グループ機能のおかげで、フェイスブックにユーザーが戻ってきている。一方で、グループはデマやプロパガンダも広めている。

フェイスブックに復帰した理由

数カ月前、ジュリー・トゥーはフェイスブックへの興味を失っていた。トゥーはフェイスブックのアプリをスマートフォンから削除し、たまにウェブサイトを訪れるだけになった。
25歳でコロラド州に住む画家で写真家のトゥーは、ソーシャルメディアで過ごす時間にはたいていインスタグラムを使っており、仲間たちも同様だった。
しかし、トゥーはある時「サトゥル・エイジアン・トレイツ(Subtle Asian Traits)」というフェイスブックグループのことを耳にした。
そのグループは、わずか数カ月で百万人以上のアジア系の人たちがメンバーとなり、メンバーは自分たちのアジア的なことについて自ら面白がるようなミーム(NP注:画像にコメントをつけたもの)を投稿していた。
トゥーはすぐにこのグループに夢中になった。するとフェイスブックは「サトゥル・エイジアン・クリエイティビティ」や「サトゥル・エイジアン・メンタルヘルス・サポートグループ」といった、似たような名前のミームのグループにも参加するよう勧めてきた。
「いまでは、一度に何時間もフェイスブックで過ごしている」とトゥーは言う。

月間ユーザー数は14億人

ここ数カ月、フェイスブックは個人情報の問題で揺れ、ユーザーの同サイト滞在時間が減少すると自ら予測するような状況だ。そのなかで、フェイスブックのミームやコミュニティのグループが急成長を見せ、同社に明るさを提供している。
「サトゥル・エイジアン・トレイツ」は非常に人気があるグループだが、その始まりはごく一般的なものだった。アジア系オーストラリア人の高校生が、試験からの逃避のために始めたのだ。
その大半が移民一世だった。同グループでは、厳しい両親とのメッセージのやり取りを写したスクリーンショットや、子どもの頃好きだった食べ物の写真、アジアの言語を学ぶ難しさを表した画像などに、何千もの「いいね!」やコメントがつく。
グループをつくったメンバーの一人であるアニー・シエは言う。「私たちは自分がマイノリティである環境で育ち、コミュニティを持っていなかった。このグループには100万人ものアジア人がいて、コミュニティとして同じ経験をしている」
フェイスブックによると、フェイスブック上には数千万のグループが存在し、14億人のユーザーが1カ月間に少なくとも1つのグループを使っている。2017年には、月間のユーザー数は10億人だった。
これによって、フェイスブック全体の利用も増加している。2018年12月には、フェイスブックの1日の平均利用者数は15億人以上となり、1年前と比較すると9%の増加となった。
CEOのマーク・ザッカーバーグは、今年1月の業績発表で、グループは「フェイスブック内での活動を増やすうえで、中心となるもののひとつ」であるとした。

公開、非公開、秘密の三種類

グループは公開にも非公開にもでき、集会を組織したり、遠く離れた友人たちを結んだり、同じ関心を持つ人たち、たとえば慈善活動や自転車、合唱などに関心がある人たちをつないだりする。
サトゥル・エイジアン・トレイツなどの非公開のグループには承認された人しか参加できず、たとえメンバー数が100万人を超えていても私的で親密な感じになる。
さらに、フェイスブックの検索ツールでも見つからない「秘密のグループ」もあり、ここでは私的な感じはより強まる。
グループも、フェイスブックのニュースフィードによく現れるヘイトスピーチや、ロシアによるプロパガンダといった目障りな投稿と決して無縁ではない。しかし、積極的にパトロールされ手入れされているグループは、ニュースフィードよりも心地よく感じられるようだ。
フェイスブックはアルゴリズムに手を加え、グループや友人、家族による投稿は、ニュースフィードの上位に表示されるようにした。
証券会社BTIGのアナリスト、リチャード・グリーンフィールドは「多くの活動がフェイスブックに結びついていると、なかなか離れられない。フェイスブックにはそうした粘着力がある」と言う。

デマの温床になる可能性も

グループが拡大していることから、フェイスブックはますます、スパムの発信や情報操作を行う人、そしてハッカーなど、フェイスブックを利用してデマや陰謀説などを広めようとする人たちに緊急に対処しなければならなくなっている。
サトゥル・エイジアン・トレイツでは、このグループを運営するユーザーが、一日に何時間もかけて新メンバーや投稿の承認を行っている。一方で、荒らしやいじめ、もっとひどい状況が繰り広げられているグループも無数にある。
ロバート・ミュラー特別検察官が、2016年の大統領選挙を妨害したとして13人のロシア人と3つのロシアの組織を起訴したが、複数のフェイスブックのグループがトランプ大統領の選挙運動を支援し、ヒラリー・クリントンの運動を妨害するツールとなったと指摘された。
最近では、フランスの激しい抗議運動で、フェイスブックのグループが怒りを増幅させ、誤った情報を広めたとして批判された。
コロンビア大学のトウ・デジタルジャーナリズム・センターでリサーチディレクターを務めるジョナサン・オルブライトは、選挙のニュースと情報の正確性において、フェイスブック内のグループが短期的には最大の脅威となるだろうと述べた。
「2018年の時点で、グループは情報操作の面で大きな力となっており、フェイスブックのプラットフォームを通じて、的確なタイミングで的確な場所へ情報を流している」
情報セキュリティ会社ニューナレッジのリサーチディレクター、レンス・ディレスタによると、穏健なグループでも悪意ある人たちに簡単に操作されてしまうと言う。「彼らは自分たちの目的のために、グループを乗っ取ることができる」

母親が来ない場所

過去の例を踏まえて、フェイスブックはグループを守るために適切な措置を取る必要があるだろう。
同社は、サービス利用規約に違反する投稿やコメントを発見し削除するためにAIツールを導入したという。また、デマ拡散を目的としたグループの影響力を減らすため取り組んでいるともいう。
それでも、グループは現在のところ、1年前には不可能だったことを実現しているようだ。それは、25歳以下の人たちが、インスタグラムだけでなく、フェイスブックも使うようになっているということだ。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校1年生のミーガン・カンは、フェイスブックという古いサービスを使う主な理由は、ミーム・グループだと言う。
「お母さんはサトゥル・エイジアン・トレイツのメンバーではない。だから、私はここで好きなように発言することができる」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Selina Wang記者、翻訳:東方雅美、写真:©2019 Bloomberg L.P)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.