【佐々木紀彦】出版事業スタートに込めた思い

2019/4/1

本というライフワーク

テレビ、ラジオ、映画、新聞、雑誌、ウェブ、本――数あるメディアの中で、みなさんはどれがいちばん好きでしょうか?
私の答えは、本です。
私にとって本とは、人生の友であり、師であり、恋人です。
少年時代から本を読み漁り、大学の4年間はまさに本三昧。社会人になってからも暇があれば本屋に通い、留学時代には図書館に通い詰めました。人生の節目節目において、つねに本が隣にいてくれました。
私自身が、本への並々ならぬ愛に気づいたのは、就職活動のときです。
一度は金融業界に進むことを決めたのですが、インターンをしてみるとどうも性に合わず、就職浪人となることを決断。学生でも、社会人でもない、空白の半年間を過ごしました。
その半年間、かつてないほど本に没頭し、「人生とは何か」「仕事とは何か」「自分とは何か」を頭が擦り切れるほど考えました。
そして行きついたのが、「そんなに本が好きなら、本の仕事をすればいいのではないか」という単純な結論だったのです。
そうして私は「本をライフワークにする」と決めました。
2年目の就職活動では出版社を受け、志望理由に「歴史に残るような本を創りたい」と記したことを今も鮮明に覚えています。
その後、運良く東洋経済新報社に拾ってもらったのですが、自身に与えられたのは経済記者の仕事でした。
それから約15年間、メディアの世界に身を置いていますが、ついぞ今日まで、本に直接関わることはありませんでした。
筆者として3冊の本を書く機会に恵まれましたが、「歴史に残るような本を創りたい」という思いは今なお果たせぬままです。

出版事業を始める3つの理由

「すでにNewsPicks Bookで本に関わっているのではないか?」
そう不思議に感じる方も多いかと思います。
「NewsPicks Book」は累計100万部を超すセールスを記録するなど、多くの方々に読んでいただくことができました。
これはひとえに、編集長の箕輪厚介さん、幻冬舎のみなさま、制作・流通・販売に関わってくださったみなさま、そして何より、読者のみなさまのおかげです。
今後も、幻冬舎とのパートナーシップの下、「NewsPicks Book」を継続しますが、それとは別の新レーベルを立ち上げることを決めました。単独の出版社として、本の制作から流通・販売まで自社として責任を持って行います。
これは簡単な決断ではありませんでした。
「今の時代に出版社を始めるのは無謀ではないか」「コンテンツ制作だけに関われれば十分ではないか」「在庫リスクを負うのは危険ではないか」など、さまざまな意見がありました。
それでも出版事業を始めるのには、3つの理由があります。
一つ目は、本の持つポテンシャルの大きさです。
今なお、本には絶大な「知的インパクト」がありますし、ビジネス面でも未開拓の可能性があります。
今後、新聞、雑誌などの紙メディアは衰退せざるを得ませんが、本の価値はスマホ時代も色あせません。詳細はこちらの記事に記しましたが、「スマホ×本」が最強のメディアであると私は確信しています。
二つ目は、デジタルネイティブのNewsPicksだからこそ創れる「本の生態系」があり得るのではないかと考えたからです。
先人が創り上げた今のシステムは、本当によくできています。
全国津々浦々に書店があり、効率的に書籍や雑誌が届けられていく。毎日、平均200冊もの新刊が生み出されていく。これほど本が日常に溶け込んだ国はなかなかありません。
しかし、その完成度の高いシステムにも綻びが見えてきています。今のままでは、良書が読者に届けられていくサイクルが衰えていくでしょう。アマゾンだけでは、知のセレンディピティを演出することはできません。
本づくりに最も大切なのは「本の中身」ですが、本との出会い方、本の売り方、本の楽しみ方という点でも、何か工夫できることがあるはずです。
われわれは出版界の新参者ですが、新参者なりの角度から「本の生態系」をアップデートすることによって、本の世界に少しでも貢献したいと思っています。
最後の理由は、2人の戦友を見つけたからです。
私自身、「本に対する情熱では負けない」と自負していたのですが、白旗を上げざるを得ない2人に出会いました。
新レーベルの編集長を務める井上慎平さんと、副編集長を務める富川直泰さんです。
2人は私の尊敬する腕利きの編集者ですが、コンテンツ創りを超えた、出版全体に対する問題意識を強く持っています。
私が出版事業を始めるか迷いを見せたときにも、2人はまったくブレませんでした。
その姿を見て、「私1人では無力でも、この2人なら何か面白いことをやってくれそうだ」と勇気づけられました。

最初の本は9月(目標)

長々と偉そうなことを述べてきましたが、まだ出版事業を始めると決めたばかりで、出版社の体裁は整っていません。起業1日目のようなもので、営業メンバーも絶賛募集中です
これから猛スピードで出版事業をゼロから築き上げ、最初の本を9月にお届けすることを目標にしています。
新レーベル始動後は毎月1冊の本を出版し、アカデミア会員のみなさまには、「NewsPicks Book」か新レーベルの本か、どちらかを選んでいただく形になります。
「NewsPicksが新レーベルを立ち上げてよかった。本の世界が面白くなった」。
そう多くの方々に思っていただけるよう、今日から早速、「出版のアップデート」に向けた第一歩を踏み出したいと思います。