[東京 17日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は17日、日銀・財務省共催の20カ国・地域(G20)シンポジウムで講演し、人口減少や高齢化を背景とした低金利環境は金融システムや金融機関のビジネスに変革を迫る可能性があるとし、中長期的に金融機関の合併や統合などで供給面での調整を促す可能性があると語った。

総裁は「人口動態の変動とマクロ経済面での挑戦」と題し、人口減少や高齢化の進行がマクロ経済や財政・金融政策などに与える影響について講演した。

人口減少や高齢化の進行は、労働力の減少をもたらし「経済の供給面から、マクロの成長率を押し下げる効果がある」と述べる一方、人口動態の変化がイノベーションなどを促す効果もあり、「必ずしも成長率を押し下げるわけではない。経済全体の成長率を引き上げることが可能」との見解を表明した。

そのうえで金融政策への影響に関し、人口減少や高齢化に伴って経済成長率が低下することになれば「結果的に経済の実力に見合った名目金利の水準も低下することになる」と説明。金融緩和は、中立的な金利水準よりも市場金利を低くすることで効果を発揮するが、「低金利環境では、ゼロ金利制約に直面するリスクが増すことになる」と課題を挙げた。

すでに多くの主要国中銀が多様な資産の買い入れやマイナス金利政策など非伝統的な金融緩和に踏み出しているが、伝統的な金融政策と異なる波及経路や効果と副作用が存在するとし、「それらの政策が、経済・物価・金融情勢にもたらす影響について、丹念に検証していく必要がある」と語った。

さらに、人口減少や高齢化の進行を背景とした低金利環境は「金融システムや金融機関のビジネスモデルにも変革を迫る可能性がある」と指摘。

人口減少によって資金需要が低迷し、低金利環境が続けば、金融機関が海外や信用リスクが高い企業向けの投融資を拡大するなど「利回り追求の動きを加速させ、結果として金融システムの不安定化につながる可能性も考えられる」とし、「やや長い目でみれば、合併や統合などによって、供給面の調整を促す可能性もある」と言及した。

一方で、人口動態の変化はイノベーションの促進や、「それを支える新たな金融サービスのニーズを生み出す」とも指摘。金融機関が抱えるリスクが変化する可能性があるとし、当局として「適切にプルーデンス政策を運営していく必要がある」と語った。

(伊藤純夫)