著名なコンピューター科学者であるカル・ニューポートは、子育て中の人へのアドバイスとして、まずは親自身がガジェットの使い方をある方法で変えてみることを提案している。それはシンプルなことかもしれないが、子どもにも親自身にも大きな影響を与えるだろう。

コンピュータ科学者のある提案

子育てに関しては「自分の持っていないもの」を子どもに受け継がせることはできない。それは先祖伝来の家宝についても、遺伝的形質についても言えることだが、行動についてもおおむね当てはまる。
一日中、あの手この手で読書の価値を教えようとしても、あなたが本を手にしているところを子どもが一度も見たことがなければ、あなたの努力はおそらく無駄に終わるだろう。
同じことはコンピューターやスマホのスクリーンとの関係にも言えると指摘するのは、コンピューター科学者で『Digital Minimalism』の著者でもあるカル・ニューポートだ。ニューポートは、最近のブログ記事で次のように指摘している。
「あなたが肌身離さず携帯電話を持ち歩き、絶えずチェックしているとしたら、子どもに対してどれほどルールを決めたり注意をしたりしたところで、同じことをしてはいけないと納得させるのは難しい」
ニューポートはそう書いたあとで、子どもの良き手本になるために、スマートフォンと完全に縁を切った親の例を紹介している(あなたが思うほど極端な話ではない)。
自分が模範となって、ガジェットとの健全な関係を子どもに示したいけれど、そこまで急進的なことはしたくない、あるいはできないという場合は、どうすればいいのだろうか。ニューポートは、シンプルだが効果の高い解決策を提案している。

スマホ依存が子どもに与えるダメージ

ニューポートのアドバイスを伝える前に、そもそもテクノロジーの使用に関して、家庭での方針を考え抜いて決めることに価値がある理由を、簡単に説明しておいてもいいだろう。
スクリーンを見ている時間(スクリーンタイム)が子どもの心の健康に及ぼす影響の大きさについては、まだ研究者のあいだで議論が交わされているが、いくつか明らかになっていることがある。
まずは、子どもたち自身がスクリーンタイムに関して、健全な境界線を引く手助けを親にしてほしいと思っているということだ。
第二に、過剰なスマートフォンの使用は、大人のあいだでは孤独や人間関係の質の低下、さらに笑いの減少と結びつけられている。あなたの子どもがいまからスクリーン依存症になっているようなら、そのまま成長し、そうした悪影響を経験する可能性はきわめて高いだろう。
これで、ガジェットとの賢明な関係を子どもに育ませるのはよいアイデアだと納得してもらえたはずだ。では、どうやって取り組めばいいのだろうか。

「玄関ロビーに電話を置くメソッド」

まず思いつくのは、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツといったテック業界を象徴する人物にならって、厳格なスクリーンタイムのルールを設けるという方法かもしれない。
だがこの方法では、過剰に保護されてきた子どもが大学へ行き、自分で境界線を引く手段や意志の力がないと気づいたときには裏目に出るをおそれがあることが、複数の研究が示唆している。
ニューポートは、もっとよい方法を見つけたと考えている。それは「最良の教育方法は、言って聞かせることではなく、見せることだ」という原則に根差している。ニューポートはその方法を「玄関ロビーに電話を置くメソッド」と呼んでいる。その仕組みを説明しよう。
仕事が終わって帰宅したら、自分のスマホを玄関ロビー(もしくは、あなたの家にある邪魔にならない場所ならどこでも)に、鍵や財布と一緒に置いておく。何かを調べる必要があれば、玄関ロビーへ行ってスマホを使う。

応答しなければならない電話やメールが来る予定があるなら、着信音をオンにしておき、その音が鳴ったら玄関ロビーへ行く。テレビを見ていたのにCMが流れて退屈していても、退屈したままでいる。
この方法には、効果や単純さという点で利点がある(「家族との交流がデフォルトでスクリーンのない状態になる」とニューポートは強調している)。また、ティーンの子を持つ親なら誰でもそう言うはずだが、あからさまではない巧妙な方法のほうが、怒鳴りつけるよりもうまくいくことが多い。

スマホは特定目的のために使うもの

だがそれだけではなく、親の側にとっても重要な利点がある。そもそもスマートフォンが家庭生活にどれほど大きな影響を与えていたのかを、穏やかながらも否応なしに悟らせてくれるのだ。
「玄関ロビーに電話を置くメソッド」を実践すると、必然的に「家庭のことをしているときに、デバイスをちらちら見ないようになる。あなたはこっそり見ているつもりかもしれないが、子どもたちはほぼ確実に気づいていて、スマホの重要性というモデルを内面化することになる」と、ニューポートは説明する。
この方法は一石二鳥だ。テクノロジーに関する自分自身の激しい衝動を抑制できるだけでなく、子どもたちに重要な教訓を伝えることもできる。
つまり、スマートフォンは特定の目的に使う道具であり、絶えず気を散らしたりいいかげんに話を聞いたりするためのものではないという教訓だ。
あなたはどんな方法で、子どもにデバイスに関する健全な境界線を引かせているだろうか。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:Jrcasas/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.