武勇伝じゃなくていい。知りたいのは「あなたの本音」

2019/2/20
2月10(日)、リクナビ2020×NewsPicksが共催した「ここでしか聞けない企業と選考基準の見極め方」と題したイベントが幕張メッセで開催された。

多くの就活生を選考してきた、住友商事と東日本旅客鉄道(JR東日本)、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズの人事担当者は“本音”で何を語ったのか。多数の学生が立ち見で参加するほど大盛況となったイベントの様子をお届けする。

<登壇者>
住友商事 人事部 岩本健一
東日本旅客鉄道(JR東日本)人事部 坂本泰
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部 西本裕紀

<モデレーター>
NewsPicks 取締役 坂本大典

「自社らしさ」を伝えるために、企業も工夫している

──面接の場では、企業が学生を見極めるのと同時に、学生も企業を見極めています。採用プロセスで「自社らしさ」を伝えるために、どういったメッセージを発信しているのか、選考プロセスで工夫していることを教えてください。
博報堂 博報堂は広告会社なので、どうしたらクライアントのビジネスを前進させられるかを日々考えている会社です。
 これだけ消費が成熟している中で、ひとつの商品を売ることはそう簡単な話ではありません。でも、難しい問題やどうアプローチしていいのか分からない課題を考えることや悩み抜くことに楽しさを感じられる人が「博報堂らしい人」だと考えています。
 そこで、昨年から6〜7時間かけて考え抜く選考プロセスを導入しました。
 学校の勉強は正解があるけれど、広告ビジネスの多くは正解がありません。グループディスカッションで「こういう可能性があるね」「こうしたら世の中が良くなるね」という議論をしてもらっています。
住友商事 どんなテーマで議論するのですか?
博報堂 たとえば、「第二のバレンタインデーを考えてください」といったテーマです。バレンタインデーの推計市場規模は約1260億円と言われていますが、同じような日を作れたら、お菓子メーカーの売り上げを伸ばせるキッカケになりますよね。
 世の中の流れに新しい意味を見いだして人の心を動かすために、想像をふくらませるテーマで実施しています。
住友商事 面白いですね。住友商事は勉強ができる優秀な人ではなく、自分の頭で考えて動ける人や世の中に対して正しいことをしたい人が「住友商事らしい人」だと考えています。 だから、その人の本音を知るためにも、エントリーシートは廃止しました。
 読んでも差はないし、学生からすると書くのも大変です。それに時間を割くくらいなら、学生らしい時間に使ってもらいたい。エントリーシートよりもやるべきことがあると思っています。
JR東日本 エントリーシート廃止は英断かもしれないですね。うちは “インフラ安定企業”と言われがちです。だけど、海外展開や周辺事業の立ち上げなど新しい領域への挑戦を始めています。
 実態を正しく伝えることで、安定企業を求める人ではなくチャレンジ精神あふれる人に選んでもらえるよう、工夫しているところです。

同業でもカラーや仕事の仕方は違う

──それぞれ、競合となる同業界の企業と求める人材が似てくると思います。そこで、競合と差をつけるために意識していることがあれば教えてください。
住友商事 住友商事で活躍する人は他の商社でも活躍するのではないかと思います。ただ、求める人材像の共通点はあっても、各社のカラーや経営スタイル、事業領域は結構違います。
 住友商事は1個ずつ着実に案件を形にしていく会社柄、真面目な人が多い。だから、いわゆる派手なイメージのある“商社っぽい”人が他の商社に比べると少ない印象を受けると思います。
JR東日本 うちは鉄道業だけど不動産などの関連事業があって事業分野が広いので、バッティングする企業や業界は幅広いです。同じ鉄道会社だとしても業態が全く違うので、他のプレーヤーとの差をつけるための意識はあまりしていません。
博報堂 博報堂の特徴は、ボトムアップの文化があること。打ち合わせも雑談から始まります。たとえば「あのラーメン屋さんになぜ人が並ぶのか」という話題にも、人の心を動かすヒントがあるかもしれません。
 クライアントの依頼に応えるためのヒントを、ささいな日常から拾ってワイワイと議論するスタイルでプランニングをしたい人が、博報堂を選ぶ傾向にあると思います。
 どの会社にも面白さはあるので、自分にはどんな仕事の仕方が合うのか考えてほしいですね。

知りたいのは、結果よりも「あなたらしい」プロセス

──面接のときに「御社が第1志望です」と言ったほうが企業の印象はいいものでしょうか?
JR東日本 そもそも、面接する側が第1志望を聞くのはナンセンスだと思います。恋愛でも、お互いによく知らないタイミングで「私のことを一番好きですか」と聞いて「はい一番好きです」とはなかなか答えないですよね(笑)。
住友商事 答えないですね(笑)。
JR東日本 だから、志望の順番を聞くのはあまり意味がないと思っています。もちろん、第1志望で入社したいと言ってくれることはありがたいですけど。
──志望動機や自己PRはどう考えるべきですか?
博報堂 自分がやりたいと思う気持ちと、実際にできるかどうかには隔たりがあると思います。僕は新聞記者になりたかったけど、博報堂の選考で「広告会社のほうが向いているかもしれない」と感じました。
 このように、企業との相性を明らかにしていくのが選考のプロセス。
 だから、志望動機や自己PRは自分らしく本音で語ることが大切だと思っています。でも、1日何人も面接をしていると、その半数程度の学生さんは自己PRで学園祭の実行委員の話をします。
住友商事 あるあるですね。
博報堂 それが本当ならいいし、学園祭を否定したいわけでは決してありません。学生時代に成果を生み出した経験として、分かりやすい学園祭を選ぶ気持ちは理解できます。でも、人事が知りたいのは結果ではなくてプロセス。
 どんな考えを持って行動する人なのか、他の人とどう違うのかという、あなたらしさを知りたい。
 今までで面白いと思った自己PRは、自宅の風呂でカニの養殖に挑戦した話です。結局失敗しているのですが、カニの養殖に至った背景と考え方、行動からその人らしさを強烈に感じ取れました。
住友商事 これを聞いて、カニの養殖を始めても、それは違いますからね(笑)。最近多いのは、ネットや先輩から内定を取るための傾向を調べてまねすること。
 「この業界はこのパターンで内定を取れる」といった都市伝説を信じて面接を受けに来ても、そこに自分らしさはありませんよね。人と人なので、本音で話していないことはすぐに分かります。
 逆に「御社は第5志望です」と言われても、その人を採用したいと思ったら企業は追いかけます(笑)。
 商社は博報堂や外資系、金融などとバッティングすることが多いので、同業ではなく異業界の企業で悩んでいる人を振り向かせたいと燃えることもよくあります。
JR東日本 そうですね。ぜひ採用したいと思う人は企業から追いかける。諦めません。恋愛と似ていると思います。それに、第1志望じゃないと採用しないという企業は聞いたことがないですね。
 学校で面接の練習があるなら、面接をする側の立場で練習してみると良いと思います。いかに伝えたいことが伝わらず、逆にたいして気にせずに発した言葉が刺さることなどが分かると思います。

ヒントは現場にある。ネットの情報よりも、まずは現場へ

──志望動機を口コミサイトで見て覚えるのではなく、自分らしく伝えるためにどうしたらいいと思いますか?
住友商事 会社のホームページを熟読して他の商社との違いを志望動機として話す人が多いのですが、それは最後でいいと思っています。
 それよりも、総合商社は何をしているのか、それを仕事にして好きになれるのかを考えないと志望動機は出てこないはずです。
博報堂 まずは自分がどういう人間で、受けようと思っている会社の仕事内容や仕事の仕方は自分の人生とどうつながるのかを考えるのがスタートです。
 そのヒントは実際の現場にあって、会社のホームページに書かれた情報からたどり着くのは難しいと思います。
 広告会社の場合は、「アイデアを出して形にする」「チームで働く」などいろんな要素があるので、それらのどれが自分と合うのかを考える。先輩の成功体験から志望動機を作り出すのではなく、自分が導き出すのが一番の近道です。
JR東日本 それで言うと、自己分析をやりすぎてそのワナにはまってしまう学生さんがいます。やりたいことや夢は置かれた環境でコロコロ変わっていくものなので、一人でも多くの人とコミュニケーションを取りながら考えてもらいたいですね。
 就職活動は長い人生の中の点でしかないので、自分の経験値を高めるアルバイトや部活、趣味などがそのまま志望動機や自己PRにつながっていくと思います。何も特別なことを言う必要はありません。

本音が無い、準備された自己PRは聞かない

──とはいえ、最初のとっかかりとして「自己PRの作り方」などを本やネットから情報を収集する人が多いと思います。
住友商事 そうですね。きれいにまとまりすぎるし、そこから本音は見えないので私は面接では自己PRを聞かないようにしています(笑)。
 あらかじめ準備された回答ではなく、今何を考えていて、何に悩んでいて、これから何をしたいのか。今週の面白かった出来事や、大学時代にはまったことなどを聞きますね。
博報堂 私たちも典型的なことは聞かないです。自己PRを話してもらったとしても、「あなたしか知らないことを教えて」とどんどん深掘りします。なるべくその人らしさに迫りたいです。
JR東日本 うちはエントリーシートこそ提出してもらいますが、そこに書かれている内容は、わざわざ面接の場であらためて聞かないです。その人の本音は日常会話から分かりますからね。
 それから、自己PRで中学や高校時代の話をする人がいますが、大学時代の話をしてほしい。大学の3年4年間で何も無いということは絶対にあり得ません。
 だから、まずは大学時代を振り返って、どんなに小さなことでも、結果が出ていないことでもいいので、自分らしいことをたくさん探すのをおすすめします。
──最後に、これから就職活動が始まる学生に向けてメッセージをお願いします。
博報堂 とにかく想像を巡らせてほしいです。それぞれの業界は何をしているのかを知り、自分の人生に合うと思える会社を探してほしいと思います。
 やりたいことが漠然としていたとしても、これまでの人生を振り返れば、「自分に合いそうだ」という選択肢はいくつも見つかってくると思いますよ。
JR東日本 将来の夢や希望を持つことは大事だけど、それによって自分の可能性を狭めてしまうこともあります。まずは広く世界を見渡してみて、いろんな業界のいろんな企業の話を聞いてみてください。
 自己評価より、周りの評価が大事だったりするので、自分で決めつけてしまわないほうがいいと思いますよ。
住友商事 そうですね。日本には優良企業がたくさんあります。就職人気ランキングは気にせずに、まずは広く知るところから始めてほしいです。勉強したり話を聞いたりするうちに、自然と志望する会社が出てくるはずです。
(文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:國弘朋佳)