コールハーンの債券に対する投資家の人気が高いため、同社の財務状況が改善している。アパックス傘下のコールハーンは、新規顧客の獲得が高く評価されている。

フットウェア業界、唯一の光

コールハーン(Cole Haan)が最近行った債券発行は、古びつつある衣料品ブランドの少なくとも一部に対して、投資家がまだ資金を出すことを証明している。
フットウェアを扱うコールハーンは、数々の失敗に見舞われている業界の唯一の光だ。フットウェア業界では、ナインウエスト(Nine West)が破産に陥り、ペイレス・シューソース(Payless ShoeSource)が二度目の破産申請を準備している。
だが、1928年創業で、現在はプライベートエクイティのアパックス・パートナーズ(Apax Partners)が所有するコールハーンは、Eコマースを採り入れ、ミレニアル世代や女性をターゲットに商品を改良することで、競合他社のような問題を回避している。
プライベートエクイティによるバイアウトの資金を調達するために巨額の借り入れをした小売業者は、芳しい結果を残せていない。それを考えれば、コールハーンの成功は特に注目に値する。
コールハーンが2月上旬実施したタームローン(証書貸付)オファリングでは、募集を上回る投資家が集まり、同社は2億9000万ドルを調達した。
「コールハーンはサクセスストーリーになっている」。ムーディーズ・インベスターズ・サービス(Moody’s Investors Service)のシニア・アナリスト、ラヤ・ソコリャンスカはそう語り、コールハーンは「商品とデジタルの2つを適切に扱うことで、みずからの改革に成功した」と続けた。
公に話す権限はないものの、同社の業績を知る人物によれば、コールハーンの2018年の売上は8%増の6億4700万ドルだったという。金利、税、有形固定資産の減価償却費、無形固定資産の償却費を控除する前の利益(EBITDA)は、38%増の8400万ドルだった。
こうした財務指標の改善のおかげで、2月上旬の資金調達では借り入れ費用を抑えることができた。

競合他社の暗澹たる状況

コールハーンの業績とは際立ったコントラストを見せているのが、同じくプライベートエクイティが所有するほかの小売業者の暗澹たる状況だ。
その多くは、レバレッジド・バイアウト(買収先企業の資産または将来のキャッシュフローを担保に資金調達して行う企業買収)につきものの巨額の負債に苦しんでいる。
そうした小売企業は財務上の蓄えや余裕が少なすぎるせいで、消費者の行動や嗜好の変化に対応できなかった。その結果、高い利払いという重荷が小売各社の一連の破産を招いている。
とはいえ、現在のコールハーンの借り入れ費用は、2013年よりも上昇している。2013年当時は専門小売業者、とりわけプライベートエクイティが支援する小売業者の展望は、いまよりもはるかに明るかった。
だがいまのところ、ジャンクと格付けされた小売企業の多くが債券市場の開拓に苦労するであろう状況に置かれているのに対し、コールハーンはより好調な業界の企業と同様の条件で資金を借り入れている。
債券の需要が圧倒的に大きかったことから、コールハーンは借り入れ費用をシンジケート開始時から50ベーシスポイント(0.5%)下げることができた。トレーダーによれば、1ドルあたり98.75セント前後で販売されていたコールハーンのローンは、現在では100セントに近い値がついているという。

店舗数の少なさも成功要因に

コールハーンの利点は、店舗数が比較的少ないところにある。そのおかげで、競合他社よりも効率的にEコマースに飛びこむことができた。
ニューヨークを拠点とする同社はいまや、北米の売上の30%をデジタルチャンネルから獲得している。この点は、投資家を引き付けるセールスポイントになる。
コールハーンの商品価格は、ほとんどの競合他社よりも高い。男性向けドレスシューズは200~400ドルで販売され、女性向けサンダルは100ドルを超えている。コールハーンはサングラス、ベルト、財布などのファッション小物も販売している。
一方、同社の卸売店にはアマゾン・ドット・コムや高級百貨店チェーンのノードストローム(Nordstrom)が含まれる。コールハーン製品の需要が高いということは、定価で販売されるケースが増え、利益率が押し上げられることも意味している。
「(コールハーンは)アメリカ小売業の経年変化を生き延びることに成功している。良質な製品があり、デジタルチャンネルに早くから投資したためだ」。S&Pグローバル・レーティングで消費者向け製品チームを率いるマリオーラ・ボリジアクはそう話している。
その結果、債券投資家からの需要がコールハーンの発行する債券を上回ることになった。今回の債券は、2013年のアパックスによるレバレッジド・バイアウト後すぐの時期に発行されたローンと置き換えられた。この新しい契約により、タームローンの満期が5年延び、2025年までとなった。

利益成長は控えめになる可能性

こうした堅調な需要のおかげで、コールハーンは当初のシンジケートローン条件よりも借り入れ費用を下げることができた。価格低下と引き換えに債券投資家たちは、四半期ごとの経営報告と年次財務報告を含む、より強力な契約を求めた。
2年前の時点では、競合他社を苦しめている失敗をコールハーンが避けられるか否かは不透明だった。2013年にナイキからアパックスに売却されたあとは、コールハーンも苦労していた。
2016年のはじめ、いわゆる「リテール・アポカリプス(小売店最後の日:インターネット通販の本格的な普及により、商業施設が廃業に追い込まれる事態のこと)」のさなかに競合他社が累々と犠牲になっていたなかで、コールハーンの旧タームローンは1ドルあたりほぼ67セントまで落ち込んでいた。
当時のムーディーズのレポートでは、財務指標の低下により流動性が悪化し、レバレッジがEBITDAの7倍に跳ね上がったと報告されている。
現在のコールハーンの足場はそれよりも安定しているものの、利益の成長はより控えめになる可能性があるとアナリストたちは警告している。
S&Pが指摘しているのは、コールハーンは競争の激しい業界の小規模なプレイヤーであり、VFコーポレーションやタペストリーといった、より大規模な企業と争っているという点だ。ナイキとアディダスに市場シェアを奪われる可能性もある。
一方で、アパックスに所有されている状況が、債券投資の上昇傾向を抑制することも考えられる。アパックスが売却を試みる可能性があるためだ。
「小売はきわめて不安定な分野であり、アメリカ市場は甚だしい飽和状態にある」とS&Pのボリジアクは話している。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Lisa Lee記者、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:©2019 Bloomberg L.P)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.