だって疑心暗鬼になりますよね。
そんな問題意識を抱えた僕にとって、箕輪さんの登場は衝撃でした。NewsPicks Bookは、箕輪厚介という個人が読者とつながることで、0.1秒を奪い合うゲームから見事に脱出することに成功したわけですよね。
箕輪 最近、僕が考えているのは心をいかに奪うかです。「可処分所得」よりも「可処分時間」の奪い合いになったと言われるように、お小遣いの奪い合いから時間の奪い合いに構図は変化していきました。
でももう一つ踏み込むと、今は「可処分精神」の時代。スマホひとつの中にNetflixもLINEもTwitterもあって、とにかくお客さんはお金はおろか、時間もくれない。コンテンツがありすぎるからです。
そんな時代だからこそ、まずは先に心を奪わなければいけない。心を預けていただいて初めて時間をいただける。そこまで信頼を重ねて、ようやくキャッシュポイントがくると思うのです。
箕輪厚介(みのわ・こうすけ) 幻冬舎編集者。1985年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2010年双葉社に入社。『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文を編集。その後幻冬舎に移籍し、2017年にNewsPicks Bookを立ち上げ、編集長に就任。『多動力』堀江貴文、『メモの魔力』前田裕二、『日本再興戦略』落合陽一など、創刊1年で100万部突破。また1000名の会員を擁するオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰。既存の編集者の枠を超え、様々なコンテンツをプロデュースしている。
井上 その心を奪う力が、箕輪さんの編集者としての圧倒的な強みですよね。
僕は、箕輪さんとは違う方法でこの「0.1秒の奪い合い」から脱出したいんです。そこにしか出版の未来はないと、本気で思っているので。
箕輪 違う方法というと、どんなイメージですか?
井上 僕も編集長として前には出ていきますが、個人の力だけに頼るのではなく、レーベルのビジョンやコンセプトで選ばれる状況を作りたいんです。「自分たちはなぜ出版するのか」「自分たちはどんな未来を目指すのか」をはっきり掲げて。
今日は、青臭いことを百も承知で言います。僕、新しいレーベルのコンセプトは「希望」にしたいんです。
箕輪 井上さんらしい! 真面目!(笑)
井上 真面目というか、暑苦しいですかね。僕と箕輪さんは暑苦しいところは一緒だと思いますけど(笑)、編集者としてけっこうタイプが違いますよね。僕は、課題に目が行くタイプ。
担当した『転職の思考法』という本もベストセラーになりましたけど、あれも「転職が不自由すぎる」という課題意識ありきだった。編集者にもいろんなタイプがいますけど、僕のモチベーションの根源は突き詰めると「怒り」なんですよね。
箕輪 井上さんの場合、すでにある課題意識をクリアするために必要なメッセージを、著者を見つけて形にしていますよね。僕は真逆で、フォーカスを当てるのは個人の異端性。課題より先に個体としての生き方がある。
たとえば『メモの魔力』なら、メモのノウハウを伝えたいのではなく、前田裕二の生き方をメモという形をまとって伝えている。僕は誤解を恐れずに言うと、世の中の課題はどうでもよくて、変人の変態性を表現したいだけなんです。
井上 僕も、著者という個人にほれ込む部分は多いにあります。ただ、自分が担当させてもらった『転職の思考法』の北野唯我さんもそうですが、課題意識を持って世の中のシステムそのものをよくしていこうとする著者に引かれるんです。
箕輪 そうですよね。どんなレーベルにもコンセプトはあると思うのだけれど、そのコンセプトを宣言するだけでは、ふらっと本屋さんに立ち寄る人が心を預けてはくれないと僕は感じていて。
だから今この瞬間、この時代に最前線で戦っている人の、旧来の価値観や常識からはみ出る部分を切り取る。そのいびつな才能に共感し、熱狂してもらう。そういった本をなんとか出し続けて、振り返ってみたら自然と浮かび上がるのがNewsPicks Bookのコンセプトかなと思っています。
つまり僕ではなく読者が感じてくれるもの。僕がコンセプトはこうしよう、とかって考えないから井上さんはすごくカッコいいと思っています。
井上 ああ、コンセプトは振り返ってみて自然に浮かび上がるものだというのは本当にそのとおりですね。たしかに、コンセプトの発信で読者に心を預けてもらうのは難しい。難しいけど、挑戦したいんです。
これだけあらゆる分野で問題が山積みの時代に、「この本さえ読めば、まわりはダメでもあなただけは生き残れます」みたいな本を作るのは、やっぱりつまんないじゃないですか。
そうではなくて、システムそのものをよくして、それに関わる全員が幸せになる方向に努力している起業家や学者の人の本を僕は作りたい。そういう「個人の成功」ではなく「全体の幸福」を願う人を僕は「希望」と呼びたいし、その発信源になれればな、と。
箕輪 僕たちが初めて会ったのは、井上さんが初めて編集した『「学力」の経済学』が大ヒットしてすぐ。井上さんがDMで「箕輪さんの話を聞きたい」って送ってくれて、ランチをした。そういうふうに言っていただけるのはうれしかったし、あのときから優秀だなと思っていた。
NewsPicks Bookの編集長を続けるのしんどいなと思った時は井上さんの顔が常に浮かびました。でも、最初に会った時から希望のことを言っていた気がする。
箕輪厚介(みのわ・こうすけ) 幻冬舎編集者。1985年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2010年双葉社に入社。ファッション雑誌の広告営業としてタイアップや商品開発、イベントなどを企画運営。広告部に籍を置きながら雑誌『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊しアマゾン総合ランキング1位を獲得。2014年、編集部に異動。『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文を編集。その後幻冬舎に移籍し、2017年にNewsPicks Bookを立ち上げ、編集長に就任。『多動力』堀江貴文、『メモの魔力』前田裕二、『日本再興戦略』落合陽一など、創刊1年で100万部突破。また1000名の会員を擁する日本最大級のオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰。エクソダス取締役。個人会社 波の上商店社長。既存の編集者の枠を超え、様々なコンテンツをプロデュースしている。
井上 もう3年前になりますかね。たしかに『「学力」の経済学』も、教育というシステム全体をよくしようとする著者の中室(牧子)先生の希望を届けたかった本ですから。
箕輪 井上さんは、個人はもちろん、もっと全体を変えたい人なんだよな。僕は応援したいけど……ビジネス目線で言えば、持続していくことの難しさとどう折り合いをつけていくか。そこはおもしろいチャレンジだし可能性を感じます。
あと僕は世の中のマジョリティはやはりキレイごとでは動かないと痛いほどに実感しています。NPにコメントする人はこの国の0.1%です。でもマジョリティに訴えかけないと世界は変わらない。
本読みに本を読ませることは、僕の仕事ではない。若い人を動かす。だからまずはおもしろい、新しい、カッコいいというブランドを作る。ブランドさえ作ってしまえば、そのあとは大切だけど地味なテーマでも耳を傾けてくれる。
リンクアンドモチベーション麻野(耕司)さんの『THE TEAM』だってNewsPicks Bookの最初のほうに出してもたぶん無理だった。でも今はNewsPicks Bookがカッコいいブランドになったから、若い人たちが「チーム」っていうある種地味なテーマの本格的な本を楽しんで読んでくれている気がします。
だから伝えたいことを伝えるには、まずは死に物狂いでカッコいいと感じていただけるようなブランドを作ることかなと思いますね。
井上 ブランドの作り込みが先、たしかにそうですよね。「システムがどうだ」「希望がどうだ」なんて話、普通は興味がないですから。ただ、僕はこの時代に「システムを変える希望」をコンセプトにすることに、かすかな勝算を感じているんです。
箕輪 どんな勝算ですか?
井上 たぶん多くの人が、「システムを変えてくれる人」を待ち望んでいるんじゃないかなと。僕の感覚では、ここ数年「このままでいいのか?」と現状への不安を募らせる人が増えています。
箕輪 なるほど。
井上 それは時代が前に進んだからではなく、むしろその逆で。これだけテクノロジーが発達して、もっと変わっていいはずの自分の周りの環境があまり変わっていないことに対する焦りだと思うんです。その理想と現実のギャップを突く本は、必ずおもしろくなる。
転職も教育もそうでしたが、みんなが「このままでいいのか?」と思っている分野は、ビジネス分野含め、まだ山ほどありますから。
箕輪 変化が速いから、あらゆるとこにひずみが出ている。
井上 今はどの分野でもイノベーションが求められますけど、それって要は「このままじゃいけない」ってことじゃないですか。そこに対する解そのもの、あるいは解を出すために必要な教養も提供していきたいし、「あのレーベルからは新しいものが出てくるな」と期待されたいんですよね。

西海岸的編集者と東海岸的編集者

井上 箕輪さんは立ち上げから2年経った「NewsPicks Book」を振り返って、どうでしたか?
箕輪 まずは、とにかく疲れた。正直、編集長は2年で辞めようと思っていたからゴールテープに達した今、またこっから走るのかって気はする(笑)。
ただこの2年で少し世の中の空気を変えられたのかなという感じもします。
やっぱり日本では、意識が高いことや行動して失敗することがバカにされたり痛いとされる空気があった。でも最近はそれを外から揶揄しているほうがカッコ悪いという空気になっている気がします。
そういったムードを作れたこと。あとは書店員さんに言われるんですが、書店に来る年齢層が若返ったと言われるとはうれしいですね。
それに1000人近く「箕輪編集室」という僕のオンラインサロンに集まりモチベーション高く活躍している。これもNewsPicks Bookがあったからできた軍団です。
さらに、ある種ニッチな若者の熱狂でしかなかったNewsPicks Bookが市民権を得て、今や、僕と前田裕二さんが『スッキリ』で交互に火曜日のコメンテーターをやったり、『news zero』で落合陽一さんがコメンテーターをやったり、旧勢力であるテレビなどを本格的に巻き込むようになってきたのは、やっぱりうれしいなと思います。
もちろんNewsPicks Bookの力だけではまったくなく、それぞれの頑張りであり、時代性だと思いますが。
井上 たしかに箕輪さんにしても落合さんにしても、メディアの演者としてもはやメインストリームに乗っている感があります。
箕輪 落合さんは前から出てましたが、今やテレビ、ネットメディア、イベント。にぎわせている人みんな友達みたいな。1~2年前ではちょっと考えられなかったですね。
井上 最終的に本を通じて「社会にインパクトを与えよう」としている点において、僕と箕輪さんがやろうとしていることには、似た部分があると思うんです。手法が違うだけで。
箕輪 そうですね。NewsPicks的に言うと僕は「西海岸」で、井上さんはもっと「東海岸」ですよね。
僕は自分の生き方やキャラクターを前面に出して、そして著者の個体としての特異性を本にすることでレーベルを作ってきたわけですが、これは西海岸ではウケる。
要は西海岸の人は個人として生きたいと思っている。だから顔が見える商品を好む。根本の仕組みを変えていこうとする井上さんのやり方は、やっぱり東海岸の方に支持されるのかと思いますね。
井上 西海岸と東海岸は行動原理が違いますよね。西海岸はイノベーター気質で、「変化」という言葉で動ける人たち。
でも、「変化」って生き物には苦痛だから、やっぱり多くの人は変わりたくないはずです。変わることで、自分が勝ち組になれるという実感が持てない限りは。だから、僕はあえて個人にひも付いた「変化」ではなく、全員が乗っかれる「希望」という言葉を使いたかった。

能動的な「読書」だからこその影響力

井上 僕、ひとつ聞きたいことがあって。箕輪さんはいつも見事に、時代の空気をつかみとりますよね。動物的な嗅覚が天才的で、今どこにマグマが溜まっているかを嗅ぎつける能力がある。
箕輪 そこは僕、得意かもしれないですね。鼻をクンクンさせるのが。
井上 オンラインサロンを作って、動画に出て、最先端を嗅ぎつける嗅覚を持った箕輪さんが、アナログとも言える「本」にこだわる理由は何なんですか?
箕輪 いろいろやってみて感じるのは、本は読ませるまでが大変だけど、読んでもらいさえすれば、読者にとってめちゃくちゃ能動的な体験なので、やはり圧倒的な力があるんですよ。テレビで見たことよりも、はるかに頭に残るし。
井上 テレビで流れている内容って、けっこうすぐに忘れてしまいますものね。本はやりようによっては、経典になれる。
箕輪 まさにそう。テレビは一気に数千万人にアプローチできるけど、能動的に何かをやらせる力は低い。本のほうが没入させやすい。言い方は悪いけれど、洗脳してしまう面はあると思うんですよ。
井上 それを率直に言っちゃうのが箕輪さんらしいですね(笑)。
箕輪 だって、「〇〇という本で人生変わりました」という人はいるけど、「誰々の動画に影響を受けました」「〇〇というネットの記事で人生変わりました」なんて人、まずいないじゃない? 
僕は紙の本は愛着が湧くみたいなノスタルジーは嫌い。でも、やっぱり本は、それをきっかけにコミュニケーションの起点になれるコンテンツで、ポジティブな熱狂を生み出しやすいんですよ。だからコミュニティの中心であり、行動の起点になる。
井上 なるほど。
箕輪 あと、この時代だからこそ僕は起業家の本を多く作ってるんだと思います。これが10年前であれば、僕はタレントやアーティストや芸人さんの本をがんがん作っていたと思うんですよ。でも今は、タレントやアーティストや芸人さんより起業家が言う言葉のほうが刺さる。
もちろん、エンタメや音楽や笑いにも全世界を変える力はあると思うけど、今の世代にとってはロックアーティストが「世界を変えてやる」って叫ぶよりも、前田裕二とか落合陽一が「新しいサービスを作って世界を変えたいと思ってます」と言ったほうが、圧倒的にリアリティがあるんですよね。
だから、ここに才能が集まってきている。さっきも言ったように僕はただ個体としての才能に興味があっただけで、ビジネス書と呼ばれるものを作っているのは今ここに才能が集まってきているからだけですね。
井上 すごくよくわかります。
箕輪 結局、本を作ってるつもりはないんですよね。シーンを作れればなと思っています。
宇野常寛さんがよく、ホリエモンの『多動力』について、「これはそもそも、こんな本読んでいないで動けというメッセージなのに、この手の本を読むことを習慣化する人を大勢生み出してしまったのはおもしろい現象だ」と皮肉を込めて言っているんですけど、これは僕もまったく同感で。
だから、本を入口にして、その本に共感した人が動くコミュニティを作らないと意味がない。本が単なる情報で思ってしまう。でも、ここでもまだ第2段階。
オンラインサロンのようなコミュニティにいることに満足せず、そこから継続的に事業やプロジェクトがどんどん生まれる第3段階にまで僕は持っていきたい。それを日夜、箕輪編集室などのコミュニティで試行錯誤しています。
井上 「読むだけだと意味がない」というのが、箕輪さんの一貫したメッセージですよね。
箕輪 『メモの魔力』にしても30万部売れてますけど、だったら文房具屋でメモが同じくらい売れてなかったらウソになっちゃうじゃないですか。「メモの本読んだ!」じゃなくて、「メモで人生変わった!」というところまで持っていきたい。
だから本を作るにしても、出口まで設計して僕はやっています。評論家気取りになるのではなく、明日から動けるような。

「売れるから」に回収されない出版を

井上 せっかくなので、箕輪さんの嗅覚が最近何を感じ取っているかも聞いてみていいですか?
箕輪 直感的な話なんですけど、最近は、もう「ビジネス」そのものがオワコンになってる気がするんですよね。すべてのビジネスがってわけじゃなくて、ビジネスとして語れてしまうもの自体に魅力がなくなってきているというか。
ビジネスじゃなくてアートだ、みたいなよくある話もその流れの一つですが、論理より直感というムードがいよいよ一般化され始めてきたなと。役立つもののオワコン化というか。
井上 ああ、少しだけわかる気がします。ビジネスよりアート、あるいは論理より直感の時代だ、というビジネス書も多く出てますけど、僕は「客観」が終わって「主観」の時代が来ているように思います。客観というよりは、「説明可能性」というほうが正確かもしれないですけど。
箕輪 ある種、機械的に、客観的に語れるものに、熱は生じないですよね。
この間、ムカついたのが、10代の死因1位が自殺だというツイートがあったので、僕が「衝撃」と添えてリツイートした時。1人のユーザーから、「自分は『FACTFULNESS』を読んでいるから、実は事故が減っただけかもしれないし、昔との比較がないから自殺が増えているとも言い難い」なんてリプが飛んできたんです。
言っていること自体はその通りなんだけど、お前はなんだ?と。事実を正確に捉えようというのはその通りだけれど、賢いコメントをする自分に酔っても仕方なくて。そこで自分で数字を調べるまでするならともかく、『FACTFULNESS』を読んでいるから僕は騙されませんみたいに評論家気分で頭でっかちになってしまうのはどうなのかなって。
井上 ああ、それはたしかに頭でっかちですね(笑)。だから僕は、主観の明確な出版をやりたかったんです。「売れるから」という説明可能性だけに回収しきれない本を出し続ける出版社。それは僕個人の思いであると同時に、今の出版業界に致命的に不足しているものだと思うんです。
箕輪 当たり前ですけど、主観がなければ読者はついてこないですよね。僕も自分の主観でしか本を編集できないです。
井上 箕輪さんのように、もっと編集者の主観が前に出た本が増えたらいいと思います。主観がなければ、読者から見たときに全員横並びでのスタートになって、「0.1秒の奪い合い」に巻き込まれてしまいますから。
箕輪さんと僕は近しいところもあればベクトルが違うところもある。でも主観ですから違って当然ですし、違うからこそ、いいライバルになれるんじゃないかという気がしています。
箕輪 井上さんは健全な熱さがある人だから期待しています。僕はもう辞めたいと思っていたけれど、気を改めてさっき言った、第3段階に挑戦しようと思っています。
本を出した、売れた、儲かった、だけではなく、NewsPicks Bookの読者が実際に世の中を変え始める。そこにフルコミットしていきます。
正直少し疲れていたけれど、そう意味では、今回こうしてそれぞれがNewsPicksのレーベルを回していくことになったのは、よかった。読者に対して2つのルートあるからこそ、僕が絶対に出さないような本を出していただけるだろうし、お互い何も気負わずにお互いやっていける。
NewsPicksBookが2年間で作ってきたブランドは来年から僕自身が完全破壊するので楽しみにしてください。一緒におもしろい時代を作っていきましょう。でもビジネスとして成立させつつ毎月ずっと本を出すのは本当にしんどいから、つらくなったら飲みに行こう(笑)!
井上 ぜひ、行きましょう!
(編集:中島洋一、構成:友清哲、撮影:吉田和生、デザイン:櫻田潤)
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