【前刀禎明】チャンスとリスクの“兆し”を知るために、感性を鍛えよ

2019/4/8
「働き方改革」という大号令のもと、日本ではワーキングスタイルの変容が進行中だ。だが、本来の働き方改革は、行政や企業の枠組みに従うだけではなく、旧来の固定観念を打ち崩し、自分自身をアップデートしていくことだ。

そんななか、「創造的に働くことの重要性」を発信しているのが元・アップル日本法人代表であり、現在はリアルディア代表取締役社長を務める前刀禎明氏だ。これまで様々な企業で高い実績を生み出してきた前刀氏が考える、創造的知性「クリエイティブインテリジェンス」とは何か。ビジネスにおいて“心”を磨くことの重要性をひもとく。

クリエイティブインテリジェンスという思考法

僕は、よく人に「いつも楽しそうですよね?」と言われます(笑)。
人は特別な経験をしないと楽しくないと思うかもしれないけど、本当にちょっとしたことでも僕は楽しめるんですよ。
なぜ楽しめるのかというと、仕事でも日常でも、あらゆるものに「何で?」と疑問を抱いたり、興味を持つから。好奇心が旺盛なタイプで、ささいなことでも想像が膨らむのです。
重要なのが「何で?」と感じた時に、すぐにスマホやPCで検索しないこと。検索による情報蓄積も良いのですが、まず最初に自分で妄想してみる。
なぜなら「何でだろう?」と思うことへの解が、スマホの中にないことがあるから。となると、自分自身で想像するしかありません。
想像する力が養われれば、様々な情報を頭の中で結び付けて、瞬時にアウトプットできる力を持てるようになる。それを可能にするのが「クリエイティブインテリジェンス」、つまり創造的知性です。
これは5つの力で構成されており、1つは物事を先入観なく見る「観察力」。観察することで生まれた発見に基づいて、いろいろな可能性を自問し、今度は仮説を立てる。それが観察力の次にある「質問力」です。
次に、思い付いたことをやってみる「実験力」があります。実験してみると「思っていた結果とは、全然違う結果になった」という新たな発見が生まれる。
その上で、今度は自分とは違う価値観や考えを持った人と相談をすると、また別の視点が出てくる。これが4つ目の「相談力」です。
最後に自分でよく観察して、見て、考えた仮説と実行した結果、相談して得たフィードバックを全て関連付けていく。この5つ目の「関連力」が最も重要で、結び付けることができると、ひらめきや、直感という形でアウトプットできるようになります。
この力を得るためには、様々な手段がありますが、私は“引き出しを半分開ける”方法をオススメしています。
よく、“頭の中に引き出しの数が多い”と言いますが、多くてもキレイに整理整頓して閉めてしまうとダメです。
引き出しは、半分は開けておいた方がいい。すると何が入っているのかが見て分かる。だから、結び付けやすくなるのです。

“五感”を磨いてチャンスの兆しをつかむ

近年のビジネスシーンでは、問題解決力以上に、知覚力や問題発見力が重要だと言われています。ビジネスの世界は、複雑な情報がすごい速さで流れている。
そのような世界では、問題解決力だけで判断していくことが困難です。
では、知覚力や問題発見力を身につけるには何が必要なのか。僕は感性、つまり“五感”を磨くことが必要だと考えています。
“五感”を研ぎ澄ませると、社会が変容する“兆し”を捉えることができる。良い兆しと、悪い兆しを察知することは、ビジネスにおいてとても大切なことです。
それは、チャンスもリスクも、人が気づかないほんのちょっとした兆しに現れるから。日々のビジネスシーンでも、兆しの察知を要求される場面があります。例えば、交渉やプレゼンテーション、それこそこのような取材の場もそうですよね(笑)。
では、五感を鍛えるにはどうすればいいのかというと、一番僕が簡単だと考えているのは「食べること」を意識すること。五感を全て使い切る人間の行為は、実は「食」しかないんです。
まず、視覚で「おいしそう」と思い、嗅覚で「良い匂いがする」と感じる。料理をつまんだり、刺したりして覚える触覚、そのとき発生する音で聴覚に刺激が伝わる。
そして、口に入れて初めて味覚が機能します。さらに、舌触りで触覚、鼻腔に抜ける匂いで嗅覚、咀嚼(そしゃく)音で聴覚の刺激も感じとることができる。
食前から食後まで、五感をフルに使い切り、感覚を研ぎ澄ませる力を養うのです。

ビジネスウェアの固定観念を捨てよ

ファッションも、感性を磨く一つの手法といえますね。けれど、ビジネスシーンにおけるファッションは、固定観念が強いですよね。
例えば、クールビズといえば、代表的なスタイルはノーネクタイですが、世の「おじさん」たちのネクタイ外しは本当に格好が悪い。正直なところ、単にだらしがないだけに見えることもあります。
ノーネクタイであればポケットチーフをするとか、何かしらコーディネートした形であるべきですよね。
最近では、スタートアップ企業など、ビジネスシーンでTシャツにデニムといったスタイルが見られますが、IT系やクリエイティブ系だからラフな格好をしても許される、というイメージが定着している。
固定観念を捨て、自分自身で最適な格好を考えること。その前提を意識することで、初めて自分のスタイルを作れるはずです。
また、自分自身のパフォーマンスを高めるという点でも、ファッションは重要なツールになり得ます。
そういった意味では、今回着用した「ポール・スチュアート」の「スチュアーツ トラベラー」は、カチッとした印象もあるのに、リラックスさせてくれるスーツ。
出張などであれば、機内ではリラックスできて、飛行機から降りたらすぐビジネスモードになれる。着心地の良さもありつつ、自分の気持ちも引き締めてくれるので、いいとこ取りの組み合わせと言えますね。

ビジネスにおける“質感”とは何か

スーツを着用したときの質感も重要ですね。なぜなら、人はパッと相手を見た時、無意識のうちに質感を感じ取るからです。
良い質感とは、単純に細部にこだわったものに生まれるのではなく、全てに手を抜かず、妥協せずに作り上げられたものに宿ると考えています。
ものづくりの話だけではなくて、ビジネスシーンでも良い質感は求められます。個人タスクでも、コミュニケーションでも、手抜きをすれば、相手に訴える力もなくなるし、自分の満足度も低くなる。
感性や五感を高めることで、質感のようなテキスト情報などでは表現できない感覚を認知できるようになるのです。
であれば、顕在化している情報がなくても、創造力を発揮することで、ビジネスや日々の生活において、問題を知覚し、より良い判断ができると思うんです。
前刀さん着用スーツ:ジャケット¥53,000、ベスト¥33,000、トラウザーズ¥29,000、シャツ¥19,000、チーフ¥4,000、ネクタイ¥15,000、べルト¥15,000 / すべてポール・スチュアート(価格は全て税抜き)

三陽商会がビジネスパーソンの「働き方改革」を後押しする

近年「働き方改革」によって、ビジネスパーソンの「働く」における構造が変化している。働く場所の自由、副業の解禁、ビジネスウェアの多様化……。
多様な価値観が生まれ、仕事と私生活がシームレスになっていくことで、ビジネスパーソンのたたずまいも、「スーツ」と「カジュアルウェア」というように、セパレートされたものではなくなりつつある。
今求められているのは、“TPOレス”な機能性ビジネスウェアだ。

「マッキントッシュ ロンドン」「マッキントッシュ フィロソフィー」「エポカ ウォモ」「ポール・スチュアート」など、多くの紳士ブランドを擁する三陽商会は、そんな現代を生きるビジネスパーソンの背中を後押しする「WORK STYLE REFORM」キャンペーンを実施している。
(執筆・編集:黒澤祐美、海達亮弥 撮影:福岡秀敏 スタイリング:杉本学子 ヘアメイク:Kazuki Fujiwara デザイン:田中貴美恵)