【DiDi上陸】ユーザー5.5億人の配車アプリが本気で日本を狙う理由

2019/3/29
中国発のタクシー配車サービス滴滴出行(以下DiDi)が昨年9月に大阪から日本進出を開始した。タクシーに「乗りたい人」と「乗せたいドライバー」をマッチングし、配車から決済までをアプリ上で完結させるDiDi。

中国語圏を中心に全世界で5.5億人のユーザー数を誇る同サービスは、日本のタクシーを次世代交通インフラの一部としてアップデートしようとしている。

ソフトバンクと共同で立ち上げた、DiDiモビリティジャパンの林励(リン・リ)取締役副社長と、菅野圭吾取締役副社長に、同社の強みと日本での今後の展開について聞いた。
DiDiなら5分以内に乗れる
── 昨年の9月から大阪でサービスを始め、東京へも進出予定ですね。大阪での反響はどうですか。
菅野 大きな手応えを感じています。大阪で現在DiDiを利用しているタクシーは、2000台以上。サービス開始の昨年9月から2倍に増えました。
 さらに自社の調査では、注文確定後、平均5分以内にお客様がタクシーに乗れているという結果も出ています。ブランド認知度も20%まで伸び、良いスタートが切れたと思っています。
 大阪でDiDiが受け入れられている理由には、二つの面があると思っています。一つはタクシー会社と密接なパートナーシップを築けていること。市場全体を伸ばしていくためには、どのようなサービスにするのが最適なのか、タクシー会社と話し合いを続けてきました。
 タクシー業界は従来、勘や経験が物を言うとされてきた業界です。しかしDiDiを使うことで、新人ドライバーでもすぐにお客様を見つけられて、売り上げを伸ばせる。その効果を実感していただけているのだと思います。
 高齢のドライバーの方も使いやすいよう、UIを徹底してシンプルにしたり、事務所にお伺いして、タブレットの使い方の研修を行ったりしています。
2008年のiPhone日本初上陸からソフトバンクのモバイル事業のプロダクト、料金、サービスを統括。現在はソフトバンク株式会社常務執行役員 兼 DiDiモビリティジャパン取締役副社長。
 もう一つの面は、「タクシーに乗る」という需要自体を、創り出せているということ。というのも、今までタクシーが移動手段の選択肢になかった人が、DiDiをきっかけにタクシーを利用し始めているのです。
 私たちの調査でも、DiDiユーザーの半数以上が30代以下と、特に若い人たちがタクシーをより頻繁に使うようになったことが分かっています。
 インバウンドの需要を掘り起こせることも大きいでしょう。中国でDiDiを使っている方が日本に来ると、クーポンをお届けするようにしています。そして何の設定変更もなしに、日本でもそのままアプリを使うことができる。
 目的地を入力してしまえば、慣れない日本語でドライバーとやり取りする必要もありません。もし必要となれば、中国語と日本語の翻訳機能つきチャットで簡単に連絡することも可能。さらにWeChat PayやAlipayで支払うこともできるので、日本円を持っていなくてもタクシーに乗れるのです。
 ソフトバンクが日本国内の需要を、そしてDiDiが海外からの需要を創出する。2社の協力が為せる業だと思っています。
── DiDiは中国からスタートし、世界でサービスを展開していますね。各国でタクシー事情はかなり異なるものでしょうか。
 はい、大きな違いがあります。そもそもDiDiは、オンラインとオフラインを貫通するビジネスです。GoogleやFacebookなど、オンライン上で完結するサービスとは異なり、新たな市場を開拓する時はその都度、現地の文化や習慣を知り、ローカライズする必要があるのです。
Uber、Morgan Stanleyにて、経営管理、事業開発、マーケティングなどを経験。現在はDidi Chuxing北アジア担当ジェネラルマネージャー 兼 DiDiモビリティジャパン取締役副社長。
 日本の例で言えば、まずはタクシーの業態自体が、今まで展開してきた国とは大きく異なります。中国や米国では個人営業のタクシーが多い一方で、日本ではタクシーは企業が運営している場合が多い。
 サービスを展開するためにはまず、日本のタクシー会社を深く理解し、関係を築く必要がありました。
 二つ目の違いは、日本ではタクシーの配車サービスの伸び代が、かなり残っているということです。中国を含め多くの国ではすでに配車サービスの市場が成熟しつつあり、都市部では厳しい競争を強いられています。
 その点、日本はこれから市場を切り開いていく段階。DiDiは日本に今までなかった移動体験を提供していけると思っています。
 三つ目の違いは、タクシーのサービスの質です。中国や他の東南アジアの国々ではドライバーの質を高めることに悩まされていますが、日本ではすでに安全性もホスピタリティも高い。
 日本が誇る質の高いサービスと、DiDiが誇る最先端のテクノロジーを組み合わせれば、非常にユニークな取り組みになるのではないかと、私たちも日本の市場に大きく期待しているところです。
5000人のエンジニアが日本版を進化させる
── そもそもDiDiは、中国でどのようにサービスを進化させてきたのでしょうか。
 DiDiは、2012年に中国のタクシー配車アプリとしてスタートしました。今ではユーザー数は5.5億人で、パートナーシップを含め世界1000都市でサービスを展開しています。
 中国ではタクシーの領域にとどまらず、交通プラットフォーマーとして、オンデマンドのバスサービスである「DiDi bus」や、政府と協力したスマートシティの計画も進めています。
菅野 私はソフトバンクのモバイル事業のマーケティングも担当しているのですが、モバイル事業とともに成長できる新しいビジネスを、メンバーと議論し続けてきました。様々な領域を検討するなかで大きな可能性を感じたのが、「移動プラットフォーム」です。
 海外へ行った際に同様のアプリを使い、「こんな素晴らしいサービスが日本にないのはなぜだろう」と感じたことも、きっかけの一つです。ユーザーとして素直に、「日本人にも体験してほしい」と強く思ったのです。
 日本の移動をアップデートすることは、ユーザーにとっても、業界にとっても価値がある。ちょうどソフトバンクグループが、DiDi、Uber、Grabなどのモビリティ関連の会社に投資していたことも、重なりましたね。
── 海外ほど普及していないかもしれませんが、日本にも類似のサービスがあります。DiDiにはどんな優位性があると考えていますか。
 AI、ビッグデータ、アルゴリズムといった、基本的なテクノロジーが強みです。DiDiには5000人のエンジニアが在籍しており、日々サービスを改善しています。
 だからこそスピーディーにお客様やドライバーからの要望を反映することができますし、精度の高いマッチングが可能になっていると思います。
菅野 サービス改善のスピードには自信があります。大阪でサービスを開始してから、お客様、タクシー会社の意見をもとに、アプリを3ヶ月間で60ヶ所以上も改善しているんですよ。これが世界共通の改修ではなく、日本に特化した改修であることもポイントです。
── 中国市場では、すでに膨大な走行データが集まっています。これらは日本でも活用できるのでしょうか。
 タクシー利用の事情は国によって異なるので、中国の膨大な利用データがそのまま使えるわけではありません。我々が活用するのは、中国でこれまで培った経験とノウハウです。
 データを処理する方法やシステムは、日本も中国もある程度共通しています。これがベースとなり、日本で集めたデータを使って、より日本にローカライズした機能を設計していくのです。
 たとえるならば、共通のレシピをアレンジしながら、現地の素材を使ってさらに美味しい料理を提供する、というイメージでしょうか。
菅野 中国のアプリに実装されていて、今後日本のサービスに追加される予定の機能もあります。例えば、ドライバー向けの「Go Home機能」。タクシーが事務所に帰るルート上でのみ、お客様からの注文を受けられる機能です。
 よく「回送」と表示されていて、乗車できないタクシーを見かけると思いますが、あの状態でも効率よく利益を出せるようになるというわけです。
 お客様を乗せている間に、次の注文を受けられる機能も中国では実装済みです。乗車中であっても、到着時刻は大体予想がつきますよね。そこでお客様が降りた後、すぐに次のお客様を乗せられるように、DiDiが配車を最適化します。
 こういったサービスは、事前に行き先を伝えた上で配車を行うアプリだからこそできることです。
「移動プラットフォーム」の改革に挑む
── DiDiは日本の交通を、どのように変えていけると思いますか。
菅野 いま目指しているのは、タクシーという交通の改革を進めること。ドライバーと乗客の両者にとって、タクシーをもっと効率的で便利な移動手段にしていきたいのです。
 日本のタクシーの実車率は、40%と言われています。60%が「空」の状態で走っているという、非常に効率の悪い状態です。まずはこの状況を変えたい。
 お客様側も、DiDiを使うようになれば、時間の使い方がずいぶん変わってくると思います。今までは寒くても路上に出て、来るかも分からないタクシーを待たなければいけなかった。
 でもDiDiを使えば仕事をしながらタクシーを呼べて、時間のロスなしで乗れるようになります。
 DiDiを使ってもらうことで、配車アプリを使う習慣はもちろん、日本のオンライン決済の普及にも貢献していけると思っています。
 タクシー配車アプリもスマホ決済も、日本は中国に比べたら、まだあまり広まっていませんよね。理由としてはおそらく、日本には非常に発達した交通インフラや信頼できる決済方法が、すでに浸透していたことが挙げられるのではないでしょうか。
 交通や決済などすでにあるインフラに、新しいテクノロジーを浸透させるには、実際にそのテクノロジーを使う場面や、便利だと感じる経験を提供することが重要です。
 DiDiはタクシーを通して、スマホ決済を含めた、移動体験全てが便利な世界を日本でも提供していけると考えています。
菅野 私たちの一番の挑戦は、「新しいものを受け入れる文化をつくれるか」ということなのかもしれません。私たちがスマホを使い始めたのは約10年前ですが、その頃から、スマホがここまで普及すると予想できていた人は少ないのではないでしょうか。
 DiDiも同じく、移動という体験をガラッと変えられるサービスだと思っています。ライフスタイルを変えるのは困難ですし、時間がかかるもの。でも変化の先には、全く違う世界がやってくるのです。
 高齢化などの社会課題を踏まえると、これからの移動プラットフォームは玄関から行き先までをドアtoドアで結ぶようなものになるはずです。
 これを実現するのが我々の役目だと思いますし、今からその世界がやってくるのをとても楽しみにしています。
(編集・執筆:金井明日香 撮影:後藤渉 デザイン:國弘朋佳)