【インスタマーケ最前線】ビジュアルで人の心を掴む

2019/1/30
若い女性だけでなく、今や老若男女、幅広い世代に利用されているインスタグラム。これをビジネスに活用する企業も、アパレル系や化粧品メーカーなどF1層をターゲットとする企業ばかりではなくなっている。

ユーザーや使い方が多様化する中で、インスタグラムを活用する企業も多様化しているのだ。2016年からインスタグラムをマーケティングに積極活用しているBMW Group Company MINIディビジョンの山村直子氏と、フェイスブック ジャパン執行役員の田野崎亮太氏に話を聞いた。

ブランドの世界観をビジュアルで伝える

──BMWグループの自動車ブランド「MINI」がインスタグラムを始めたきっかけについて教えてください。
山村 MINIは2015年に、グローバルでブランドのポジショニングを変更しました。クルマというプロダクトを提案するのではなく、クリエイティブなマインドを持った人にMINIを通じたライフスタイルを提案する方向にシフトしたんですね。
 それに伴ってディーラーから広告まですべてのコミュニケーションを再構築していた頃、台頭してきたメディアがインスタグラムでした。
 ブランドの新しい世界観をビジュアルで直感的に伝えるチャネルとして、インスタグラムは最適なのではないかと考え、2016年12月にアカウントを開設。そこから試験的にマーケティング活動を始めました。
──どのような戦略で広告を展開してきたのでしょうか?
山村 普段広告には、グローバルで統一された素材を中心に使うのですが、インスタグラムではそれに加えて、日本の人たちに魅力的に感じてもらえるよう、ローカルの素材を自分たちで撮りおろして作っています。
 たとえば、京都の古民家が並ぶ細い路地裏でMINIが走行しているシーンは、日本だからこそ撮影できるものです。
 色に関しても「赤」ではなく「真朱(しんしゅ)」、「青」ではなく「浅葱(あさぎ)」といった伝統色を選び、日本の人の心に刺さるようなビジュアル作りにこだわってきました。
 2018年のテーマは「MINIと日本の景色」だったので、日本の美しい景色を組み合わせた写真を撮影して投稿していましたね。
田野崎 MINIさんはグローバルとローカルを融合させたクリエイティブを展開していますよね。日本らしいシーンや景色の中に、機能面や走行面といったグローバルで押さえるべきポイントも取り入れている。
 しかも、フィード広告だけでなくストーリーズ広告も活用されていますし、ペイドの広告だけでなくオーガニックの投稿もされている。いろんなタイミングやポイントでユーザーとのコミュニケーションを取っている先進的な事例だと思っています。

投稿や広告をきっかけにディーラーへ。購入につながる

──マーケティングツールとしてインスタグラムを活用し始めて、実際にどのような効果が出ていますか?
山村 インスタグラムでは他チャネルのように売り上げや販売台数をKPIに置かず、あくまで新しい顧客を取り込むためのブランディングを目的として始めました。
 でも、ふたを開けてみたらMINIファンの方がたくさん集まっていたんです。しかも、投稿が販売にもつながっていて。
 もちろん、クルマは安い買い物ではないので検討期間は長いと思いますが、広告を見て世界観を気に入ってくださった方がディーラーを訪れ、購入されているんです。
田野崎 MINIさんは広告を見た人が次にどんな行動を取ったのかを戦略的に計測されていますよね。
 ディーラーさんへの試乗予約や資料請求などにインスタグラム広告はどう寄与したのか。広告を見た人のシグナルを拾い、次のアクションを促す広告を配信することで、ブランディングだけでなく最終的な行動である「購買」につながっていると思います。

プッシュでもプルでもない、自然発生的なコミュニティ

──企業として「インスタを使う理由」を整理すると、どこがポイントでしょうか?
田野崎 一番の強みは、直感的なビジュアルで、効果的に商品やサービスのブランディングができること。
 どのメディアと比べてもスマホの画面占有率が高いですし、ストーリーズの縦型であれば全画面が画像になります。それだけビジュアルで直感的に訴えかけられるメディアであることは、他のチャネルとの大きな違いでしょう。
 MIT による調査結果(※1)では、モバイルがガラケーからスマホにシフトする過程で、人間の情報処理速度は進化し、現在の人間は約0.013秒でビジュアルを理解しているという面白いデータがあるんですね。
 私も0.013秒で画像を理解できるか実験したところ、いろんなものが写っている複雑な写真でも、瞬時に理解できました。
──たしかに、インスタグラムはスイスイと素早くスクロールしながら見ていますが、何の写真かは理解できています。
田野崎 ビジュアルを重視しているからこそ、気になる投稿があればスクロールの指を止めますし、気にならなければ次々と進んでいく。自分の好みのコンテンツであれば企業アカウントであってもフォローする。
 この点はインスタのユニークなポイントだと思っています。
山村 MINIのアカウントもフォロワーは4万人以上いて、投稿すると毎回2000件近くのいいねをもらっています。
田野崎 実は僕もフォローしているのですが、毎月各地の名所を旅しているMINI の写真がアップされると、旅に行きたくなるしクルマも欲しくなっていますよ(笑)。
 それから、インスタグラムは2016年のストーリーズの導入をきっかけに、より気軽に自分の好きなものと出会い、つながる場になりました。
 それまでは、プロが撮影したようなきれいな写真が多く並んでいましたが、ストーリーズの24時間で消える気軽さから、いわゆる「映える」画像だけではなく、より身近で多様なコンテンツも受け入れられるようになったんですね。
 実際、インスタグラムでよく見るコンテンツを利用者に聞いたところ、2015年は有名人やきれいな写真を見るという回答が多かったのが、2017年の結果(※2)ではペットや料理、旅行、スポーツなど多岐にわたるコンテンツが増加。
 人気のコンテンツも多様化しており、誰でも自分の興味や関心に合ったビジュアルと簡単に出会ってつながる場になっているということです。
 ある消費財メーカーさんの場合、インスタグラムで商品の世界観が伝わるような広告を配信したところ、興味を持ってくれたユーザーが、実際に商品を買って使っているシーンをハッシュタグ付きで投稿してくれるようになったそうなんです。
 これは、プッシュでもプルでもない「自然発生的なコミュニティ」。この中でブランドが育ち、売り上げにもつながっています。

広告のパラダイムシフトが起きている

──ユーザーの多様性が広がっている以外で、他のマーケティングツールやチャネルと異なる点はあるでしょうか。
田野崎 お客様からよく言われるのは、インスタグラムは国内2900万人のユーザー(月間アクティブアカウント)に、単にリーチできるだけでなく、購入など意向上げに効くチャネルだということ。
 実は日本のユーザーは、一日中インスタグラムを利用していて、5人に1人は朝起きてすぐ見るというデータ(※2)があるほど生活に密着しているんですね。
 投稿をきっかけに検索をしたり、ブランドサイトを見て商品の詳細を確認したりなど、何かしらの行動につなげているユーザーは全体の8割(※3)もいます。
 実際に、ある飲料メーカーさんが広告費の33%をテレビ、5%をインスタで試したところ、インスタグラムのリーチシェアの方がテレビを大きく上回り、購買意向も数倍高かったという結果が出ました。それだけ行動につながりやすいと言えると思います。
山村 MINIでも、投稿が購入というアクションにつながるきっかけになっていますよ。
田野崎 インスタグラムでは広告を配信する際、性別や年齢などでターゲット設定するのに加えて、フェイスブックやインスタグラムでの日常的な行動データをもとに、その人の「好き」に合った広告を配信しています。
 だから、企業アカウントからの投稿も最終的な行動につながりやすいのだと思います。
 それから、日本の利用者がインスタグラムでハッシュタグ検索をする回数は世界平均の3倍もあり、検索ツールとしても日常的に活用されている側面もあります。
 この利点は、たとえば「#MINI」 で検索した際に企業アカウントだけでなくMINIユーザーが投稿したリアルな世界観も見られること。それが自分ゴト化につながって行動を促すのだと思います。
山村 ただ、変化の早い今の時代で時流に乗ったクリエイティブをつくるのは、なかなか難しいですよね。これはいい出来だと思っても、反応がイマイチだったり、またその逆もあったりして。特に動画は難しいので試行錯誤しています
田野崎 フィードもストーリーズも次々とスクロールしながら見られるので、特に動画の場合は、テレビCMや他の動画広告と同じクリエイティブでは受け入れられません。
 起承転結で最後にオチを持ってくるのではなく、最初に結を持ってこないとユーザーは理解する前に次の投稿に進んでしまうでしょう。また、モバイル上では縦型の画面を前提とした構図も重要です。
 ただ、このクリエイティブはどの企業様も模索しているところで、広告のパラダイムシフトの真っただ中ではないかと思っています。
 インスタグラムは一つのメディアですが、マーケティングの仕組みを変えるほどの可能性があるはず。企業がユーザーともっと簡単にコミュニケーションが取れる、最も身近なマーケティングツールになるよう、一緒に事例を作っていきたいです。
(取材・文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:國弘朋佳)
※1)MIT ”In the Blink of an Eye” 2014年
※2)Kantar Japan 2017年9月調査 (Facebook委託調査)
※3)IPSOS  2018年10月調査(Facebook委託調査)