「編み物のFacebook」を徹底分析

パン屋を始める、本を書く、自分の作品を「Etsy」で売る、あるいは10億ドルのソフトウェア・スタートアップを立ち上げる。私たちの多くは起業家になる夢を持っている。
思い切って起業する人と夢を見るだけの人では、何が違うのだろうか。趣味に熱中する人や高い技術を持つアマチュアの背中を押し、起業に向かわせるものは何だろうか。
マサチューセッツ工科大学(MIT)が40万人以上を対象に行った最近の調査で、決定的な答えが出た。おそらく、あなたが思っているのとは異なる答えだ。
この研究は、MITの大学院で博士号取得を目指すキム・ヘジュンが、あるデータソースに偶然出会ったことから生まれた。「編み物のFacebook」を自認する人気のサイト「Ravelry.com」だ。
Ravelryは編み物好きな人たちのために、仲間同士がパターンを交換したり、アドバイスをやり取りしたりできる場を提供している。キムにとってこのサイトは、趣味をビジネスに変えた人たちが通った道のりに関するデータが存在する「金鉱」だった。
キムは、編み物好きの40万人以上に関するデータを処理し、ユーザーインタビュー99本を検証した。週末だけ編み物をする人がいる一方で、編み物関連のビジネスを始める人もいるのはなぜか、その理由を解き明かそうとしたのだ。

現実世界における社会的つながり

いちばん重要なのはその人の個性ではないか、あるいは資金が大きな要因ではないかと考えるかもしれない。起業するのは、何がなんでもやり遂げようとするタイプの人か、銀行にお金がある人のどちらかだろう、と。
どちらの仮説も一理ある。しかし、どちらも間違っていた。では、趣味を仕事にした人が持つ最大の要素は何だったのだろうか。それは一言で言えば、「支えてくれる友だち」の存在だった。
「飛躍のために役に立ったのは何か」という質問に対して、ほぼ共通していたのが「ビジネスをやりたいという自分の野心を支援し、励ましてくれる人がいたこと」という回答だった。データはこうしたコメントを裏づけるものだった。
『ワシントン・ポスト』紙は次のように報じている。
「2007年から2014年の間に、40万3168人の編み物好きな人からキムが集めたデータの分析結果が、これを裏づけている。編み物好きな人のグループに入って、仲間と社交的に編み物をする人は、編み物好きだがグループに入らない人に比べて、起業する可能性が25%高かった。地理的要素や経験、技術レベル、生産力などが変わっても、結果は同じだった」
現実世界での社会的つながりが、なぜこれほど重要なのだろうか。
さらに詳しく分析すると、仲間同士で腕を上げようと協力したわけではないことがわかった。趣味を仕事にした人たちは多くの場合、初めからかなりの技術を持っていたからだ。そうではなく、個人的なつながりが大きな自信を与え、それが夢を実現させるのに役立ったと推測される。

社会的ネットワークは秘密の武器

もちろん、この研究の対象は編み物をする人に限られている。しかし『ワシントン・ポスト』の記事にあるように、起業に詳しい専門家たちはキムの研究を高く評価して「これは物をつくる人に限ったことではない」と主張している。
実際、ネットワークサイエンスにおけるこれ以外の研究が「いかなる種類の仕事においても、大規模で支援的な社会的ネットワークは成功の可能性を高める」という結果を示している。
起業したいという夢を持つ人がいるとき、その友だちや家族に期待されることは明白だ。
応援団長としての自分の影響力を過小評価してはならない。あなたの愛する人たちが、途方もない大きな夢を追い求めるかどうか、それはあなたにかかっている。
一方で「今の仕事を辞めて、事業を立ち上げたい」と密かに考える人たちは、しっかりしたビジネスプランと預金残高だけを心配していればいいのではない。現実的な問題は大事だが、同様に社会的な支援も不可欠なのだ。
新しい人生に向かって進んでいくためには、たくさんの力強い手助けが必要だ。あなたを力づけてサポートしたいと考えてくれる人たちに、そばにいてもらうようにしよう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:crPrin/iStock)
©2019 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.