ロボット義足のチューニングにAI利用、強化学習で調整時間10分に短縮

2019/2/12

現実のモノを動かす「AIの可視化」

AIはとかくクラウドやコンピューターの中など、見えないところで起こっているもののように感じられるが、現実のモノを動かす力にもなる。いわば「AIの可視化」といった感じのケースがある。
その好例が、ロボット義足の動きにAIを盛り込んだという研究である。
この研究は、ノースカロライナ州立大学やアリゾナ州立大学の研究者らが行っているもので、ロボット義足を個々人のユーザーに合わせるのに、強化学習手法を用いてアルゴリズムを訓練している。
ロボット義足やロボット義手は、従来の義足や義手と異なって、ユーザーを積極的にサポートして、動きをより作りやすくするという特徴がある。ただそうであっても、ことに義足の場合は個々のユーザーにに合わせて調整するのが難しい。
その理由は、人間の数だけ歩き方の種類があるからである。体形が異なる、足の骨格や筋肉が違う、歩き方の癖が異なるなど、同じように歩いているように見えても、すべての人々が他の人とは違った歩き方をしているのだ。靴の減り方に自分特有の歩き方を感じることもあるだろう。

個々のスムーズな歩みに合わせる

ロボット義足は、身体を支えるのに十分な力を持つために金属を多用していて、基本的な動きは実現できても、その硬いもので身体を傷つけないようにして、しかも個々のユーザーのスムーズな歩みに沿って仕上げるチューニングに、これまで何十時間もかかるのが当たり前だったという。
ところが、この研究では強化学習を用いることで、それが10分、あるいは300回の歩行サイクルを繰り返すだけで済むと期待できるのだという。つまり、真新しいロボット義足をユーザーが身につけて10分歩くことで、その人の歩き方に沿った動きが生み出せるようになるのだ。
研究では、ロボット義足の力と動きとの関係に関わる12のパラメーターを定め、それらのダイナミックな関係性の中に目標とする動き方の範囲を定めて強化学習を行った。
パラメーターは、関節の硬さとかひざ下の足の部分がどの程度前後に振れるか、といった数値だ。強化学習は試行錯誤を通じて、ロボット義足の動きを目標の範囲内に最適化させようとする。
研究者たちは、学習のためのデータセットや、臨床テストをしたユーザーの数がまだ限られていることを断った上で、それでも効果が見られたことから、この手法の有効性が期待できるとしている。

アシスティブ・テクノロジーの可能性

歩くということには複雑な要素がいろいろ絡んでいて、例えば坂道なら、あるいは荷物を持っていたらどうなるかなど、無数の変数がある。いずれAIがリアルタイムでロボット義足の動きを調整できる日も近いだろう。
身体障害者の生活をサポートする様々なテクノロジーは「アシスティブ・テクノロジー」と呼ばれるが、その分野でのAIにはおおいに頑張ってもらいたい。
考えてみれば、ロボット義足やAIが人間を補完するサイバネティックス的な姿は、これからのAIと我々との関係をそのまま表しているようにも見えないだろうか。どんな人間も万能からはほど遠く、それをこれからマシンやAIが少しでも補ってくれるようになる。
その結果、考えもしなかった能力を得るかもしれない。アシスティブ・テクノロジーはそんな意味でも、示唆に富んでいるのだ。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:www.ncsu.edu)