【猪瀬直樹】五輪最終プレゼンは震災から2020への物語構造  

2019/4/20

チームニッポンで物語を語る

アルゼンチンのブエノスアイレスは地球の裏側である。もし東京で井戸を真っ直ぐ掘り進めればブエノスアイレスに到達するはずだ。
ニューヨークまで12時間、そこからさらに12時間の行程である。何でそんな話をするかというと、宮内庁のコントロールが利かないぐらいの距離がよかった。
宮内庁は高円宮妃殿下に晩餐会の出席などの活動は想定していたが、最終プレゼンでは登壇させないつもりでいた。争いごとに巻き込まれてはならないと思っている。
しかし、そういうわけにはいかない。IOC委員にはロイヤルファミリーに対する特別な畏敬の念があるのだから。
いよいよプレゼンで「チームニッポン」の出番となった。
トップバッターは高円宮妃殿下である。登壇すると会場は厳粛な雰囲気につつまれた。 「世界の皆さま、東日本大震災へのご支援をありがとうございます」
フランス語で始まった。妃殿下の流暢なフランス語、発音がきれいだ。近代五輪の創始者クーベルタン男爵はフランス人だった。IOC本部のローザンヌはスイスのなかのフランス語圏にある。五輪の第1公用語はフランス語で、英語は第2公用語なのである。
高円宮妃殿下のプレゼンは、オリンピックのオの字も言っていない。だから登壇はしたけれど宮内庁との約束は破ったことにはならない。