2015年12月に気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定であるパリ協定が締結された。それにより、加盟各国は、温室効果ガスの排出削減目標を維持する義務と、当該削減目標を達成するための国内対策をとる義務を負うこととなった。このようななか、自動車においては、各国の環境・燃費規制が本格化したことにより、従来のガソリンやディーゼルを使う内燃エンジン車から電動車へのシフトが加速している。
過去から自動車の電動化の動きはあった。石油資源問題からの省エネルギーや大気汚染などの環境問題があり、2000年の直前にニッケル水素電池を用いたHEV(ハイブリッド車)が開発されたが、EV(電気自動車)までは電池の性能のため実現しなかった。2010年代に入ると車載用のリチウムイオン電池が登場して状況は一変する。高い電池性能を持つリチウムイオン電池は、HEVはもちろんのことPHEV(プラグインハイブリッド車)や内燃エンジンを用いないEVにも用いられた。これにより各国の厳しい環境・燃費規制をクリアできるようになったのである。
自動車の電動化が進むなかで、とりわけ、車載電池は高い専門性が必要であり、技術力のある電池メーカーは自動車メーカーのパートナーとして、その重要性を益々高めている。
パナソニックは、トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)と2020年末までに車載用角形電池事業に関する合弁会社の設立に合意した。これにより、急激に拡がる電動車需要において、業界No.1の電池を創出し、幅広く自動車メーカーの電動車普及への貢献も果たすことで、電動化分野におけるイニシアチブを目指している。
世界No.1の車載用角形電池の実現を目指すトヨタとの合弁会社と生産プロセスの今後について生産拡大のカギを握るオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 オートモーティブエナジー事業部の宗行 健氏にお話を聞いた。
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社
オートモーティブエナジー事業部 上席主幹 宗行 健氏
1992年松下電器産業に入社。生産技術本部にて電子機器、ディスプレイなどの各種デバイスの生産設備設計を担当。以降、長年に亘り生産技術分野の業務に従事。2013年からモノづくり本部企画グループの責任者を務める。2015年に東南アジア地域のモノづくり強化推進責任者に就任、2016年から二次電池事業部車載グローバルモノづくり戦略担当、2018年より現職。

車載用リチウムイオン電池に求められる特性

―車載用リチウムイオン電池の開発・生産に求められていることは何でしょうか。
第一に「安全・安心」であること。次に「高容量・高出力」であることです。電池の部材はとてもシンプルで数えられる程度しか使いません。電池の性能を調整するには、ケミカルな部分を変えるか、技術的に電池の内部構造を変えていくかになります。それをいかに効率よく生産できるかがポイントになります。
また、自動車そのものの耐久年数が長いため、電池の長寿命や低温などの過酷な使用環境下でも性能が確保できる信頼性も求められます。ただ高容量・高出力と安全は反比例するものです。それでもクルマに搭載する電池ですから万が一の事故も起こしてはいけません。この相反する難しい2つの課題を克服する電池の開発と生産に、日々取り組んでいます。
車載用角形リチウムイオン電池

パナソニックの車載電池事業

― パナソニックの車載電池事業について教えてください。
環境対応車には色々な種類がありますが、マイルドハイブリッド車は、エンジンを主要動力源とし、発進などエンジン駆動時にモーターでアシストするシステムで、電池の電力を使いモーターだけで走る(EVモード)ことはできません。ストロングハイブリッド車は、エンジンを停止した状態でも走行ができるハイブリッドシステムで、エンジンとモーターを使い分けて、おもに効率の良いほうを駆動に用います。そして、EVはエンジンでなく、モーターのみで駆動します。マイルドハイブリッド/ストロングハイブリッドは、高出力タイプの電池、EVは高容量タイプの電池が用いられています。
パナソニックが開発している車載用リチウムイオン電池は、角形と円筒形の2種類あります。円筒形は、米国のカーメーカーにEV用として、角形はEVのほかストロングHEV・PHEVに用いられています。
― エナジ―事業における宗行さんのミッションを教えてください。
現在、パナソニックが取り組んでいる高容量の新型セル開発から生産までのマネージメントを担当しています。また、姫路工場の本年稼働に向けた準備を進めています。
車載用角形リチウムイオン電池は、中国(大連)のほか、国内では兵庫県の加西工場・洲本工場での生産に姫路工場が加わります。姫路工場では、今まで蓄積した知見とスケールメリットを活かした設備投資をしていく予定です。
姫路工場

トヨタとの合弁会社で目指すこと

― 今年1月トヨタとの合弁会社設立を発表しました。この会社で今後目指すことを教えてください。
狙いは、両社の経営資源・リソースを結集し、性能およびコスト面において業界No.1の車載用角形電池を実現しトヨタのみならず広く自動車メーカーの電動車の普及に貢献していくことです。当社には高品質・高い安全性の高容量・高出力電池の技術、量産技術、国内外の顧客基盤があり、トヨタには電動車のノウハウと市場データ、全固体電池等の先行技術、そして、何より一貫した「トヨタ生産方式」と言われるモノづくりのスピリットがあります。
― なぜトヨタだったのでしょうか。
車載電池事業には、高い技術力に裏付けされた信頼関係がとても重要です。
電動車のリーディングカンパニーであるノウハウが豊富なトヨタと多くの自動車メーカーに車載電池の納入実績のあるパナソニックが、車両設計の構想段階から連携し、両社の研究開発テーマとリソースを共有することにより、性能面でナンバーワン電池の開発を加速できます。
また、電池の仕様統一、材料調達の共通化、生産技術のリソースとノウハウの融合等により、コスト競争力のある電池を量産安定供給できる体制を強化できます。
― パナソニック新工場を稼働するにあたってどんな人材像を求めていますか。
今は右肩上がりの市場ですが、決してブルーオーシャンではありません。想定されていない新しいプロセスにも挑戦する機会もあるでしょうし、現時点でも高容量化に高出力化、安全は100%担保するという命題があります。併せて投資効率を考えていくので、チャレンジ精神旺盛な人は、向いていると思います。
車載電池事業は、サスティナブル社会を実現する“大義”あるものと自負しています。現在、中国や韓国の電池メーカーも含めての熾烈な競争の中にありますが、これから新たなチャレンジをする気概をもって、強みである現場力を最大化すれば、車載電池事業で世界をリードできるものと確信しています。
勝負はこれからですから。
(インタビュー・文:松田政紀[アート・サプライ]、写真:直江泰治)