【真相】なぜ現役ドラフトを提案するのか。交渉は「一歩前進」

2019/3/26
プロ野球では、年俸1億円を稼げば「一流の証し」と言われる。
3月29日に開幕する新シーズンに向け、大台が見えている大器が日本ハムの28歳、大田泰示だ。
年俸は2017年の2100万円から2018年には4300万円に倍増し、今年は6500万円(いずれも推定)。右肩上がりの成長曲線を歩み始めたきっかけは、2016年オフのトレードだった。
2008年ドラフト1位で東海大相模高校から巨人に入団し、松井秀喜の背番号55を受け継いだ主砲候補は8年間、期待されたような活躍を見せることはできなかった。それが日本ハムに移籍すると覚醒し、2017年から2年続けて2桁本塁打を記録したのだ。
なぜ、大田は新天地で目覚めることができたのか。スポーツジャーナリストの氏原英明氏が以前、NewsPicksで大田の言葉を紹介している。
「僕自身の考え方がファイターズに来て変わったわけではないんです。ジャイアンツのときも考えてやっていました。ただ、正しい努力と無駄な努力があって、それが今はいい方向に行きだしているのかなと思います」
「ジャイアンツでは、やっているメンバーやコーチ陣が代わらなかった。8年間やってきたメンバーなので、新鮮なものが自分の中になかった。ファイターズに来て新鮮な知識が自分の中に疑いもなく入ってくるので、それが良かったのかなと思います」
巨人と日本ハムの比較で見える、“人が育つ”組織論
ビジネスパーソンがキャリアに行き詰まった場合、転職して環境を変えるのも一手だろう。上司や同僚などとの新たな出会いが、飛躍のきっかけになるかもしれない。
対してプロ野球選手はフリーエージェント(FA)権を行使できる一流選手を除き、自ら所属チームを替えることはほぼ不可能だ。ゆえにかつての大田のように、埋もれた才能が五万といる。
そこでプロ野球選手たちは、新たな選択肢を求めて動き始めた。現役ドラフトの導入だ。

「保険」で置かれる選手たち

「現役ドラフトは、『競争』とは別の問題だと考えています」
プロ野球選手会の顧問弁護士を務める松本泰介氏は、現役ドラフトを提案する背景についてそう語った。
プロ野球は競争社会で、本来、活躍する場所は自ら勝ち取るべきものだが、チーム事情で十分なチャンスを与えられない者も数多くいる。プロ野球選手会のアンケートに回答した683人の選手のうち、95%にあたる649人が現役ドラフトに「期待する」と答えたのは、そうした事情をよく理解しているからだろう。
松本弁護士が説明する。
「球団として年間143試合戦うために、どうしてもケガ人が出たときのために“置いておく選手”がいるんです。そういう選手を他の球団のスカウトは欲しいと言っているから、だったら動かしたほうがいいというのが今回の話です。せっかくプロ野球選手になったのに、『自分は活躍するために使われるのではなく、誰かのケガの保障のためだけに置かれている』と感じさせるような働かせ方をなくそうと、現役ドラフトを作ろうとなりました」