【明石ガクト】実は今が人生最大の“壁”。一歩踏み出す原動力とは

2019/2/12

新しい挑戦をする上で誰もがぶつかる、お金よりも大きな壁

僕って新しいことに次々挑戦しているイメージを持たれてますが、20代の頃は会社を辞める勇気が出なくて、起業するまでにずいぶん長いことかかったんですよ。まずは会社員をしながら副業をして、ついに副業が本業の年収を超えるところまできて。
それでもまだ、踏み出せずにいました。副業だけで年収1000万以上あったのにですよ?
そのとき思ったんです。会社を辞めて何か新しいことを始める際の心理的な壁って、実はお金じゃないんだな、と。それ以上に怖いのは、「社会から取り残されるかもしれない」という恐れ。
会社に行けば、同僚に会えて、上司にも後輩にも会えて、そこにコミュニティがある。そういうすべてを一度捨てて、社会と何のつながりもない存在になる恐怖が壁になってるんです。
一歩踏み出すパワーになったのは、先に起業していた仲間の存在。「明石くん、絶対に独立したほうがいいよ。もしうまくいかなくても、僕らは友達だから。何かあったら助けるから。大丈夫!」と言ってくれて、勇気を持てました。
自分がダメになっても、つながりを持ってくれる人がいる実感が、他のどんなことよりも背中を押してくれたんです。自分は一人じゃないんだ、と絆を感じた瞬間があったわけですね。

これまでの人生で今、一番壁を感じている

起業をしてからは、初年度の売り上げがたったの5万円でメルカリで私物を売って食いつないだり、髪を切るお金すらなくて気づいたら長髪になっていたり……とさまざまな壁がありました。
キャッチーなエピソードだから他のインタビューでもこの話がよく使われるんですけど、実はリアルな話をすると、今がこれまでの人生で一番、壁を感じているかもしれません。
起業したばかりの頃は0→1のプロジェクトをやってきて、それも苦労はもちろんありました。けれど、そこを超えて、ようやく自分たちの生み出す価値が世間に認められ始めた今、規模や数の戦いになってきたわけです。
僕たちのやっていることを面白がってくれる人たち以外の、まったく興味を持たれていない層にも広めていかなければならない。
昨年は本も出して、自分の理想をカッコよく語ったこともあり、今年はその理想を理想のままで終わらせず、現実のものにしていかなければならない一年なんですよ。
実現できなければ、あいつ口だけだったな、と言われてしまう。ジェットコースターに乗っているような感覚ですよ。急な上り坂も谷も目の前に見えていて、走り始めてしまったからもう途中で降りることができない。
そういうプレッシャーを今、ものすごく感じています。
利益を回収しなければならないのはもちろん、それ以上に責任を感じているのは、僕の周りにいる応援してくれる人たちの期待を裏切らないこと。それは70点じゃダメなんですよ。
「なんか動画を作っているよね」という会社として安定してやっていくこともできるんですが、100点、いや、それを超えた120点の景色を応援してくれているみんなに見せて、夢を更新していかなければならない。
この戦いって、すごく孤独なんです。経営者は孤独だってもうあちこちで何百回も言われている言葉ですが、本当に孤独としか言いようがありません。

壁をぶち破る原動力とは何か

昔、売り上げが伸び悩んでいた頃、一緒に頑張ってきた仲間に言われたひと言が印象に残っているんです。「1年前の僕らに比べたらだいぶ前に来ましたよね」と言われて、ハッとして。
大きな一歩がフィーチャーされがちですが、自分は前に進めているのかな、と悩んだときこそ、あえて後ろを振り返るのが大事なんだとそのとき思いました。振り返ると、結構な距離を歩いてきたことがわかりますから。
これこそが、壁を抜けるためのキーなんです。
僕たちの場合は、動画の本数がそれにあたりました。当時、月に100本動画を作るようにしていたんです。
1年間で1200本。クオリティこそ自分たちの理想には遠かったけれど、この少人数の規模の会社で、年に1000本以上作っているところなんて他になかったですからね。
根性論みたいですが、当時は「1000本作ったことで見えてくる景色が絶対にあるはずだ」と信じて続けました。実際、こうして後ろを振り返ったときに、自信を持てたので、本当にやってよかったですね。
毎日目の前のことを必死にやって生きていると、進んでいる感覚はないんですけれど、こうやって年間の数字で考えてみるとわかりやすいでしょう? 
これって、チャレンジし続ける人が忘れがちなことなんですが、ふと自分の後ろを振り返ってみると、「何枚も壁を壊してきたんだな」と認識できるんです。
全然進んでいないような一歩でも、同じように頑張り続ければ、いつかすべての壁を壊すことができるだろう、と。
小さくても一歩一歩踏み出していくこと。そしてそれを振り返ること。
それが壁をぶち破るための何よりの原動力になるんです。

壁を超えるためのヒントは「How」でも「What」でもなく、100回の「Why」

世界を動かすような大きな会社というのは、「大きな問い」から始まっています。
「なぜ車は空気を汚染しながら走るんだろう」という大きな問いから電気自動車が生まれ、「なぜホテルを次々新しく建てるんだろう?」という問いから、空いてる部屋を有効活用するAirbnbが生まれたわけです。
若い子に仕事や起業のことで相談されるときに、よく「どうやればいいですか?」や「何をすればいいですか?」を聞かれるんですよ。
でも、重要なのは「どうやって(How)」とか「何をすればいいか(What)」ではなくて、「なぜ(Why)」だと思うんです。つまり、「なぜ俺はこれをやりたいのか」「なぜ社会はこうなっているのか」
壁に当たって迷ったときは、まずWhyを100回、自分に問いかけてほしい。僕の場合は、「なぜ動画をやりたいのか」「なぜテレビ番組の制作ではなく、動画なのか」などと問いかけ続けました。
Whyを続けることで、問いをどんどん大きくしていくんです。
この問いは、最初は小さくてもいい。
僕も最初は、楽しいとか、ワクワクするとかの、小さなスタートでした。やっているうちに壁にぶち当たって、新たな問いが生まれます。
「若い人が見て楽しめるものを作っているはずなのに、全然届かないのはなぜだろう?」と。こうしてWhyを繰り返し、更新していくことで、自分たちのやりたいことの解像度が上がり、その結果、社会との関わりが密接になっていきました。
HowやWhatって、その過程で後からついてくるんですよ。
起業したばかりの頃は、社会の歯車から自分が放り出されたような感じがしていたんですが、それは単に、歯車が小さかったからなんです。
小さい歯車に、何度も大きな問いかけをすることで、ほかの歯車を巻き込んで、社会とかみ合っていく瞬間があるんですね。
まずは歯車をどちらに向かせたいのか、方向は合っているのか、なぜ歯車を動かすのか──第一歩は、そこからです。
撮影中も軽やかになびいていた、明石氏の特徴ともいえる長い髪。起業後に経験したどん底生活時代、美容院代を節約していたゆえの長髪を今も続けているのは「ドネーションしたい」という気持ちからだそう。

仲間を大切にし、日々の小さな業務にも全身全霊で取り組む明石氏。成功者とも言える今でも進化のための努力とチャレンジを怠らない。その何よりの原動力となっているのは、小さくても一歩一歩積み重ねてきた過去の自分自身の姿。「なぜ(Why)」を100回、自分に問いかけることも壁を抜けるコツのひとつ。

悩み続けていても何も解決にはならない。第一歩を踏み出すことで、イノベーティブなアイデアが生まれるはずだ。

※本記事は、今までの固定概念にとらわれず、悩んでいる自分を行動によって変えようとする人に向けたロート製薬の発毛剤「リグロEX5」による連載です。
(取材・文:朝井麻由美 編集:奈良岡崇子 撮影:望月孝 ヘア&メイク:田中いづみ デザイン:田中貴美恵)