「Apple as a Service」の時代がやってくる

2019/3/25

ハードからサービスへ

「ティム・クックが新製品発表会の基調講演で、すべてを包含するシンプルな『サブスクリプション・プラン』を発表したらどうなるだろう」
今から約1年前のこと、ベストセラー書籍となった「Subscribed(邦題:サブスクリプション)」の中で、著者のティエン・ツォ氏はこう大胆な投げ掛けをしていた。
ご存知の通り、ティム・クックとはアップルのCEOだ。
この10年以上にわたり革新的なデバイスを世に届けてきたアップルだが、今やスマホの戦場は、契約者の奪い合いではなく、ユーザー・マネタイズへと移行している。
アップルといえども、季節性の高いハードウェア事業に依存するのは得策ではなく、成長が予測できる「サブスクリプション・サービス」へと移行すべきではないかーー。
そんな視点の下で、ツォ氏は、アップルがハードウェアのアップグレードから、音楽や動画のコンテンツ、ゲーム、プロバイダの利用料までをパッケージした「サブスクリプション企業」へ向かう道筋を提示したのだ。
名付けて「Apple as a service(サービスとしてのアップル)」だ。
【完全図解】アップル、サブスク化のすべて
これはもはや荒唐無稽な未来予測ではない。
2018年末からiPhoneの販売不振が大々的に報道され、「アップル・ショック」とも騒がれる中で、ティム・クック自身の口から「サービス化」、「サブスクリプション」という文言が幾度にもわたって発されるようになっているのだ。

サブスク界本格参戦へ

3月25日(日本時間26日未明)、アップルは新サービスとして、動画とニュース、ゲームのサブスクリプションを発表した。動画に関しては、Netflixのような「オリジナル動画」へと参入していくこともクック自身が明らかにしていた。
まさに、戦国時代のサブスクリプション界に満を持して本格参入した。
「これは予測通りの動きです。書籍を執筆したのは1年以上前になりますが、私はずっと、アップルは『プロダクト企業』ではないと感じていました。かつてApple IDを発表し、すべてのサービスにIDを紐付けるようになってから、サブスク化への道のりをゆっくりではありますが、確かに進めてきたのです」
【3分図解】アップル参入。沸騰する「動画サブスク」の全貌
ツォ氏は、NewsPicks編集部への取材にこう答えている。
テクノロジーの進化は「所有の時代の終わり」をもたらしており、今後は月額料金を払えば、アップルが最適なハードウェアのアップグレードまでするようになっていく、とツォ氏は強調する。
「アップルは昨年からiPhoneの出荷台数を公表しなくなりましたが、それはサービス化していく彼らにとって台数が重要でなくなったからです」(ツォ氏)
今やテクノロジー企業を見渡しても、サブスクリプションで成功した企業の株価が著しく上がっているのは、紛れもない事実だ。「ウォールストリートはサブスクリプションを愛しています」とツォ氏も指摘する。
そして、アップルもこの流れへと足を踏み入れたのは間違いない。
「今、彼らが公表すべきなのは、IDの数であり、1ID当たりの売り上げです。その数字の方が今後、投資家にとっても大きな意味を持つようになるでしょう」

新時代の最先端ビジネスモデル

この数年、サブスクリプションは大きなうねりを起こしつつある。
長い停滞から抜け出し、世界の時価総額トップへと一時返り咲いたマイクロソフトが好事例の一つだし、GAFAでもアマゾンが「プライム」や、グーグルの「G Suite」がまさにそれに当たるだろう。
【独占】『GAFA』著者が語る、時代を制するビジネスモデル
だが、アップルのように、ハードウェア企業を中心に成長してきた企業が完全なるサブスクリプション化を果たしたケースはほとんどない。
本日から7日間にわたってお届けする大特集「サブスクリプション企業・アップル」では、アップルの近年の「サブスク化」の流れをたどり、26日未明の新発表も含め、サブスクリプション・エコノミーの最前線をお届けしていく。
まず第一回は、アップルの「サブスク化」への道のりを完全図解でお届けする
アップルのサービス事業は、何も急に始まったわけではなく、ツォ氏の指摘するように2001年のiTunesの開始から、iPhoneの普及とともに登場したAppStoreの隆盛など、今振り返ると、大きな一つの道筋をたどっている。
故スティーブ・ジョブズをはじめ、アップルのサービス事業へ携わった人々たちの変遷に加えて、最先端の取り組みをもビジュアルでお届けする。
【完全図解】アップル、サブスク化のすべて
第2回では、25日の発表で参入が見込まれている動画サブスクリプション分野の最先端動向を図解していく。
ご存知の通り、動画ストリーミングの分野は王者Netflixに加え、アマゾンの「プライム・ビデオ」にHulu、さらにはディズニーが参入を明言するなど、戦国時代の様相を呈している。
そこでアップルがどう生き抜いていくのか。最新の発表とともにレポートする。
【3分図解】アップル参入。沸騰する「動画サブスク」の全貌
第3回では、サブスク化の一方でのiPhoneの現状をお伝えする。
世界中のスマホ需要が一服し、iPhoneの苦戦も伝えられる中で、モバイルデバイスの世界のテクノロジーやシェア動向はいかに変化しているのか。グラフや先端テクノロジーの図解を含めた解説記事をお届けする。
【明言】「GAFA」の時代は終わり、「あの1社」だけが勝ち残る
第4回では、世界的ベストセラーとなった「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」の著者であるスコット・ギャロウェイ氏へのインタビューを掲載。アップルの最新動向への鋭い分析とともに、「次の時代の覇者」についての詳しい洞察をお届けする。
【独占】『GAFA』著者が語る、時代を制するビジネスモデル
このほか、動画サブスクリプションの王者NetflixのCEOへの直近の取材を基にした最新レポートや、同じくサブスク分野でアップルとガチンコの対決をしているスポティファイの新たな動きなどについても盛り込んでいる。
かつて「モノづくり」で成功を果たしてきた日本の企業にとっても、アップルのサブスクリプション化は、示唆することが多いはずだ。読者の皆様にとって、一つの気づきとなる特集となれば幸いだ。
(執筆:森川潤、デザイン:九喜洋介)