リーマンショック以降の低成長時代にあって、飛躍的成長と組織拡大を続ける株式会社ネオキャリア。創業当初は“人材会社”として発足していたはずの同社だったが、気が付けば実は500人強(社員数3,103名)のエンジニアを抱える、TECH企業としての顔も併せ持っている。改めて、ネオキャリアとはどういった会社なのか?専務取締役の加藤 賢氏に語ってもらった。

“人材会社”だと思ったことはない

――長い間、ネオキャリアは人材の会社だと勝手に思いこんでいましたが、最近の御社の展開をみる限りでは、どうもそんな単純な話ではないような…。改めて問います。ネオキャリアって、一体、どういう会社なのか。その正体を教えてください。
『ネオキャリア』という社名が、“人材会社”のイメージを固定しているのかもしれませんが、私も代表の西澤もこの会社を人材会社だと思ってはいません。採用面接や内定式でも「人材会社としてネオキャリアを選んだ人は、他の会社に行ったほうがいい」と言っているくらいですから。
では、一体、何の会社なのか?自分たちが一番大切にしているのは、“「ヒト」と「テクノロジー」による未来創造“です。将来的な社会課題をどうビジネスで解決するか、それを実行するのが私たち『ネオキャリア』という企業の存在意義だと思っています。
中でも、グループ全体で課題としておいているのが少子高齢化。改めて言うまでもなく、これからの時代において、必ず起こりうる最大の社会課題だと捉えています。
加藤 賢 株式会社ネオキャリア 専務取締役
大学を卒業後、2000年4月に新卒で投資会社へ入社。2000年11月に同期新卒メンバーで株式会社ネオキャリアを設立する。営業を経験後、投資会社へ出向し、各種M&Aなどを経験する。2002年4月、取締役就任。CFO兼管理本部長として、会社基盤構築、及び、子会社事業管掌。2011年10月に専務取締役副社長COOに就任。国内全事業管掌、及び、新規事業開発を担当する。

少子高齢化に対する危機感

―少子高齢化が進んでいくなかで、ヒトとテクノロジーによる問題解決へのニーズはますます期待が高まりそうですね。
例えば人材会社は右から左へと人材を流しているだけでは、人材会社の価値が薄れていき、異業種からの参入が進むことで、やがて人材業界そのものが消滅してしまうかもしれない。そんな危機感を持っています。
日本の産業の主役は“モノと金”から“ヒトとテクノロジー”へと移行したのは、誰の目にも明らかです。だからこそ、本質的な自分たちの価値がどこにあるのかを問い続ける必要があり、何らかの優位性、付加価値を生み出すのかを追及しなければ、淘汰されていってしまう。ましてや、少子高齢化で人がいなくなるのですから、そんな時代は現実として目の前に迫っています。
当社を含めどの人材会社も現在、人が介在する価値やあるべきサービスの形について本気で考え、進化をして行っている最中でしょう。
弊社にも古いビジネスモデルで運営しているサービスも多数あるので、綺麗ごとを言うつもりはありませんが、私たちも幾度となく自問自答を繰り返してきました。
その結果、“採用”というマッチングの支援に限らず、入社した人が生産性高く働き、組織としてのパフォーマンスをどう上げるかという“生産性の担保”を支援することで、少子高齢化社会の中で価値を見出していきたい。そう考えるようになったのです。

人事データの活用にこそ価値がある

―具体的には、どのようなアプローチになるのでしょう?
これまで、事務処理としか使われてきていない人事データにHRテクノロジー(HRテック)を活用することで、業務効率化、組織パフォーマンスの向上を図ることが出来ると考えています。
「HRテック」の本質は人材データの価値をどう増やしていくのかということだと感じており、テクノロジーの力を入れればすべてが解決するというのは幻想であると思っています。
ではどのように活用すればいいのか?
「HRテック」は三段階あると言われていて、一つ目に「テクノロジーによる業務の効率化」、二つ目に「従業員評価の適正管理」、そして三つ目に「組織のパフォーマンス向上」と考えています。私はこの1、2、3を順番通りにやらないと解決できないなと思っています。
これを実現するためにまずは、人事データを一元管理する必要があります。しかし、いままでの情報管理ツールは、システムの思想としてストックの概念で作られていないことがあります。たとえば、面接管理などはデータ量が増えていくと追加料金が発生し、データを捨ててしまうなどがあります。どういう人が採用されて、どういう人が残って、どういう人が活躍しているかという情報を一元管理できてこそ、人事データの活用を実現できると考えています。
これまでブラックボックス化されてきた、又は事務処理としか使われてこなかった人事データをテクノロジーによって数値化、可視化、一元管理することで、人材の適材配置の支援ができれば、採用という入口の部分だけにフォーカスしていたところから、採用した人材の定着・活性化という領域まで拡げることができると確信。従来の人材業界ではなしえなかった新しい価値が提供できるのではないかと思い至りました。そして、その思いが人事向けSaaS型プラットフォームサービス「jinjer」というプロダクトに集約され、リリースしました。
jinjer:人事データの一元管理による数値化、可視化し人事業務のパフォーマンス向上、経営の支援を行うSaaS型プラットフォームサービス。HR TECHNOLOGY AWARDS 2017受賞。
「jinjer」は勤怠・労務・人材管理など、人事領域のデータを一気通貫でシームレス管理できるシステムです。テクノロジーによる「業務の効率化」、従業員の評価を適正に管理する「タレントマネジメント」、組織のパフォーマンスを向上させる「エンゲージメント」を段階的に管理することで、どういった人材が採用され、そして残って活躍しているかを見える化し、ストックしていきます。
ここまでは、最近、一般的に認識されている「HRテック」の概念ではありますが、さらに私は、単純にテクノロジーによって問題が解決されるだけでなく、ストックされた人事データをいかに活用していくのかというところに本質があると思っています。
人事データは、その人の経歴や年収や評価がすぐに理解できる確かなデータです。それを活用した事例を2つご紹介します。
1つ目は現在、東京海上さんと共に、「保険と社員データの連携機能」の強化を進めています。これは従業員の子どもが進級した際、福利厚生の一環として通常よりも安く保険に入れるという通知が行われるものですが、従業員にとっても保険会社にとっても価値を生み出すことができます。
2つ目の事例として、インドネシアでの「信用管理」の例もあります。2018年5月からインドネシアで「jinjer」の提供を開始し、現地企業からアライアンスの問い合わせが急増しています。その背景には、個人の信用力を推し量る尺度が存在していなかった点があげられます。
日本では、公共料金の滞納者を管理する組合が3つほどありますが、東南アジアには同様の機関がありません。そのため、jinjerの勤務者データから、その人の信用管理をしたいというニーズが生まれており、人事データの価値を再認識いたしました。社内の評価が、やがて社会的評価と同期されていけば、そのデータ自体が社会のインフラになっていく。そんな世界を実現したいと思っています。

“ネオキャリアっぽくない人”を求む

――加藤さんが抱くビジョンを実現するためには、どのような人材とともに、どのような組織を作っていきたいとお考えでしょうか。
一言で申し上げるとしたら、「ネオキャリアっぽくない人」が良いです。冒頭でもお話ししたように、世間的には弊社は“人材会社”と見られていて、どうしても営業が強いというイメージがあります。ところが現状としては、3103名の社員のうち、500名規模のエンジニアを抱えています。まずは従来の人材サービス会社っぽくない人に興味を持っていただきたい。
私個人としては、言われたからやる、ではなく、こんなことをやりたい!とバシバシぶつけてくれる人と一緒に働きたいです。私たちが求めているのは社員とか部下ではなく仲間なので、社会的課題や未来を変えるテクノロジーに共感値を持てる人を歓迎します。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)