シリアルアントレプレナーとして、数々の事業を興してきた家入一真氏。その活動の原点にあるのは「居場所づくり」であったと振り返る。
家入氏にとってお金とは何か?「MONEY UPDATE」の主題にちなみ、そのマネーヒストリーを聞いた。

引きこもり、パソコン通信に明け暮れた10代

──はじめまして。今日はよろしくお願いします。
家入 よろしくお願いします。ぼく、人見知りなので全然目を見て話せないんですけど、奥井さんのことが嫌いとかではないので、気にしないでくださいね。
──はい(笑)。今日は家入さんがこれまでの人生で、何にお金を使ってきたのかをお聞きしたいと思っています。まず、10代の頃はいかがでしょうか?
家入 僕は中学2年生で不登校になり、それからずっとひきこもっていました。
何をやっていたかと言えば、パソコン。それも、今のようなインターネットはまだなく、パソコン通信の時代です。この当時の僕にとっては、パソコンの向こう側にいる見知らぬ人たちとの繋がりが社会との唯一の接点で、それが大切な心の拠り所になっていました。なのでお金は、もっぱら通信費に使っていました。
今のように常時接続サービスもありませんから、時間単位で電話代がどんどん課金されてしまいます。うっかりすると月に5~6万もかかることがあり、親からよく怒られていましたね。
──パソコン通信の世界は、当時の家入さんにとって心地のいい場所だったんですね。
家入 やり取りしている相手の名前も性別も年齢もよくわからないんですけど、むしろそれがよかった。逆に、僕がひきこもりの中学生だなんて誰も知らないので、時には大人のふりをしてチャットをすることもありました。
これがなければ、もっと病んでいたかもしれません。
──当時、そうした見知らぬ人たちと、どんな話題で盛り上がっていたのですか?
家入 基本的には他愛のない雑談ばかりでしたが、たまに自分が描いた絵をアップしたり、打ち込んだ音楽をアップしたりもしていたので、その感想やアドバイスをもらうこともありました。
いつもチャットルームで僕の話を熱心に聞いてくれる人がいたんですよ。嬉しくてしょっちゅうやりとりしてたんですけど、1年ほどしてからその相手がbotだとわかったこともありました(笑)。
今にして思えば、僕の発言をオウム返しするようなレスが多かった気もするんですけど、それでも人は誰かに話を聞いてもらえるだけで、これほど癒やされるものなのだなと実感しましたね。
──それは今のお仕事に通じる発見と言えそうですね。
家入 そうですね。僕自身、居場所がなくて苦しんでいましたから。実際、その後の20代、30代は主に、コミュニケーションや居場所づくりにお金を使うことになります。

「お金さえあれば人は集まる」飲み代をばらまいた20代

──では、20代になると生活はどのように変化しましたか。
家入 僕は10代の終わり頃から、何度か就職をしているんです。でも、ずっとひきこもっていた人間なので、どこにも馴染めません。
まず、朝ちゃんと時間を守って出勤することができないし、上司や同僚とのコミュニケーションも取れない。そのうち会社へ行かなくなってクビになることの繰り返しで、これはもう就職は諦めて、自分でビジネスをつくるしか道はないと気付かされました。
そうして21歳のときに起業したのがpaperboy&co.です。
最初は自分1人だけのスタートでしたが、幸いにして順調にサービスが拡大し、少しずつ社員も増えていきました。この時、“居場所をつくっている”という感覚が強く得られたことが、その後の人生に強く影響しています。
──会社というのは家入さんにとって大切なコミュニティだったんですね。
家入 僕は既存の居場所には馴染めませんでしたが、自分で自分の居場所を作ることはできるんだな、と。
もちろん、経営にはいろいろトラブルも付き物ですけど、それでも集まってきた仲間と一緒に仕事を作っていく中で、「やっててよかった」と思える瞬間が何度もありました。
──20代の頃の家入さんは、月に2000万円も使うほど飲み歩いたという逸話も……。
家入 そうですね(苦笑)。最初はお酒なんてまったく飲めなかったんですが、25歳で東京に進出してから、いわゆる“76世代”と呼ばれる同世代の経営者とたくさん出会いました。彼らと飲みながら語り合ううちに少しずつ飲めるようになり、やがて青春時代を取り戻そうと、酒量がどんどん増えていきました。
僕はお酒の席でいろんな人を集めて、そこで皆が繋がって楽しそうに話している様子を見るのが好きなんです。自分は会話に入らず、端っこでそれを見ていられれば十分で、最後にお会計を引き受けるのがまた気持ちいい。
時には10人、20人でVIPルームを使うようなこともありましたから、お酒だけでとんでもない金額を使う月もありました。まあ、ろくでもない使い方ですよ。その時に得た仲間は、かけがえがないけど。
──それもまた、家入さんにとっては大切な居場所だったということですね。
家入 語弊があるかもしれませんが、お金を持っていれば人を集めることができるんだとわかり、それが楽しかったんでしょうね。僕を介して知り合った人同士が、後に一緒にビジネスを始めたりするのも嬉しいですし。

お金に感情をのせる

──そして29歳の時に史上最年少で上場を果たした家入さん。30代はいっそう実業家として本領を発揮した印象です。
家入 まず「リバ邸」を作りました。これはかつての僕と同様に、居場所がなくて苦しんでいる若い人たちに向けた“現代の駆け込み寺”で、「自分が10代の時にこういう場所があれば……」という気持ちから作ったシェアハウスです。
今、全国30箇所くらいに広がっていますが、ビジネスとしての収益はなく、むしろ出費ばかりがかさむ取り組みです。
でも、長い目で見れば、リバ邸で生活していた子たちがやがて起業して成功することは僕にとってメリットで、その意味では投資と言えなくもないですね。
──つまり、30代のお金の使い方は「居場所づくり」。多忙な生活の中、なぜ下の世代のためにそこまでできるのでしょう。
家入 これはあくまで個人的な考えですが、資本主義はもう行くところまで行ってしまい、すでに揺り戻しの時期に入っていると感じます。それを「ゆとり世代」や「さとり世代」と呼ばれる今の若い世代はなんとなくわかっていて、お金を持つことが唯一の正解だった時代を理解できずにいます。
がむしゃらに働けば会社も家庭も豊かになり、所得が上がることが幸せであるというのは昔の話。だから、何を目指すのが幸せに繋がるのかが、非常に見えにくいわけです。そのため今の世代は「欲がない」と言われがちですが、そうではなく、彼らがまた別の目的を見つけることができれば、ちゃんと頑張れるはずなんですよ。
──家入さんが作ろうとしているのは、そうした目的に出会う場所である、と。
家入 そうですね。社会貢献活動だったり、社会課題に向けた取り組みだったり、自分がどうなりたいかより、自分がやっていることに意味を見出したいのが今の若い世代なのだと思います。
──30代以降、金銭面で困った時期はありますか?
家入 paperboy&co.を売却したあと、飲食店をいくつかやってみたのですが、これが全然うまくいかず、あっという間にお金が底を尽いて、厳しい時期を迎えました。33歳くらいの時のことです。
カードの支払いができず、持っていた時計を売らざるを得なくなったこともありました。いいカードってコンシェルジュがついてるんですよ。飛行機とかホテルとか、なんでも愛想良く世話してくれるんですけど、逆に言うとカードの使い方を全部把握されていて……。
支払いが滞ったとき、聞いたことのない冷たい声で「先日お買い上げになった時計を、お売りになってはいかがでしょうか?」って言われて(笑)。
お金がなくなるといなくなってしまう人も多く、精神的にかなり参っていましたが、リバ邸など社会活動に目線を変えたことで打開することができました。
──家入さんにとって、お金とは何でしょうか。
家入 コミュニケーションのための手段ですね。今、電子化によるキャッシュレス化が進んでいますが、お金が質量を失えば流通にかかるコストが低くなり、いっそうコミュニケーションツールとして機能しやすくなると思うんです。
僕が言うとポジショントークになっちゃいますけど、その好例がクラウドファンディングで、誰かの目的を応援するためにお金を出すというのは、いわばお金に感情が乗るということ。
「お金に色はない」とよく言われますが、僕はむしろどんどん色を付けていきたいと思っています。現金を渡すのには抵抗があっても、共感や感謝の対価として、ポイント感覚で手軽に電子マネーが飛び交うようになれば、もっと楽しい世の中になるのではないでしょうか。
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