【図解】1年でトヨタの先端電池に迫った、MIT人工知能のしくみ

2019/2/27
2012年10月、トヨタの研究所に衝撃が走った。
韓国サムスンと米マサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で、次世代バッテリー技術「全固体電池」の材料をついに発見した──。
と、突如として、論文を発表したのだ。
現在のリチウムイオン電池の先にある、次世代のバッテリー「全固体電池」。トヨタが長年の経験と勘を頼りに、実験を繰り返し開発にこぎ着けたその電池材料は、世界の先をゆく最新技術によるものだ。
現在、その実用化を目指し、2020年代前半にはこれを搭載したEV(電気自動車)を投入する。
そのトヨタが、材料の特許を出願したのは2011年5月。しかしその公開を前にして、ほとんど同じ内容の材料を、トヨタよりも先に世界に披露してしまったわけだ。
サムスンと共同で論文を発表したMITのガーブランド・セダー教授は、材料シミュレーション分野の「世界的頭脳」と言われる研究者だ(写真:SOPA Images / LightRocket / GettyImages)
トヨタが危機感を抱いたのは、そのことだけではない。トヨタはこの材料を、従来のようにフィジカルな実験中心の手法で、実に5年の歳月をかけて開発にこぎ着けた。
ところがサムスンとMITの場合、そもそも開発に着手しているという事前情報すらない「ノーマーク」の存在。そして彼らは、なんとリアルな実験をせずして、シミュレーションを駆使し、わずか1年という短期間で同じような材料を開発することに成功した、というのである。
こうした高度なシミュレーションに加えて、データサイエンスとの融合に基づく材料開発手法は「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」と呼ばれ、今、世界中の注目を集めている。
引き金を引いたのは2011年、アメリカ政府が「マテリアルズ・ゲノム・イニシアチブ(MGI)」の立ち上げを宣言し、翌12年に巨額の予算を投じたことだった。
従来の材料開発手法では間に合わない──。
この衝撃的な発表から1カ月が経った2012年11月、トヨタの材料特許は無事公開され、今回はなんとか先に特許権を得られた。が、トヨタがこの “事件”に身震いしたことには違いない。

スライドで「MITの秘密」を解説